
2026年6月16日と7月22日。わずか36日しか離れていない2つの東証グロース上場が、正反対の結果に終わりました。タクシー配車アプリのGO(581A)は公開価格2,400円に対して初値2,910円、+21.25%。自動運転ソフトウェアのティアフォー(593A)は公開価格1,085円に対して初値1,009円、-7.00%の公募割れです。
どちらも東証グロース、どちらも業種は情報・通信業、どちらも知名度とテーマ性を備えた大型案件でした。それでも結果は割れました。この記事では「需給が重かったから」でも「テーマが弱かったから」でもなく、収益フェーズの差が値付けの土台そのものを変えたという見方を、目論見書の数字だけで追いかけます。
この記事でわかること
- 需給が重かったのは、実は公募割れしなかったGOのほうだった
- 「黒字転換の翌年」と「赤字がまだ拡大する年」で、使えるモノサシが変わる
- 赤字企業のほうがPSRで高く値付けされていた、という逆転
- 次のIPOで使えるチェックポイント5つ
1. まず直感に反する事実から:需給が重かったのはGOのほう
IPOの初値を語るとき、真っ先に持ち出されるのが需給です。市場から吸い上げる金額が大きいほど、発行済株式に対する売り出し比率(オファリングレシオ)が高いほど、初値は上がりにくい。これはおおむね正しい経験則です。
ところが今回の2社では、その経験則が逆を向いています。
| 項目 | GO(581A) | ティアフォー(593A) |
|---|---|---|
| 上場日 | 2026年6月16日 | 2026年7月22日 |
| 吸収金額 | 971.5億円 | 267.2億円 |
| オファリングレシオ | 52.1% | 38.7% |
| 公募株数 | 0株 | 17,449,600株 |
| 売出株数 | 36,936,900株 | 3,968,400株 |
| オーバーアロットメント | 3,546,000株 | 3,212,700株 |
| 公開価格 | 2,400円 | 1,085円 |
| 初値 | 2,910円 | 1,009円 |
| 初値騰落率 | +21.25% | -7.00% |
吸収金額でGOはティアフォーの約3.6倍。オファリングレシオも52.1%対38.7%でGOのほうが高い。さらにGOは公募株がゼロ、つまり調達したお金は1円も会社に入らず、すべて既存株主の売り出しです。会社に資金が入らない売出中心の案件は、一般に投資家からの評価が厳しくなりやすい形です。
一方のティアフォーは、オファリングの7割超が公募。調達資金は研究開発費や量産・事業拡張費に充てられます。教科書的には、こちらのほうが「前向きな上場」に見えるはずでした。
2. GOは「黒字転換の翌年」に上場した
ここから収益フェーズの話に入ります。まずGOの連結業績です。
- 2024年5月期:売上高239.6億円、営業損益-19.1億円(営業利益率 -7.97%)
- 2025年5月期:売上高314.3億円、営業損益+27.3億円(営業利益率 8.68%)
- 2026年5月期 会社予想:売上高408.0億円、営業利益70.0億円(営業利益率 17.2%)
2024年5月期に赤字だった会社が、翌期に黒字転換し、上場する期には営業利益率17%台を見込む。赤字→黒字→利益率拡大という3年分の変化を、投資家は目論見書の上で確認できました。
しかも改善の理由が説明可能です。GOはパートナータクシー事業者におけるアプリ配車の利用率を2021年5月期の10%から2025年5月期には26%まで引き上げてきました。累計ダウンロード数は3,500万、平均MAU312万人、利用可能タクシー台数は約85,000台。配車だけでなく決済・広告・法人向け管理・車載端末でも収益化しています。数字が伸びる仕組みが、KPIとして開示されているわけです。
3. ティアフォーは「赤字がまだ拡大する年」に上場した
対してティアフォーの連結業績です。
- 2024年9月期:売上高38.7億円、経常損益-48.3億円
- 2025年9月期:売上高64.1億円、経常損益-55.0億円
- 2026年9月期 会社予想:売上高84.8億円(前期比+32.4%)、営業損失-112.3億円
売上高は2年で1.6倍、上場する期も+32.4%成長の見込みです。成長率だけ見れば立派な数字です。問題は損益のほうで、2026年9月期の営業損失112.3億円は、同じ期の売上高84.8億円を上回ります。研究開発費95.5億円も売上高を超える見込みで、赤字は縮小ではなく拡大方向です。
事業内容は決して弱くありません。2026年3月時点で実証実験・実装地域は39都道府県127地域、創業からのテスト走行距離は約46.9万km、協業先のOEMおよびTier1サプライヤーは18社。開発プロジェクト顧客数も2024年9月期の7社から2026年3月中間期には13社へ増えています。将来の柱と位置づけるDevelopment Serviceは2026年9月期に前期比+86.8%の伸びを見込んでいます。
それでも、上場した時点で黒字化の時期は示されていません。ここが決定的でした。
4. 値付けの土台:PERが引けるかどうか
収益フェーズの差は、投資家が使えるモノサシの数として現れます。
GOは公開価格2,400円に対し、2026年5月期の会社予想(予想EPS 82.39円)から予想PER29.1倍が計算できました。東証「情報・通信業」の平均PER19.35倍と比べれば割高ですが、営業利益率が8.7%から17.2%へ改善する見込みを踏まえると、割高の理由を説明できる範囲です。比較対象がある、という一点が重要でした。
ティアフォーの2026年9月期の予想EPSは-138.02円。マイナスなのでPERは計算できません。残るモノサシはPSR(株価売上高倍率)とPBRだけです。
そしてここに、この記事でいちばん見てほしい逆転があります。公開価格ベースの時価総額を、それぞれの上場期の予想売上高で割ってみます。
