
Skyfall(625A)は9月17日に東証グロースへ上場する、リワード広告のプラットフォーム「SKYFLAG」を運営する会社なのだ。直近の業績は素直に良い。2026年9月期は第3四半期までで営業利益10.1億円と、前期通期の2倍近くを稼いでいる。ただ目論見書の注記まで読むと、2期前に何が起きたかが出てくる。この記事ではそこを追う。
この記事でわかること
- 合併から6か月で全額減損されたのれんが、何だったのか
- 会計上の利益がほぼゼロなのに、税金を1.2億円払った理由
- 2025年9月期に営業キャッシュ・フローが▲9.2億円になった構造
1. 案件の骨格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上場日/市場 | 2026年9月17日/東証グロース |
| 仮条件 | 1,450円〜1,500円(想定価格1,500円が上限) |
| 上場後発行済株式数 | 7,307,450株 |
| 公募/売出/OA | 1,100,000株/1,203,800株/345,500株 |
| オファリングレシオ | 36.3% |
| 吸収金額 | 38.4億円〜39.7億円 |
| 想定時価総額 | 109.6億円 |
| 会社に入る資金 | 約15.1億円(海外展開に充当) |
| 主幹事 | SBI証券 |
| ロックアップ | 180日(2027年3月15日まで)、価格条項なし |
ここまでは悪くない。公募が全体の41.5%を占め、会社に15.1億円が入る。前回扱ったオリバー(公募ゼロ)やKOMPEITO(公募1.04%)と違い、これは成長資金を取りにいくIPOだ。
ただし仮条件が1,450〜1,500円と、想定価格を上限に置いて決まった点は覚えておきたい。KOMPEITOは想定1,560円に対して仮条件1,560〜1,600円と上振れた。需要の集まり方に差が出ている。
2. のれんが、6か月で消えた
2024年4月1日、Skyfallはマーケティングリサーチ会社のDataLab株式会社を320百万円で吸収合併した。「SKYFLAGリサーチ」を始めるためだ。
※ 有価証券届出書のキャッシュ・フロー計算書注記および減損損失注記より筆者作成。承継純資産は流動資産40,623千円+繰延税金資産155,010千円-流動負債168,761千円で算出。
承継した資産と負債を差し引きすると、実質的な純資産は26.9百万円しかない。320百万円で買っているので、差額の293.1百万円がのれんとして資産に立つ。実質純資産の約11.9倍の価格だ。
のれんは「その会社が将来生み出すはずの超過収益力」を買った金額として、5年で少しずつ費用にしていく。ところが2024年9月30日、つまり合併からわずか6か月後の決算で、残っていた263.8百万円が全額減損された。
目論見書の説明はこうだ。当初想定していた超過収益力が見込めなくなったため、回収可能価額をゼロとした。
初心者向けの読み替え
3.2億円を払って買った会社の「のれん」が、半年で価値ゼロと判断されたということなのだ。買収の値付けを、自分で半年後に否定した形になる。事業自体(SKYFLAGリサーチ)は今も続いているので会社が消えたわけではないけれど、M&Aの目利きという点で、これは重い一件だと思う。
3. 利益ゼロなのに、税金は1.2億円
この減損が、その年の決算を独特な形にした。
※ 有価証券届出書の損益計算書より。数値は百万円未満を四捨五入している。
経常利益は265.6百万円で、本業はきちんと黒字だった。ところが特別損失にのれん減損263.8百万円が乗り、税引前当期純利益は1.8百万円まで潰れる。
ここで妙なことが起きる。法人税等が118.9百万円計上され、当期は117.1百万円の純損失になった。税引前利益の約67倍の税金だ。
理由はのれんの減損が税務上の損金にならないから。会計のルールでは費用として認められるが、税金の計算では引けない。だから税金は減損する前の利益をもとに計算され、そのまま残る。
この構造そのものは会計上まったく正常で、珍しい話でもない。ただ「減損は現金が出ていかないから軽い」とは限らないという実例にはなっている。この年、Skyfallは減損で利益を失い、さらに税金として現金も払っている。
4. 傷は3つ、時期が重なっている
のれん減損だけではない。目論見書の「主要な経営指標等の推移」の注記に、もうひとつ書かれている。
為替レートの取り扱いに関する契約条件と運用状況を確認した結果、メディアに対する追加精算が必要になった。そのため過年度の財務諸表を訂正し、必要な会計処理と追加精算を実施した。これは複数の事業年度の損益とキャッシュ・フローに影響しており、2024年9月期の当期純損失と、2025年9月期の営業キャッシュ・フローの支出の要因の一部になっている——という記載だ。
会社は「主要な精算対応は完了しており、現時点において翌期以降に重要な追加負担は見込んでいない」としている。すでに処理は終わっているという位置づけだ。
