
2026年6月22日、日経平均株価は取引時間中に史上最高値72,831円をつけました。ところがその翌営業日(6/23)には前日比2,560円安と歴代5位の暴落。木曜(6/25)には3,000円超の急反発で再び最高値圏に戻したかと思えば、金曜(6/26)には下落幅が史上3位の3,005円安──。わずか一週間で天国と地獄を往復するような値動きでした。本記事では、この「7万円相場」の乱高下を、①なぜ最高値をつけられたのか、②なぜ暴落したのか、③反発は本物か、という3つの問いに分解し、中級者向けに需給構造から読み解きます。
指数が1日で2,500〜3,000円動くと、「日本株全体が大きく売られた」と感じます。しかし実際には、ごく一部の値がさ株が指数全体を激しく振り回しているにすぎません。乱高下の本質を理解する鍵は、「日経平均という指数の中身」と「NT倍率という歪みの物差し」にあります。順を追って見ていきましょう。
まず、事実関係を時系列で整理する
この一週間の値動きは、近年でも際立って荒い展開でした。年初来安値(3/31の50,558円)からわずか3か月弱で最高値72,831円まで駆け上がり、そこから歴代級の上下動を繰り返しています。
暴落の引き金:半導体・メモリの「世界同時安」
直接の引き金は、日本ではなく韓国・米国の半導体株でした。6月23日(火)、韓国のSKハイニックスが急落し、サムスン電子とともに揃って12%超下落。両社で時価総額の約半分を占める韓国総合株価指数(KOSPI)は1日で約10%安となり、サーキットブレーカー(取引の一時停止)が発動する「暗黒の火曜日」となりました。
この流れは米国にも波及し、半導体株の指標であるSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は7.9%の大幅安。日本の半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン、アドバンテスト等)は韓国メモリ大手の設備投資動向と一蓮托生の関係にあるため、「AIメモリバブル崩壊の始まりか」という恐怖が東京市場を直撃しました。市場の不安心理を示す日経ボラティリティ・インデックス(日経VI)は「40」という異常値を突破(通常は20以下、30超で警戒水準)し、リスクオフが連鎖的に広がりました。
この下落には、6月24日のマイクロン・テクノロジーの決算を前にしたポジション調整の側面もありました。メモリ大手の決算をまたぐリスクを嫌った手仕舞い売りが先行したのです。実際の決算は売上前年比+346%という過去最高の好内容で一旦は買い戻しを誘いましたが、6月29日には韓国政府が約800兆ウォンの過去最大の半導体投資計画を発表し、供給過剰懸念から再びメモリ株が下落するなど、神経質な地合いが続いています。
暴落を増幅させた「御三家依存」という構造
ここが乱高下を理解する最大のポイントです。6月23日の下落幅2,560円のうち、その大半を「AI相場の御三家」と呼ばれるたった3銘柄が生み出していました。ソフトバンクグループ・東京エレクトロン・キオクシアの3社だけで、日経平均を約1,459円も押し下げたのです。さらにファーストリテイリングとアドバンテストを加えた上位5銘柄では、押し下げ幅が約1,775円に達しました。
なぜこんなことが起きるのか。日経平均は「株価の高い銘柄(値がさ株)」ほど指数への影響が大きくなる株価平均型の指数だからです。AI・半導体関連の値がさ株に買いが集中して指数を押し上げてきた裏返しで、いざ売られると同じ銘柄が指数を一気に引きずり下ろす。上昇も下落も同じメカニズムの表と裏なのです。
相場の「歪み」を測る物差し:NT倍率
この一極集中の度合いを示すのがNT倍率です。日経平均をTOPIX(東証株価指数)で割った値で、値がさのハイテク株が優勢だと上昇し、銀行・自動車など時価総額の大きい銘柄が優勢だと低下します。歴史的には10〜13倍のレンジで推移してきましたが、足元では16倍超と過去最高水準まで切り上がっていました。
NT倍率が過去最高ということは、「TOPIXが置き去りのまま、日経平均だけが一部のハイテク株で吊り上がっている」状態を意味します。野村證券も、ファンダメンタルズ面からはNT倍率の緩やかな低下を見込んでおり、過熱の反動が今回の急落として表面化した側面があります。
反発は本物か──年末に向けたシナリオ
では、6月29日からの反発は持続するのでしょうか。市場関係者の見方は強気・慎重が交錯しています。証券会社各社の2026年末予想を並べると、前提(AI・半導体業績の持続性、日銀の利上げペース、米景気)次第で振れ幅がかなり大きいことが分かります。
慎重シナリオの根拠は明快です。米ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)のAI設備投資は2026年10-12月期をピークに伸び率が鈍化する見通しで、SOX指数や日経半導体指数がそれに先行して鈍化する可能性がある。そこに日米中銀のタカ派化(利上げ志向)が重なれば、AI・半導体銘柄は脆弱になりやすい──というロジックです。来週(6/29〜7/3)の予想レンジは64,000〜72,000円と、依然として広く取られています。
物色の変化:資金はどこへ向かうのか
乱高下のなかで、市場では静かな変化も起きています。これまで相場を牽引してきたAI・半導体から、出遅れていたセクターへ資金が循環し始めている兆しです。
まとめ:指数の「数字」ではなく「中身」を見る
今回の7万円相場の乱高下は、偶然のパニックではなく、①AI・半導体への極端な一極集中、②値がさ株の影響が大きい日経平均の指数構造、③NT倍率の過熱(歪み)という3つの要因が重なった必然的な結果でした。上昇を牽引した同じ銘柄が、下落も主導する。これがテーマ集中相場の宿命です。
中級者にとっての教訓は明快です。「日経平均が○円動いた」という数字だけを見るのではなく、誰がその動きを作っているのか(寄与度)、相場が歪んでいないか(NT倍率)、資金がどこへ向かっているか(セクター循環)という"中身"を確認すること。指数の額面に振り回されず、構造を見れば、乱高下相場でも冷静な判断軸を保てます。




