
2026年9月11日に東証グロースへ上場するKOMPEITO(618A)は、オフィスに冷蔵庫を置く設置型社食「OFFICE DE YASAI」の会社なのだ。長く赤字だったが、2026年8月期の第3四半期でついに黒字転換した。ただし「黒字転換」という言葉だけで判断すると、いくつか見落とす。この記事では有価証券届出書を開いて、その中身を分解する。
この記事でわかること
- 黒字転換の正体は何だったのか(粗利ではなく販管費)
- 四半期に割り直すと、利益の勢いは3Qで鈍っている
- 公募比率1.04%という、この案件の需給構造
1. まず「黒字転換」の中身を開ける
数字を並べる。単位は億円で、2026年8月期は第3四半期までの累計だ。
| 決算期 | 売上高 | 営業損益 | 売上総利益率 | 販管費率 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年8月期 | 31.0億円 | ▲4.5億円 | 65.2% | 79.8% |
| 2025年8月期 | 57.4億円 | ▲2.3億円 | 66.0% | 69.9% |
| 2026年8月期 3Q累計 | 70.5億円 | +6.7億円 | 65.9% | 55.2% |
| 2026年8月期 会社目標 | 96.5億円 | - | - | - |
※ 有価証券届出書(2026年8月12日提出)の連結数値をもとに筆者作成。2026年8月期は第3四半期累計。会社目標は同書記載の売上高9,645百万円。
ここが一番の発見になる。売上総利益率は65〜66%でほとんど動いていない。つまり商品を仕入れて届けるところの採算は、この3年で改善していない。
動いたのは販管費率のほうだ。79.8% → 69.9% → 55.2%と、2年で25ポイント近く下がっている。売上が31億円から70億円へ伸びるあいだ、人件費や広告費といった固定的な費用がそこまで増えなかった。だから黒字になった。
初心者向けの読み替え
黒字転換には2種類ある。「1個売るごとの儲けが増えた」のか、「売る数が増えて固定費が薄まった」のか。KOMPEITOは明確に後者なのだ。悪いことではないが、意味はまったく違う。前者なら値上げやコスト改善が効いた証拠、後者は売上の伸びが止まった瞬間に逆回転する可能性を含んでいる。
2. 四半期に割ると、勢いは鈍っている
「3Q累計で営業利益6.7億円」という数字は、9か月分の合計だ。期間の長さが違うものを比べるために、1か月あたりに直してみる。
※ 四半期単独の数値は開示されていないため、3Q累計から中間期を差し引いて筆者が算出した。
売上は伸びている。月平均744.7百万円から860.0百万円へ、+15.5%だ。
ところが営業利益は逆で、月平均79.8百万円から64.1百万円へ▲19.7%。営業利益率も10.72%から7.45%に落ちている。売上が増えているのに、利益は減っているということだ。
理由は届出書からは特定できない。上場準備に伴う費用なのか、M&Aで取り込んだ子会社の採算なのか、広告投資を再び増やしたのか、あるいは季節性なのか。ただ「黒字転換して勢いに乗っている」という一本調子の理解は、この数字とは合わない。ここは押さえておきたい。
3. M&Aはどれだけ効いているのか
KOMPEITOは2024年以降、宅配業者3社の事業を譲り受け、2025年10月には給食事業者の優食を子会社化している。買った会社の売上はそのまま連結売上に乗るので、成長率のどこまでが本業の伸びなのかを確かめる必要がある。
2025年8月期については答えが出せる。連結売上57.37億円に対して単体売上は55.77億円なので、子会社の寄与は1.60億円、全体の2.8%。つまりこの期の85%成長は、ほぼ本業の伸びだった。ここは評価していい。
問題は2026年8月期だ。優食の子会社化と乳販店の事業譲受はこの期に集中している。しかしKOMPEITOは単一セグメントとして開示しているため、セグメント情報がない。届出書を最後まで読んでも、2026年8月期の売上70.5億円のうち、買収した事業がいくら乗っているのかはわからない。
これは批判ではなく、事実の指摘
単一セグメント開示そのものは会計基準上まったく問題ない。ただ投資家の側から見ると、成長率の質を検証できないという状態になる。上場後の決算説明資料でこの内訳が示されるかどうかは、この会社を見続けるうえでの最初のチェックポイントになるのだ。
