
2026年7月15日|半導体・決算分析
IBMから抜けた資金は、ここに流れ込んでいた。
IBMが史上最悪の下落を喫した翌日の2026年7月15日、露光装置最大手ASMLは4-6月期決算を発表し、売上・利益・粗利率のすべてで予想を上回った。通期売上見通しは430〜450億ユーロへと年内2度目の引き上げ。姉妹記事で解剖した「企業capexのAIインフラへの傾斜」を、本稿では勝者側の数字から検証する。
この記事のポイント
- 4-6月期は売上高93.3億ユーロ(予想88億)、純利益29.2億ユーロ(予想26.2億)、粗利益率54.0%で全項目が予想超え
- 通期売上見通しを360〜400億ユーロ→430〜450億ユーロへ再上方修正。7-9月期は110〜120億ユーロを見込む
- 成長ドライバーはメモリ関連約+75%、EUV約+45%と極端に傾斜。2027年に必要な受注はほぼ充足済みと表明
- 影も濃い。2027年予想PERは約49倍との指摘があり、中国売上比率約20%には規制強化リスクが残る
決算ハイライト:ガイダンス上限すら超えた
ASML自身が示していた4-6月期の売上ガイダンスは84〜90億ユーロ、粗利益率51〜52%だった。実績はその上限をさらに超えている。
| 項目 | 実績・内容 |
|---|---|
| 売上高 | 93.3億ユーロ(市場予想88億ユーロ、自社ガイダンス84〜90億ユーロ) |
| 純利益 | 29.2億ユーロ(市場予想26.2億ユーロ) |
| 粗利益率 | 54.0%(ガイダンス51〜52%を上回る) |
| 上振れの主因 | インストールベース事業(既納入装置の保守・改良)が28億ユーロと想定を3億ユーロ超過 |
| 7-9月期見通し | 売上110〜120億ユーロ、粗利益率55〜57% |
| 通期見通し | 430〜450億ユーロへ引き上げ(年内2度目の上方修正) |
| 株主還元 | 自社株買い約11億ユーロ実施、中間配当1.88ユーロ(8/5) |
| 株価反応 | 通常取引+2.87%の1,775.64ドル、時間外でさらに+3.51% |
とりわけ効いているのがインストールベース事業の上振れだ。装置の停止時間を最小限に抑えられるソフトウェア主導のアップグレードを顧客が選好しており、これは新規装置の出荷タイミングが不均一でも売上と利益率を下支えする「ストック型」の収益である。粗利率54%という数字の質を裏から支えている。
成長ドライバーの傾斜:メモリ+75%が意味するもの
通期ガイダンスと同時に、ASMLは事業別の成長率見通しを示した。並べてみると、成長の傾斜が極端であることがわかる。
メモリ関連約+75%という数字は、姉妹記事で見たIBMショックの説明と正確に噛み合う。IBMの顧客が6月下旬に確保へ走った「供給逼迫下のサーバー・ストレージ・メモリ」の生産能力を、メモリメーカーはDDR・HBMの供給逼迫を受けて今まさに増強している。その装置を供給するのがASMLだ。企業のIT予算から見れば流出(ソフトウェア案件の延期)だったものが、半導体の設備投資チェーンでは流入として現れる。同じ1本の資金フローを、IBMは上流の敗者側、ASMLは下流の勝者側から見ている構図である。
受注の可視性:2027年分は「ほぼ埋まった」
ASMLは2026年1-3月期から四半期ごとの受注額開示を取りやめており、需要の強さは経営陣の定性コメントから読み取るしかない。今回その中身は明確だった。2027年に必要な受注はほぼすべて受領済みで、2028年分についても多数を獲得しているという。出荷計画は2026年に低NA型EUVを約65台、DUV液浸を約130台。さらにインテルが最先端の18Aプロセスで次世代機High-NA EUVを採用し、次期プロセッサの量産を開始したことも明らかにされた。
中級メモ:受注非開示時代の読み方
受注額の開示がなくなった以上、投資家が需要を測る材料は(1)ガイダンスの改定方向、(2)出荷台数計画、(3)インストールベース収益、(4)経営陣の先行きコメント、の4点セットに変わった。今回は4点すべてが強い方向を向いた稀なケースで、これが「予想超え+再上方修正でも素直に買われた」理由だと考えられる。
影の部分:期待の高さは前日のIBMと相似形
好決算の裏で確認すべき3点
第一にバリュエーション。一部の証券会社からは2027年予想PERが約49倍まで上昇し、好材料の大半は織り込み済みとの指摘が出ている。第二に中国。2026年売上の約20%を占めるが、リスクは既に規制済みのEUVではなく、先端DUV・スペアパーツ・保守サービスへの規制強化という「まだ見えていない側」にある。第三に供給制約。需要ではなく生産能力がボトルネックである以上、部材供給の遅延が起きれば受注が堅くても売上は後ずれする。「高い期待を織り込んだ株は小さなミスで最大級に罰せられる」という前日のIBMの教訓は、皮肉にも勝者側のASMLにこそ突き刺さる。
IBMがPER23倍で3.7%のミスにより25%売られた翌日に、市場は49倍への評価をASMLに与えている。この非対称が持続するかどうかは、AIインフラ投資の実需がどこまで期待に追いつき続けるかにかかっている。期待剥落が起きるとき何が壊れるのかは、姉妹記事のIBMの解剖が具体的なケーススタディになるはずだ。
あわせて読みたい(姉妹記事)
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は2026年7月15日時点の会社発表・報道に基づきます。為替換算値は概算です。投資判断はご自身の責任でお願いします。
