
2026年6月29日、高市早苗首相は首相官邸の「総合海洋政策本部」で、南鳥島沖の海底レアアースについて「採算性を確保しながら掘削できるか迅速に実証せよ」と関係閣僚に指示しました。政府は2027年に、1日350トン以上の泥の採取・運搬・精錬を想定した「産業規模での実証」に着手します。中国がレアアースを外交カードに使うなか、日本最東端の海底資源が一気に脚光を浴びています。この記事では、そもそもレアアースとは何かという基礎から、なぜ「中国依存」が問題なのか、そして関連銘柄とのつき合い方までを、初心者向けにかみ砕いて解説します。
「レアアース」という言葉を、ニュースで何度も耳にするようになりました。EVやスマホ、風力発電に欠かせない素材でありながら、その供給のほとんどを中国が握っている──。だからこそ、自前で確保できる「南鳥島の海底資源」が国家プロジェクトとして注目されているのです。まずは言葉の意味から押さえていきましょう。
そもそも「レアアース」とは何か
レアアース(希土類)は、周期表に並ぶ17種類の金属元素の総称です。「レア(希少)」という名前がついていますが、実は地球上の存在量そのものは決して極端に少ないわけではありません。問題は、高い濃度で集まっている場所が限られ、分離・精製に高度な技術とコストがかかる点にあります。だから供給が不安定になりやすいのです。
17元素は、性質によって大きく「軽希土類」と「中・重希土類」に分けられます。とくにEV用モーターの磁石(ネオジム磁石)の性能を支えるジスプロシウムやテルビウムといった「重希土類」は、ほぼ100%を中国に依存しているのが日本の実情です。
なぜ「中国依存」が問題なのか
レアアースが経済安全保障のテーマになる最大の理由は、サプライチェーン(供給網)が中国に極端に偏っていることです。米地質調査所(USGS)によると、世界のレアアース生産量の約7割を中国が占めます。さらに、掘り出した鉱石を使える形にする「製錬」や、磁石にする工程ではシェアがもっと高くなります。日本も、レアアースの6割近くを中国からの輸入に頼ってきました。
中国はこの支配力を、実際に「外交の武器」として使ってきました。古くは2010年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件をきっかけに対日輸出を事実上制限。近年では、2025年4月に米国の高関税への報復として7種類のレアアースの輸出を規制し、その結果5月のレアアース磁石の輸出が前年同月比で約7割減少。EV・ハイブリッド車のモーター生産が滞り、日本の自動車産業にも影響が及びました。さらに2026年1月には、台湾情勢をめぐる日本側の発言に反発した中国が、軍民両用品の対日輸出禁止に踏み切っています。
レアアースは「特定の一企業の話」ではなく、自動車から防衛装備まで日本の製造業全体を支える戦略物資です。だからこそ、供給を一国に握られている状態そのものが国家のリスクとみなされ、「脱・中国依存」が国策テーマになっています。
南鳥島の海底に眠る「国産レアアース」
そこで期待を集めているのが、東京から約1,950km南東に浮かぶ日本最東端の島・南鳥島の周辺海域です。2013年、東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームが、この海域の水深約6,000mの海底に、レアアースを高濃度で含む「レアアース泥」が大量に存在することを発見しました。
この南鳥島のレアアース泥は、ただ量が多いだけではありません。中国の陸上鉱山の約20倍という世界最高クラスの品位(濃度)を持ち、放射性物質をほとんど含まないクリーンな資源とされます。南鳥島周辺だけでも埋蔵量は1,600万トン超、世界3位規模との試算もあります。
ただし、研究の中核を担う海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、「世界需要の数百年分」といった派手な数字が独り歩きするのを避け、現時点では「産業的規模での開発が可能」という慎重な表現にとどめています。あくまで国主導の「研究・実証」段階であり、民間企業が鉱業権を取って利益目的で採掘しているわけではない点に注意が必要です。