なお救いもある。3Q末ののれんは5,360万円で、総資産40.5億円の1.3%しかない。買収規模が小さいので、のれん減損で吹き飛ぶリスクは限定的だ。そして粗利率が65〜66%で崩れていないことは、利益率の低い宅配事業を取り込んでも全体の採算を毀損していないことを示している。
4. 利益の質について、もう2つ
数字を素直に受け取る前に、確認しておきたい点が2つある。
ひとつは税金だ。3Q累計の税引前利益は6.73億円、純利益は5.55億円で、実効税率は17.6%しかない。通常の会社なら30%前後になるところだ。理由は過去の赤字が繰越欠損金として残っているから。届出書のリスク項目にも、この欠損金が解消すれば通常の税負担が生じると明記されている。税率が正常化すると、同じ税引前利益でも純利益は約15%減る計算になる。
もうひとつは現金の動きだ。営業キャッシュフローは2024年8月期が▲5.2億円、2025年8月期が▲3.4億円と、2期連続でマイナスだった。中間期にようやく+2.8億円へ転じている。マイナスの主因は売掛金の増加で、これは新規顧客の支払方法を口座振替に切り替えたため入金が遅くなったと説明されている。売上が伸びるほど運転資金が膨らむ構造で、売上債権の回転日数は43.7日から46.2日へわずかに伸びている。
財務そのものは悪くない。有利子負債13.0億円に対して現金は15.3億円あり、実質的な借金はほぼゼロだ。ただし成長に伴って運転資金を食う事業である点は覚えておきたい。
5. 誰のためのIPOなのか
ここからは需給の話になる。この案件の性格を一発で示す数字がある。
※ 仮条件上限1,600円で筆者算出。差引手取概算額は有価証券届出書記載の61,760千円。
放出される4,817,500株のうち、公募(会社が新しく発行する分)はわずか50,000株、1.04%。残りはすべて既存株主の売出とオーバーアロットメントだ。
結果として、投資家が払う77.1億円のうち、会社に入るのは約6,200万円(0.8%)にとどまる。しかも用途は全額が広告宣伝費で、しかも2027年8月期に充当する予定と書かれている。残りの76.5億円は既存株主の現金化に回る。
届出書のリスク項目には、投資ファンドの保有比率が全体の約66%と明記されている。売出人の一覧を見ると、JICやニッセイ・キャピタルといった大手に加えて、静岡キャピタル、八十二サステナビリティ、ちゅうぎんインフィニティ、佐銀ベンチャーキャピタルなど地銀系ファンドがずらりと並ぶ。
これは偶然ではない。KOMPEITOは地方銀行81行と営業提携しており、地銀からの顧客紹介が主要な販売チャネルになっている。営業チャネルである地銀を、系列ファンド経由で株主として囲い込んできたわけだ。引受幹事にも九州FG、静銀ティーエム、中銀、西日本シティTT、八十二、ひろぎんと地銀系証券が6社並ぶ。戦略としては相当うまい。ただし投資家から見れば、その株主たちが今まさに出口を迎えている構図でもある。
6. ロックアップ解除という時間割
売出に出さなかった分は、一定期間売れないよう制限がかかる。これがロックアップだ。KOMPEITOの場合、この設計に特徴がある。
※ 有価証券届出書「ロックアップについて」の記載と株主構成から筆者算出。上場後発行済株式数9,898,300株に対する比率。グリーンシューオプションの行使状況により変動する。
注目は2段目だ。JIC、ニッセイ・キャピタル3ファンド、あおぞらHYBRID3号の5者には90日のロックアップに条件が付いている。届出書の原文は、期間中でも公開価格の1.5倍以上でSBI証券を通じた取引所売却であれば可能という趣旨の除外規定になっている。
公開価格を1,600円とすると、その1.5倍は2,400円。ここで約142万株、上場後発行済の14.4%が売却可能になる。IPOで放出される株数の約3割に相当する量だ。
これは「2,400円まで上がる」という話ではない。逆で、2,400円に近づくほど売りが出やすくなるという意味だ。上値を抑える節目として意識されやすい。中期で持つつもりなら、必ず頭に入れておきたい水準になる。
その先も続く。2026年12月9日には価格条件が外れ、2027年3月9日には社長の230万株を含む約31%が、2027年9月5日にはキユーピーと鈴与の分が解禁される。供給が段階的に増えていく時間割が、あらかじめ決まっている。
加えて潜在株式が68.4万株(発行済の6.9%)ある。うち54.2万株は行使価額525円のストックオプションで、2027年11月から行使できる。1,600円に対して深く含み益が乗った状態なので、行使される前提で見ておくのが自然だ。
7. バリュエーションは、見る指標で結論が変わる