ただ、順番に見ると重なりが気になる。2024年4月に買収、9月に全額減損、同じ期に過年度訂正。そして翌2025年9月期に営業キャッシュ・フローが大きくマイナス。この3期は、社内の管理体制が追いついていなかった時期だったと読むのが自然だと思う。
これは断罪ではない
成長期の会社で管理体制が後追いになるのは、めずらしいことではないのだ。むしろ上場審査の過程で洗い出し、訂正して開示しているのは正しい手順を踏んでいる証拠でもある。問題は、それがごく最近の話だという点。監査法人の継続監査期間はまだ2年で、内部監査も独立した部署ではなくコーポレート部長の兼任だ。
5. 営業キャッシュ・フローが▲9.2億円になった理由
※ 2026年9月期は四半期キャッシュ・フロー計算書が作成されていないため、中間期までの数値。売上債権回転日数は売掛金÷(売上高÷365)で筆者算出。3Q末は年換算値を使用。
2025年9月期の営業キャッシュ・フローは▲917.1百万円。営業利益は515.0百万円の黒字なのに、現金は9億円以上出ていっている。
内訳はこうだ。
- 売上債権の増加 ▲813.2百万円……売掛金が19.0億円から26.9億円へ
- 法人税等の支払 ▲449.3百万円……前期分と中間納付
- 仕入債務の減少 ▲139.1百万円……メディアへの支払いが先行
いちばん効いているのは売掛金だ。売上債権の回収にかかる日数は53.9日 → 60.5日 → 68.2日と、一貫して伸びている。売上が伸びるほど、回収前の売掛金が膨らむ構造になっている。
実際、会社はこの期に手元資金を確保するため4億円を短期借入している。2026年4月には三井住友銀行と極度額5億円のコミットメントライン契約を新たに結んだ。ここには財務制限条項が付いており、純資産を前期末の75%以上に維持すること、経常損益を2期連続赤字としないことが求められる。
6. そもそも売上162億円の中身は何か
キャッシュ・フローの話とつながるので、収益構造も見ておく。
※ 2025年9月期。売上原価明細書の媒体費13,267百万円、その他の原価645百万円、売上総利益2,303百万円より筆者算出。PSRは仮条件上限1,500円・時価総額109.6億円で計算。
売上原価明細書を開くと、はっきり出ている。売上原価13,913百万円のうち、媒体費が13,267百万円で95.4%。これはメディアへ支払う分だ。
売上162.2億円のうち81.8%にあたる132.7億円が、メディアへ流れていく。Skyfallの手元に残る粗利は23.0億円で、粗利率14.2%。
この会社は広告主から受け取った金額を全額売上に立て、メディアへの支払いを原価に立てる。これを総額計上(グロス)という。会計上まったく正しい処理だが、売上の絶対額は大きく見える。
PSR(時価総額÷売上高)で見ると、売上162.2億円で割れば0.68倍。かなり割安に見える。しかし粗利23.0億円で割ると4.76倍になる。どちらが実態に近いかは、言うまでもない。
興味深いのは、会社自身がこれを分かっていることだ。目論見書のKPIには「マージン率」が挙げられていて、SKYFLAG売上高からメディアへの支払額を引いた金額を売上高で割った比率と定義されている。グロス売上だけでは自社の実力を測れないと、会社が明言しているわけだ。
7. 営業利益259.5%増の中身
※ 有価証券届出書の損益計算書および売上原価明細書より筆者算出。pt=パーセントポイント。
2025年9月期の営業利益は前期比+259.5%。数字だけ見ると爆発的だ。ただ分解すると景色が変わる。
- 売上高は+26.0%
- 粗利は+15.7%。売上ほど伸びていない
- 粗利率は15.47% → 14.20%と、1.27ポイント低下している
- 販管費率は14.35% → 11.02%と3.33ポイント低下
つまり利益が増えた主因は、稼ぐ力ではなく費用の減少だ。販管費の中でも販売手数料が1.98億円から0.51億円へ大きく減っている。前期にあったのれん償却29.3百万円や貸倒引当金繰入30.8百万円が消えたことも効いている。
粗利率が下がっているのは、会社がKPIに掲げる「マージン率」が悪化しているということでもある。メディアへの分配比率が上がっている可能性がある。メディア側の交渉力が強いのだとすれば、規模が大きくなるほど利益率が下がる構造になりかねない。ここは上場後の決算で最初に見るべき数字だと思う。
8. 誰が売って、あとに何が残るか
※ 有価証券届出書の売出要項および新株予約権の状況より筆者算出。長谷川氏の保有はL.V.R分を含まない直接保有分。第2・3回は行使価額200円でまとめて表示。
売出の中身を見ると、and factoryとAmaziaが保有の50.0%を放出している。この2社は電子書籍アプリを運営する事業会社で、SKYFLAGの主要メディアでもある。取引先でもある株主が半分売るという構図だ。
