
2026年のIPO市場で最も注目された2社が、正反対の結果になったのだ。タクシーアプリのGO(581A)は初値が公開価格を21.3%上回り、自動運転ソフトのティアフォー(593A)は7.0%下回った。どちらも「東証グロースの大型案件」で「モビリティ」で「自動運転がテーマ」。それでも結果が分かれた理由は、事業の良し悪しではなく需給構造の違いにある。
この記事でわかること
- 「吸収金額が大きい」だけでは初値は読めない。中身の割り方が要る
- 公募と売出の違いが、上場後の株価にどう効いてくるか
- 初値の勝ち負けと、3か月後の勝ち負けは一致しなかった
1. 数字だけ先に並べる
まず、両社のIPO条件を並べる。似ているようで、決定的に違う項目が混ざっている。
| 項目 | GO(581A) | ティアフォー(593A) |
|---|---|---|
| 上場日 | 2026/6/16 | 2026/7/22 |
| 市場 | 東証グロース | 東証グロース |
| 公開価格 | 2,400円 | 1,085円 |
| 初値 | 2,910円(+21.3%) | 1,009円(▲7.0%) |
| 吸収金額 | 971.5億円 | 267.2億円 |
| オファリングレシオ | 52.1% | 38.7% |
| 公募株数 | 0株 | 17,449,600株 |
| 売出株数 | 36,936,900株 | 3,968,400株 |
| 海外販売比率 | 売出の76.7% | 公募の49.4% |
| 主幹事 | 野村/GS/BofA/大和 | 三菱UFJMS/MSMUFG/SMBC日興 |
| ロックアップ解除 | 2026/12/12(180日) | 2027/1/17(180日) |
吸収金額を見ると、GOはティアフォーの3.6倍。「大きいほど需給が重い=初値が上がりにくい」という一般論に従うなら、初値で負けるのはGOのはずだった。実際は逆になっている。ここに、この記事で分解したい構造がある。
2. 吸収金額を「誰が売ったか」で割る
IPOで市場に出る株には、大きく2種類ある。
- 公募(新規発行)……会社が新しく株を発行して売る。代金は会社に入る
- 売出(既存株の放出)……もともとの株主が持ち株を売る。代金はその株主に入る
この違いを踏まえて、両社の吸収金額を割ったのが図1になる。
※ 金額は公開価格ベースでの筆者試算。端数処理により合計が一致しない場合がある。
GOの公募株数はゼロ。971.5億円は全額が既存株主の売却代金であり、会社の手元には1円も入っていない。売り手はDeNA(1,612万株)、NTTドコモ(1,136万株)、トヨタ自動車(125万株)、あいおいニッセイ同和損保(240万株)など。大株主の出口(イグジット)としてのIPOという性格が強い。
対してティアフォーは、267.2億円のうち約189億円が公募。つまり会社に研究開発資金が入る構造だった。売出は43億円分にとどまり、ジャフコ系ファンドやUTECといったベンチャーキャピタルの部分回収に近い。
初心者向けの読み替え
「吸収金額◯◯億円」という数字だけを見て重い・軽いを判断すると、この2社の差は説明できないのだ。その金額が会社の成長に使われるのか、株主の現金化に消えるのかを分けて見るのが第一歩になる。
3. なぜ需給の重さが初値を左右するのか
初値は、上場日の朝に集まった買い注文と売り注文がぶつかって決まる。ここで効いてくるのが単純な足し算だ。
- 売り注文の上限は、ほぼ吸収金額で決まっている(当選者が全員売っても、その金額が上限)
- 買い注文は、上場日の相場環境と知名度と、機関投資家がどれだけ残るかで決まる
GOの971.5億円は、東証グロース市場としては異例の大きさだった。ただしGOの場合、売出の76.7%が海外投資家向けだった点が効いている。海外の機関投資家は初日に投げ売りする主体ではないため、実際に初日の板に出てくる売り圧力は、吸収金額の額面ほどではなかった。加えて主要株主には解除条件のないロックアップがかかっていた。
ティアフォーの267.2億円は、額面だけならGOの4分の1強。しかしオファリングレシオ(発行済株式に対する放出割合)は38.7%あり、しかも赤字企業である。買い手側の裾野が「テーマに賭ける投資家」に限られるため、売り圧力の絶対額ではなく、買い手の薄さが効いた。
4. 買い手の厚みを決めたのは、収益構造の差だった
※ GOは2026年5月期実績(連結)、ティアフォーは2026年9月期の会社予想(連結)。
GOは2026年5月期に売上高414.5億円、営業利益70.4億円を計上した。営業利益率は17.0%で、前期の8.7%から大きく改善している。配車が1回増えるごとに手数料が積み上がり、決済・広告・法人向けDXが上乗せされる。台数が増えるほど固定費が薄まる、いわゆるプラットフォーム型の伸び方だ。PER(株価収益率)で評価できる状態にあった。公開価格ベースのPERは29.1倍。
ティアフォーは2026年9月期に売上高84.8億円に対して営業損失112.3億円、研究開発費95.5億円を見込む。研究開発費が売上高を上回っている。利益が出ていないのでPERは計算できず、PSR(株価売上高倍率)やDCFのような、前提の置き方で答えが何倍にも変わる手法に頼らざるを得ない。