※ 仮条件上限1,600円・上場後発行済9,898,300株(時価総額158.4億円)で筆者算出。横軸は対数目盛。
同じ会社、同じ株価なのに、指標によって印象がまったく違う。
- PSR 1.64倍(会社目標ベース)……成長率68%の会社としては安く見える
- PER 21.4倍……3Qの利益を年換算した数字。税負担を正常化すると25.2倍
- PBR 11.2倍……純資産14.2億円の会社に158億円の値段。ここは明確に高い
PBRが高いということは、この株価が資産ではなく将来の利益だけで支えられているということだ。そして肝心の利益は、通期実績がまだ1期もない。3Qで黒字化したばかりで、しかもその四半期は減益。PER21倍という数字は、この不安定さを織り込んでいないと見るべきだと思う。
8. それでも、事業としては強い
ここまで慎重な話が続いたので、強い部分も明示しておく。
- 月次解約率1.1%。2021年8月期の2.2%から一貫して低下している。年換算しても12%台で、中小企業向けサブスクとしては健全
- ARR(年間経常収益)は3Q末で89.2億円。契約6,644社、1社あたり134万円。会社の試算では想定市場9,000億円に対して浸透率は約1%
- 参入障壁が物流にある。生鮮を週次で全国配送する網は、資本と時間がかかる。ソフトウェアと違って後発が一気に追い越せない
- 食事補助の非課税枠が2026年4月に月3,500円→7,500円へ、42年ぶりに倍増。制度による直球の追い風
- 社長が23.3%を保有し、1株も売出していない。キユーピーと鈴与は360日ロックアップで、出口目的の株主ではない
事業そのものは、地に足のついた良い会社だと思う。問題はIPOの設計のほうにある。
9. 初値をどう考えるか
※ 公開価格は2026年9月3日決定予定。本表は条件の整理であり、初値を予測・保証するものではない。
プラス材料とマイナス材料を並べると、こうなる。
| プラス材料 | マイナス材料 |
|---|---|
| SBI証券が主幹事 | 吸収77.1億円はグロースでは重い |
| 直前IPOから期間が空いている | 公募1.04%の出口上場 |
| 1単元16万円と買いやすい | 投資ファンドが約66%を保有 |
| 黒字転換とARR89.2億円 | 2,400円に解除条件付きの売り |
| 制度改正という追い風 | 3Q単独で減益 |
事前評価も割れている。庶民のIPOはB、やさしいIPOのはじめ方は総合C、IPO株ビギナーの投資日誌はD。評価が一致しないこと自体が、この案件の両面性を映している。
筆者の見立てとしては、公開価格を大きく割り込む形は考えにくい一方、大幅高も見込みにくい。9月の相場が良ければ小幅高、悪ければ公開価格近辺、というのが素直な整理になる。
10. まとめ
- 黒字転換の正体は販管費率の低下。粗利率は65〜66%で3年間ほぼ動いていない
- 3Q単独では減益。売上の月平均は+15.5%だが、営業利益の月平均は▲19.7%
- 2025年8月期の85%成長はほぼ本業。ただし2026年8月期のM&A寄与は単一セグメント開示のため検証できない
- いまの純利益は繰越欠損金に支えられている。税率が正常化すれば約15%減る
- 公募は1.04%。77.1億円のうち会社に残るのは約6,200万円
- 2,400円に14.4%分の解除条件付きロックアップ。上値を抑える節目になりやすい
- PSRなら割安、PBRなら割高。資産の裏づけが薄く、将来の利益で評価されている
- 事業は強い。解約率1.1%、ARR89.2億円、物流という参入障壁、制度の追い風
「良い会社」と「良いIPO」は別物なのだ。KOMPEITOは事業として素直に評価できる会社だと思う。ただIPOの設計は、既存株主の出口として組まれている。その2つを分けて考えられるかどうかが、この案件の分かれ目になるのだ。
なお、公募ゼロで上場したGO(581A)との構造比較はこちらの記事で、2026年のIPO市場全体の需給サイクルはこちらの記事で扱っている。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は有価証券届出書(2026年8月12日提出)等の公開情報に基づく筆者の集計・試算であり、正確性を保証するものではありません。公開価格は2026年9月3日に決定予定で、本記事の試算は仮条件上限1,600円を前提としています。四半期単独の数値は累計値からの差引によるもので、会社発表値ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。