社長の長谷川氏は保有3,750,000株のうち797,400株(21.3%)を売出す。資産管理会社L.V.R分と合わせても大部分は残るので、経営から離れる形ではない。ただしオーバーアロットメント345,500株の貸株人も長谷川氏で、グリーンシューオプションが行使されれば追加で放出される。
潜在株式は692,020株、上場後発行済の9.47%。とくに第1回の221,610株は行使価額50円と、想定価格1,500円の30分の1だ。想定価格ベースの含み益は全体で約4.6億円になる。行使は上場日以降40%、1年後80%、2年後100%と段階的に進むので、希薄化はこれから2年かけて効いてくる。
9. 事業そのものは、悪くない
ここまで慎重な話が続いたので、強い点を並べる。
- メディアの翌年継続率98%。月間売上30万円以上のメディアが対象で、いちど入ると抜けにくい
- 取引が分散している。最大広告主が売上の8.5%、最大メディアが媒体費の15.1%
- 導入メディア数が増え続けている。2026年9月期3Qで月平均341メディア
- 生成AIの逆風を受けにくい。アプリ内広告が中心で、検索経由のWebメディアへの依存が低い
- アセットライトな体質。2025年9月期の設備投資は21百万円のみ
成果報酬型で、ユーザーが自分の意思で広告を選ぶ形式という設計も筋がいい。広告主にとっては無駄打ちが減り、メディアにとってはユーザー体験を壊さずに収益化できる。広告業界が抱える課題への答えのひとつにはなっている。
一方で弱点も明確だ。目論見書自身が「大規模な設備投資を必要としないことから、参入障壁は相対的に低い」と書いている。AppleやGoogleのポリシー変更が最大リスクとして「影響度:大」に置かれているのも、この業態の宿命だ。
10. 初値をどう考えるか
※ 公開価格は2026年9月9日決定予定。本図は条件の整理であり、初値を予測・保証するものではない。
| プラス材料 | マイナス材料 |
|---|---|
| SBI証券が主幹事で個人配分が厚い | 吸収39.7億円はグロースでは重い |
| 3Q累計で営業利益10.1億円と好調 | 仮条件が想定価格を上限に決定 |
| 公募41.5%で会社に15.1億円が入る | 粗利率が低下している |
| メディア継続率98%と取引の分散 | 2期前ののれん減損と過年度訂正 |
| 180日ロックアップに価格条項なし | 同業のPERも高くなく業界評価が低い |
筆者の見立てとしては、公開価格の前後で決着する公算が大きい。3Qの数字は素直に良く、SBI主幹事で1単元15万円という買いやすさもある。ただ吸収39.7億円は軽くなく、仮条件が上振れなかったことは機関投資家の需要がそこまで強くなかったことを示している。
11. まとめ
- DataLabののれんは合併から6か月で全額減損。実質純資産26.9百万円の会社を320百万円で買っていた
- 減損は税務上の損金にならない。税引前1.8百万円に対し税金118.9百万円で、純損失に転落した
- 為替関連で過年度の財務諸表を訂正済み。複数期の損益とCFに影響している
- 2025年9月期の営業CFは▲917.1百万円。売上債権の回収日数は53.9日→68.2日へ悪化
- 売上162.2億円のうち81.8%がメディアへ。PSRは売上基準0.68倍、粗利基準4.76倍
- 営業利益+259.5%の主因は販管費率の低下。粗利率はむしろ1.27pt下がっている
- 潜在株式は9.47%、第1回の行使価額は50円。希薄化は2年かけて進む
- 事業は筋がいい。継続率98%、取引分散、アセットライト。ただし参入障壁は会社自身が「低い」と書いている
直近の数字だけを見れば、Skyfallは「増収増益で勢いのある会社」なのだ。それは事実だし、否定する必要はない。ただ2期前に何があったかは、目論見書の注記を開かないと出てこない。IPOの目論見書で本当に読む価値があるのは、業績のグラフではなくそのうしろにある注記のほうだったりする。この案件は、その練習にちょうどいいのだ。
同じ9月案件では、公募比率1.04%のKOMPEITO(618A)と、公募ゼロで放出79.7%のオリバー(619A)を分析している。9月のIPOラッシュ全体の需給はこちらの記事で扱った。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は有価証券届出書(2026年8月17日提出)等の公開情報に基づく筆者の集計・試算であり、正確性を保証するものではありません。公開価格は2026年9月9日に決定予定で、本記事の試算は仮条件上限1,500円を前提としています。売上債権回転日数など一部の指標は筆者が算出した参考値であり、会社発表値ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。