「発見」から「商業化」までのロードマップ
国産レアアースは、いきなり実用化されるわけではありません。水深6,000mという超深海から泥を連続的に引き上げる技術は世界初の挑戦で、段階を踏んで実証が進められています。下の年表で全体像をつかみましょう。
2026年6月のここ数週間で、政策の動きが一気に加速しました。6月12日には自民党の海洋開発特別委員会が「専用船の建造」などを盛り込んだ提言を首相に提出。そして6月29日、高市首相は総合海洋政策本部で、「経済安全保障の観点から、採算性向上と精錬技術の開発のための産業規模での開発実証を速やかに進めてほしい」と明言しました。
関連銘柄をどう見るか
国策テーマとして注目が集まると、株式市場では「関連銘柄」が物色されます。南鳥島レアアースの場合、関わり方によって大きく4つのグループに分けて整理すると理解しやすくなります。
| 区分 | 銘柄(コード) | 株価の目安 | レアアースとの関わり |
|---|---|---|---|
| 海洋開発・ 採掘技術 |
東洋エンジニアリング(6330) | 約2,000円 | 深海レアアース泥の回収システムをJAMSTEC委託で開発。国策の中核的存在。 |
| 三井海洋開発(6269) | 約13,000円 | 浮体式海洋生産設備で世界2強。東洋エンジと合弁関係。 | |
| 石油資源開発(1662) | 約2,300円 | 海洋資源開発・サブシー技術。次世代海洋調査に出資。 | |
| 古河機械金属(5715) | 約5,700円 | 海洋資源の揚鉱装置で特許。削岩・製錬の技術基盤。 | |
| 素材・磁石 | 第一稀元素化学工業(4082) | 約2,900円 | ジルコニウム等レアアース化合物の専業大手。 |
| 信越化学工業(4063) | — | レアアース磁石の大型生産設備を保有。 | |
| 製錬・ リサイクル |
三菱マテリアル(5711) | — | 使用済み製品(都市鉱山)からのレアアース回収。 |
| 調達・商社 | アルコニックス(3036) | — | レアアースに強い非鉄金属の専門商社。海外調達網。 |
※株価は2026年6月30日時点のおおよその水準。テーマ株は値動きが激しいため、売買前には必ず最新の株価・業績をご自身で確認してください。「—」は本記事で個別株価を割愛したもの。
初心者が必ず知っておくべき「思惑相場」の怖さ
ここからが、初心者にとって最も大切なパートです。国策テーマは夢があり、中長期では成長が期待される分野です。しかし「期待(思惑)が先行し、実需や業績が追いついていない」段階では、株価が極端に乱高下しやすいのが現実です。象徴的なのが、関連株の代表格・東洋エンジニアリングの値動きです。
東洋エンジは2026年3月期に、レアアースとは無関係なブラジルのガス火力発電案件の損失で営業赤字に転落しました。「国策テーマで期待される会社」と「足元の業績が良い会社」は必ずしも一致しない──これがテーマ株の難しさです。実証は2027年、商業化は2030年ごろと見られ、関連企業の利益に本格的に効いてくるのはまだ先の話です。
国策テーマは「中長期の夢」として面白い一方、短期ではニュースのたびに数十%動くこともあります。①高値づかみを避ける、②一つの銘柄に集中させない、③「テーマ(期待)」と「業績(実需)」を分けて見る──この3点を意識するだけでも、思惑相場に振り回されにくくなります。
まとめ
南鳥島レアアースは、中国依存からの脱却という日本の経済安全保障そのものを左右しうる国家プロジェクトです。2026年6月、高市政権が「2027年の産業規模実証」へと号令をかけたことで、テーマとしての注目度は当面続きそうです。中長期で見れば、世界最高品位の国産資源は大きな可能性を秘めています。
一方で、現実の開発はまだ「実証」段階で、商業化はこれから。株式市場では実需より先に期待が走り、関連株は激しく乱高下しています。大きな物語(地政学・経済安保)と、目の前の株価(思惑相場)を切り分けて冷静に眺めること。それが、このテーマと上手につき合う初心者の第一歩です。