| 指標(公開価格ベース) | GO(581A) | ティアフォー(593A) |
|---|---|---|
| 時価総額 | 1,864.3億円 | 689.2億円 |
| 上場期の予想売上高 | 408.0億円 | 84.8億円 |
| PSR(筆者試算) | 約4.6倍 | 約8.1倍 |
| 予想PER | 29.1倍 | 算出不能(赤字) |
| PBR | 7.78倍(26/5期予想) | 3.72倍(25/9期実績) |
営業利益率17%を見込む会社が売上高の4.6倍、営業損失が売上高を超える会社が売上高の8.1倍。赤字企業のほうが、売上に対して約1.8倍も高く値付けされていたことになります。
さらにティアフォーには、もう一段の重石がありました。2025年12月時点の調達後評価額1,037億円に対し、想定価格ベースの時価総額は644.8億円。約38%のダウンラウンド上場です。未上場時代の投資家がつけた値段を、公開市場が引き下げた形でスタートしたわけです。
5. 初日の値動きが語ったこと
ティアフォーの上場初日、東証は気配運用の上限を2,496円(初値の上限価格は2,546円)まで用意していました。公開価格の2.3倍まで買い上がれる設計です。しかし実際の寄り付きは1,009円。上限どころか、下方向で値がつきました。
注目したいのは、この1,009円という数字です。幹事証券の引受価額は1,009.05円でした。初値はほぼ引受価額ちょうどで形成されています。引受価額は幹事証券が発行会社から株式を引き取った値段で、公募割れ時に株価が下げ止まる目安としてしばしば意識される水準です。
その後の初日の値動きは荒いものでした。始値1,009円から安値896円まで下げ、買い戻しで高値1,081円まで戻し、終値は1,015円。出来高1,955万8,000株、売買代金は約196億円に達しています。時間外のPTSでは1,045円と、東証終値を2.96%上回りました。
売買代金196億円は吸収金額267.2億円に対してかなりの水準で、初日から相当量の入れ替わりが起きたことを示しています。「テーマは買いたいが、この値段では買えない」という投資家の判断が、そのまま出来高になった格好です。
6. ただし「赤字だから公募割れ」ではない
ここまでの整理を、そのまま単純化するのは危険です。赤字企業やダウンラウンド上場が必ず公募割れするわけではありません。
ダウンラウンド上場という同じ条件の直近案件を並べると、結果はきれいに割れています。
| 上場日 | 銘柄 | 初値騰落率 |
|---|---|---|
| 2025/11/05 | クラシコ | +135.25% |
| 2025/12/05 | FUNDINNO | +42.42% |
| 2025/12/18 | ミラティブ | -12.67% |
| 2025/12/19 | パワーエックス | -7.38% |
| 2026/06/23 | LiNKX | +36.08% |
同じ東証グロース・情報通信業でも、ティアフォーの1週間前に上場したチャットプラス(598A)は公開価格1,080円に対して初値2,284円、+111.48%でした。地合いが悪かったわけではありません。
つまり収益フェーズは「唯一の要因」ではなく、吸収金額の大きさと組み合わさったときに効く要因です。吸収金額が小さければ、赤字でもテーマ性だけで初値は跳ねます。吸収267.2億円という規模が、機関投資家に説明可能な値付け根拠を要求し、そこでPERが引けないことが効いた。この順序で理解するのが妥当だと考えます。
7. 次のIPOで使える5つのチェックポイント
この2社の比較から取り出せる、目論見書を開いたときの確認項目です。
- 予想EPSはプラスか:マイナスならPERは引けません。値付けの根拠がPSR一本になるため、同業や類似上場企業のPSRと必ず突き合わせます。
- PSRは説明できる水準か:赤字企業のPSRが黒字企業より高い場合、その差を成長率で説明できるかを確認します。ティアフォーの成長率+32.4%は、GOの+29.8%と大きく変わりませんでした。
- ダウンラウンドかどうか:直近の資金調達時の評価額と、想定時価総額を比較します。下回っていれば、未上場投資家が含み損を抱えた状態でのスタートです。
- 吸収金額とオファリングレシオ:ただし今回のように、これだけでは方向を読み違えます。規模は「値付け根拠がどれだけ厳しく問われるか」を決める変数として見ます。
- ロックアップの期限:GOは180日で2026年12月12日(日本交通ホールディングスのみ360日)、ティアフォーは180日で2027年1月17日。解除日は上場時点でカレンダーに入れておく情報です。
まとめ
GOとティアフォーを分けたのは、需給の重さでもテーマの強さでもありませんでした。黒字転換を終えてPERが引ける会社と、赤字が拡大中でPSRしか引けない会社。この差が、大型オファリングの値付けで決定的に効きました。しかも赤字側のPSRが黒字側の約1.8倍だったことが、公募割れの直接の引き金になったと見るのが自然です。
ティアフォーの事業そのものを否定する話ではありません。自動運転は地方交通と物流の人手不足に直結する分野で、国策としての後押しもあります。ここで問われたのは事業の良し悪しではなく、この会社を、この値段で、このタイミングで公開市場に出したことの妥当性です。良い会社と良いタイミングは、必ずしも一致しません。
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は各社の目論見書・訂正有価証券届出書および東証公表値に基づきますが、正確性を保証するものではありません。PSRなど一部の指標は筆者試算です。投資判断はご自身の責任でお願いします。





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