2026年7月15日|半導体・決算分析
IBMから抜けた資金は、ここに流れ込んでいた。
IBMが史上最悪の下落を喫した翌日の2026年7月15日、露光装置最大手ASMLは4-6月期決算を発表し、売上・利益・粗利率のすべてで予想を上回った。通期売上見通しは430〜450億ユーロへと年内2度目の引き上げ。姉妹記事で解剖した「企業capexのAIインフラへの傾斜」を、本稿では勝者側の数字から検証する。
この記事のポイント
- 4-6月期は売上高93.3億ユーロ(予想88億)、純利益29.2億ユーロ(予想26.2億)、粗利益率54.0%で全項目が予想超え
- 通期売上見通しを360〜400億ユーロ→430〜450億ユーロへ再上方修正。7-9月期は110〜120億ユーロを見込む
- 成長ドライバーはメモリ関連約+75%、EUV約+45%と極端に傾斜。2027年に必要な受注はほぼ充足済みと表明
- 影も濃い。2027年予想PERは約49倍との指摘があり、中国売上比率約20%には規制強化リスクが残る
決算ハイライト:ガイダンス上限すら超えた
ASML自身が示していた4-6月期の売上ガイダンスは84〜90億ユーロ、粗利益率51〜52%だった。実績はその上限をさらに超えている。
| 項目 | 実績・内容 |
|---|---|
| 売上高 | 93.3億ユーロ(市場予想88億ユーロ、自社ガイダンス84〜90億ユーロ) |
| 純利益 | 29.2億ユーロ(市場予想26.2億ユーロ) |
| 粗利益率 | 54.0%(ガイダンス51〜52%を上回る) |
| 上振れの主因 | インストールベース事業(既納入装置の保守・改良)が28億ユーロと想定を3億ユーロ超過 |
| 7-9月期見通し | 売上110〜120億ユーロ、粗利益率55〜57% |
| 通期見通し | 430〜450億ユーロへ引き上げ(年内2度目の上方修正) |
| 株主還元 | 自社株買い約11億ユーロ実施、中間配当1.88ユーロ(8/5) |
| 株価反応 | 通常取引+2.87%の1,775.64ドル、時間外でさらに+3.51% |
とりわけ効いているのがインストールベース事業の上振れだ。装置の停止時間を最小限に抑えられるソフトウェア主導のアップグレードを顧客が選好しており、これは新規装置の出荷タイミングが不均一でも売上と利益率を下支えする「ストック型」の収益である。粗利率54%という数字の質を裏から支えている。
成長ドライバーの傾斜:メモリ+75%が意味するもの
通期ガイダンスと同時に、ASMLは事業別の成長率見通しを示した。並べてみると、成長の傾斜が極端であることがわかる。
メモリ関連約+75%という数字は、姉妹記事で見たIBMショックの説明と正確に噛み合う。IBMの顧客が6月下旬に確保へ走った「供給逼迫下のサーバー・ストレージ・メモリ」の生産能力を、メモリメーカーはDDR・HBMの供給逼迫を受けて今まさに増強している。その装置を供給するのがASMLだ。企業のIT予算から見れば流出(ソフトウェア案件の延期)だったものが、半導体の設備投資チェーンでは流入として現れる。同じ1本の資金フローを、IBMは上流の敗者側、ASMLは下流の勝者側から見ている構図である。
受注の可視性:2027年分は「ほぼ埋まった」
ASMLは2026年1-3月期から四半期ごとの受注額開示を取りやめており、需要の強さは経営陣の定性コメントから読み取るしかない。今回その中身は明確だった。2027年に必要な受注はほぼすべて受領済みで、2028年分についても多数を獲得しているという。出荷計画は2026年に低NA型EUVを約65台、DUV液浸を約130台。さらにインテルが最先端の18Aプロセスで次世代機High-NA EUVを採用し、次期プロセッサの量産を開始したことも明らかにされた。
中級メモ:受注非開示時代の読み方
受注額の開示がなくなった以上、投資家が需要を測る材料は(1)ガイダンスの改定方向、(2)出荷台数計画、(3)インストールベース収益、(4)経営陣の先行きコメント、の4点セットに変わった。今回は4点すべてが強い方向を向いた稀なケースで、これが「予想超え+再上方修正でも素直に買われた」理由だと考えられる。
影の部分:期待の高さは前日のIBMと相似形
好決算の裏で確認すべき3点
第一にバリュエーション。一部の証券会社からは2027年予想PERが約49倍まで上昇し、好材料の大半は織り込み済みとの指摘が出ている。第二に中国。2026年売上の約20%を占めるが、リスクは既に規制済みのEUVではなく、先端DUV・スペアパーツ・保守サービスへの規制強化という「まだ見えていない側」にある。第三に供給制約。需要ではなく生産能力がボトルネックである以上、部材供給の遅延が起きれば受注が堅くても売上は後ずれする。「高い期待を織り込んだ株は小さなミスで最大級に罰せられる」という前日のIBMの教訓は、皮肉にも勝者側のASMLにこそ突き刺さる。
IBMがPER23倍で3.7%のミスにより25%売られた翌日に、市場は49倍への評価をASMLに与えている。この非対称が持続するかどうかは、AIインフラ投資の実需がどこまで期待に追いつき続けるかにかかっている。期待剥落が起きるとき何が壊れるのかは、姉妹記事のIBMの解剖が具体的なケーススタディになるはずだ。
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