さらにティアフォーは、2025年12月時点の未上場評価額1,037億円に対し、想定価格ベースの時価総額が644.8億円だった。約38%のダウンラウンド上場である。「前回より安く出さないと売れなかった」という事実そのものが、買い手に慎重さを促した。
押さえておきたい対比
需給の重さは「売りの量」と「買いの厚み」の比で決まる。GOは売りが大量にあったが、利益が出ていたので買い手も厚かった。ティアフォーは売りが中規模だったが、赤字で買い手が薄かった。比を見ないと、片方の数字だけでは判断を誤る。
5. ところが、初値のあとに逆転が起きている
※ 終値ベース。GOの8/25終値、ティアフォーの8/24値をもとに算出。株価は変動するため最新値は各自ご確認いただきたい。
ここからが本題になる。初値で勝ったGOは、上場からわずか4営業日後の6月19日に公開価格を割り込んだ。この日はグロース250指数が5か月ぶり安値をつけた日でもあり、市場環境と重い需給が重なった格好だ。初値の2,910円で買った投資家は、その時点で含み損を抱えている。
その後、7月14日に2026年5月期の本決算が発表される。売上高414.5億円(前期比+31.8%)、営業利益70.4億円(同+158.1%)と会社予想を達成し、株価はここから水準を切り上げていく。8月25日終値は3,875円で、公開価格比では約1.6倍になっている。
一方のティアフォーは、初値で公開価格を7.0%下回ったあと、8月24日には1,187円まで戻している。公開価格比で約9%上。初値で負けた側が、その後は公開価格を回復した。
整理すると、こうなる。
| 局面 | GO | ティアフォー |
|---|---|---|
| 初値 | 勝ち(+21.3%) | 負け(▲7.0%) |
| 上場数日後 | 公開価格割れ | 公開価格近辺 |
| 8月下旬 | 約1.6倍 | 公開価格比 約+9% |
需給の重さは上場直後の一時的な圧力であって、そこから先を決めるのは業績だった、というのがこの2社から読み取れる形になる。GOの場合、決算という材料が需給の重さを上書きした。
6. そもそも両社は競合ではない
「自動運転」というキーワードで並べると同じ土俵に見えるが、両社が担っている層は違う。
ティアフォーはオープンソースの自動運転ソフト「Autoware」を基盤とする③のレイヤー専業。2026年3月時点で39都道府県・127地域での実証実験実績があり、協業先のOEM・Tier1サプライヤーは18社にのぼる。
GOは④と⑤を押さえている。全国47都道府県・約8.5万台のタクシーとつながり、累計3,500万ダウンロードの利用者基盤を持つ。自動運転車が実用化されたとき、その車に客を乗せるのは配車アプリと運行管理の仕組みである。GOはWaymoおよび日本交通と自動運転タクシーのプロジェクトを進めている。
つまり両社は、競合ではなくつながりうる関係にある。片方が伸びればもう片方の前提が整う、という構図だ。ここを混同すると「自動運転関連株」としてひとまとめに売買してしまい、まったく違うリスクを抱えることになる。
7. これから見るべき分岐点
GOの分岐点は2026年12月12日。180日ロックアップが解除され、DeNA(約388万株の残り)、NTTドコモ(約284万株)、日本交通ホールディングス(2,000万株・こちらは360日)などの保有分が売却可能になる。日本交通HDが360日と長い点は下支えになるが、他の株主が動けば需給は再び重くなる。ただし解除日に必ず売られるわけではない。判断材料はそれまでの業績進捗だ。
ティアフォーの分岐点は2027年1月17日のロックアップ解除と、量産開発案件の積み上がりである。2026年9月期予想では、OEM向け量産開発を担うDevelopment Serviceが前期比+86.8%の24.8億円。ここが伸び続ければ「赤字だが売上の質が変わった」という評価に切り替わる余地がある。逆に赤字だけが拡大すれば、ダウンラウンド上場だった事実が再び効いてくる。
8. まとめ
- 吸収金額は額面で比べない。公募か売出か、国内か海外か、で意味がまったく違う
- GOは公募ゼロ。971.5億円は全額が既存株主の売却代金で、会社には入っていない
- ティアフォーは公募中心。267.2億円のうち約189億円が会社の研究開発資金になる
- 需給の重さが効くのは上場直後まで。その先を決めたのは決算だった
- 初値の勝敗は最終結論ではない。初値で勝ったGOは4営業日後に公開価格割れ、初値で負けたティアフォーは1か月後に回復している
- 次の分岐はロックアップ解除。GOは2026年12月、ティアフォーは2027年1月
IPOに申し込むとき、「人気か不人気か」で判断すると、この2社のような案件は読み違える。吸収金額を割って、誰が売っていて、その金がどこへ行くのかを確かめる。それだけで見え方はかなり変わってくるのだ。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は公開情報および目論見書等に基づく筆者の整理であり、正確性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。









