
2026年のIPO市場は、同じ年とは思えないほど途中で表情が変わったのだ。2〜3月は6件すべてが公募割れ。ところが6〜8月は8件中7件が初値高で、平均騰落率は+33.8%になった。相場全体が急に良くなったわけではない。変わったのは、IPO市場そのものの空気だった。
この記事でわかること
- 2026年のIPOは「上期/下期」ではなく、3つの局面に分かれている
- 公募割れ → 発行体の様子見 → 価格の保守化 → 初値高、という循環が1周した
- その循環を踏まえて、9月の9件ラッシュをどう見るか
1. まず全案件を並べてみる
2026年に上場したのは8月26日時点で22社(不動産投資法人を除く)。全案件の初値騰落率を、上場月ごとに点で置いたのが図1になる。
※ 騰落率は公開価格に対する初値の変化率。+80%を超える2件は上限マーカーで表示している。1月と5月は上場ゼロ。
形がはっきり出ている。2〜3月の6件は全部マイナス。しかも▲7〜8%台に固まっていて、これは「引受価額を割り込む手前で止まった」典型的な公募割れの並び方だ。
そこから4月に入ると点が上下に散らばりはじめ、6月以降はほぼ全部が0%より上に移る。1月と5月は上場がゼロで、特に5月の空白がちょうど景色の変わり目に位置している。
2. 「上期/下期」ではなく、3つの局面
この年を前半・後半で切ると実態を見誤る。転換は4月の途中で起きているからだ。3つの局面に分けて属性を並べたのが図2になる。
※ 金額加重の平均騰落率は「初値売り損益の合計 ÷ 公開価格の合計」。事前評価は庶民のIPOによる5段階評価(S〜D)を参照した。
読み取れることが3つある。
- 件数そのものが動いている。2〜3月は6件、4月に8件と増え、5月はゼロ、6〜8月で8件
- 市場の構成が入れ替わった。2〜3月はスタンダードが混ざっていたが、6〜8月は8件中7件がグロース
- 公開価格帯が下がった。平均公開価格は2〜3月の1,693円から6〜8月は1,047円へ
公開価格が下がったということは、1単元あたりの必要資金が減ったということでもある。個人投資家が申し込みやすいサイズの案件が増えたわけだ。これは初値の付き方に直接効いてくる。
単純平均と金額加重平均
通年で見ると、単純平均は+23.8%、金額加重平均は+16.9%になる。加重のほうが低いのは、公開価格の高い案件ほど成績が悪かったからだ。「小さい案件ほど跳ねやすい」という傾向が、2026年もそのまま出ている。
3. 評価の側が、先に変わっていた
ここが今回いちばん面白い部分になる。上場前につけられた事前評価の構成が、局面ごとにまったく違う。
※ 評価は庶民のIPOによる5段階評価(S・A・B・C・D)。9月案件の一部は評価未定のため集計に含まない。第三者による事前評価であり、当ブログの評価ではない。
2〜3月の6件のうち、B評価は1件だけ。残りはCが4件とDが1件だった。ところが6〜8月は8件すべてがB評価。CもDも1件もない。
これは偶然ではない。事前評価は、吸収金額の大きさ、業績、オファリングレシオ、そして直近のIPOがどう終わったかを織り込んでつけられる。2月に3連敗した直後の3月案件は評価が辛くなり、6月に連勝が続けば7月の案件は評価が甘くなる。評価そのものが、直前の結果に引きずられているのだ。
そして評価が辛いということは、仮条件や公開価格も控えめに置かれるということでもある。ここに循環の入口がある。
4. 空気が循環する仕組み
順番に追うと、こうなる。
- ① 公募割れが続く……買い手が引き、初値が公開価格を下回る。2026年は2〜3月がこれ
- ② 発行体が様子見に回る……「今出しても評価されない」と判断し、上場を先送りする。案件数が減る。5月のゼロ件がこれ
- ③ 価格が控えめに置かれる……ようやく出てきた案件は、前回の失敗を踏まえて保守的に値付けされる。結果、初値が跳ねやすくなる
- ④ 参加者が戻ってくる……初値高が続き、申込みが増え、案件も増える。そしてまた①の芽が育つ
重要なのは、この循環が企業の中身とはほぼ無関係に回るという点だ。2月に上場した会社が3月に上場していれば結果は違ったかもしれないし、その逆もある。IPOの初値には、企業価値だけでは説明できない順番の運が混ざっている。
初心者向けの読み替え
「このIPOは良さそうか」を考えるとき、その会社の資料だけを見ても半分しかわからないのだ。直前の数件がどう終わったかを確認するだけで、今がループのどのあたりかが見えてくる。
5. 5月の空白が効いた
2026年の反転を語るうえで外せないのが、5月に上場が1件もなかったことだ。
4月は8件が集中し、うち2件が公募割れした。そのまま5月に案件が続いていれば、公募割れの記憶が新しいまま次が来る。ところが約1か月半の空白が入った。この間に4月のバトンズ(+153.6%)やソフトテックス(+65.0%)の成功だけが記憶に残り、失敗のほうは薄れていく。
そして6月16日、久しぶりのIPOとして登場したのが吸収金額971.5億円のGO(581A)だった。「約2か月ぶりのIPOは過熱しやすい」というのはIPO投資でよく言われる経験則で、実際GOは重い需給にもかかわらず初値が+21.3%になっている。
GOとティアフォーの需給構造の違いについては、こちらの記事で吸収金額の内訳から分解している。
6. では、9月の9件ラッシュはどう見るか
9月には9社の上場が予定されている。これは2026年で最も密度の高い月になる。
※ 2026年8月26日時点の予定。価格は想定価格(KOMPEITOのみ仮条件)。評価は庶民のIPOによる事前評価で、「-」は執筆時点で未定。日程・条件は変更される可能性がある。
注目すべきは9月18日に4件が重なることと、ブックビルディング期間が9月上旬に折り重なっていることだ。これは2つの意味を持つ。
- 抽選資金が分散する。同時期に複数の申込みをすると、証券会社によっては資金を拘束される。全部に申し込める人は多くない
- 案件数の増加は、ループの④にあたる。初値高が続いたから発行体が出してきた、という順序になっている
つまり9月は、循環のなかでは「そろそろ供給が増えてきた」局面に位置する。図4でいえば④から①へ向かう手前だ。ただしこれは「9月案件が危ない」という意味ではない。件数が増えれば結果のばらつきも大きくなる、というだけのことだ。実際、事前評価はA(akippa)からC(オリバー、Skyfall、かがやきHD)まで分かれている。
7. まとめ
- 2026年は3つの局面に分かれる。2〜3月(6戦6敗)、4月(転換)、6〜8月(8戦7勝)
- 変わったのは相場ではなく市場の空気。案件数、市場構成、公開価格帯、事前評価がまとめて入れ替わった
- 評価の側が先に動いた。2〜3月はB評価が1件、6〜8月は8件全部がB
- 5月の空白がリセットとして働いた。約1か月半の間隔が、公募割れの記憶を薄めた
- 初値には順番の運が混ざる。同じ会社でも、上場した月が違えば結果は違い得る
- 9月の9件はループの④。供給が増える局面であり、結果のばらつきも大きくなりやすい
IPOに申し込むとき、その会社の目論見書を読むのはもちろん大事なのだ。ただ、それと同じくらい直前の数件がどう終わったかを見ておくと、今がループのどこにいるのかがわかる。2026年はそれが1年のなかで1周した、めずらしい年だったのだ。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は公開情報に基づく筆者の集計であり、正確性を保証するものではありません。9月の上場日程・条件は変更される可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。









