
2026年7月16日午後3時、台湾積体電路製造(TSMC)が2026年4〜6月期決算を発表した。売上高・純利益ともに四半期として過去最高。純利益は前年同期比77.4%増で、市場予測を大きく上回った。魏哲家会長兼CEOは「AI関連の需要は極めて力強い」と述べ、7〜9月期も好調が続くと予想した。
同じ日、日経平均株価は2.69%下げた。AI・半導体関連が売りの中心だった。
この2つの事実は矛盾していない。ただし、その理由を正確に言うには、「半導体」という言葉を一段ぶん解像度を上げる必要がある。この記事は、そのための作業である。
この記事の要点
- TSMCの売上の77%は7nm以下の先端プロセス。逼迫しているのはここで、汎用品ではない
- 7〜9月期のガイダンスは前期比+11〜14%と強気。減速の兆しは、少なくとも数字には出ていない
- ただし純利益+77.4%には営業外項目の寄与が大きく、営業利益ベースの伸びはそれより小さい
- 本当の分岐点は中国の供給ではなく、顧客の顧客が投資を払い切れるかにある
TSMCの決算は何を示したか
まず数字を、会社の公式資料(2Q26 Presentation)どおりに並べる。
図1:TSMC 2026年4〜6月期の実績とプロセス別売上構成
出所:TSMC「2026 Second Quarter Earnings Conference」資料。構成比は四捨五入。
要点を文章でも押さえておく。売上高はUS$40.20B(NT$1兆2,703億8,000万)で、前年同期比36.0%増、前四半期比12.0%増。これは会社が4月に示していたガイダンス(US$39.0〜40.2B)の上限にぴたりと着地した。粗利率67.7%はガイダンス(65.5〜67.5%)を上回り、営業利益率60.3%もガイダンス(56.5〜58.5%)を超えた。純利益はNT$7,065億6,000万で、QUICK・ファクトセットが集計した市場予測(NT$6,268億)を上回っている。EPSは27.25台湾ドル、ROEは45.9%。
そして7〜9月期のガイダンスはUS$44.6〜45.8B。4〜6月の40.20から見て、前期比+11〜14%である。AI投資が失速しているなら、こういう数字は出てこない。魏CEOは決算説明会で、米アリゾナ州に1,000億ドル(約16兆円)の追加投資を行い、最先端の2ナノ工場などを新設すると明らかにした。減速を見込む企業の行動ではない。
「7nm以下で77%」が意味すること
図1のAに戻ってほしい。TSMCの売上のうち、2nmが3%、3nmが30%、5nmが33%、7nmが11%。合計すると7nm以下の先端プロセスだけで77%を占める。残りの23%が16nm以上の成熟プロセスだ。
ここが、この日の相場を理解する鍵になる。TSMCの売上が示しているのは、いま逼迫しているのは半導体の「先端の層」だという事実である。エヌビディアのGPUや大手クラウド事業者の自社開発AIチップは、TSMCの3nm以下の先端プロセスに大きく依存しており、その生産枠はすでに2027年以降まで埋まっていると報じられている。AIチップに巨大な計算能力をもたらす先端パッケージング技術「CoWoS」に至っては、TSMCに事実上競合が存在せず、供給不足が全体の平均販売価格の上昇を支えている。
一方で、この日の売り材料になった中国CXMTの上場は、汎用DRAMという別の層の話だ。同じ「半導体」という言葉で括られるが、先端ロジックと汎用メモリーは、需給も価格も生産設備も別々に動く。TSMCの決算は、その別々さを数字で裏づけた資料でもある。
あわせて読みたい:CXMTの増産はなぜHBM不足を解消しないのか
それでも見ておきたい、数字の中の陰り
ここまでは「決算は強い」という話だった。ただ、良い決算ほど、細部を見る価値がある。図1のCに挙げた3点を説明する。
1. 純利益+77.4%は、営業外の追い風を含んでいる
公式資料によると、営業外項目(Non-Operating Items)はNT$958億3,000万で、前年同期(NT$296億1,000万)から223.6%増えている。純利益の伸び77.4%のうち、一定部分はこの営業外の増加によるものだ。本業の力を見るなら、営業利益率が49.6%から60.3%へ10.7ポイント改善した点のほうが実質的である。本業も十分に強いが、77.4%という見出しの数字をそのまま本業の伸びだと読むと、少し過大評価になる。
2. 在庫回転日数が伸びている
在庫回転日数は87日。前四半期は80日、前年同期は76日だった。売っている量が増えれば在庫も増えるので、これ自体が悪材料とは限らない。ただ、2四半期続けて伸びているという事実は、記録しておく価値がある。
3. 粗利率のピークは4〜6月かもしれない
7〜9月期の粗利率ガイダンスは65〜67%で、4〜6月の実績67.7%を下回る。TSMCは2nmプロセスの量産立ち上げに伴い、2026年通年の粗利率が2〜3%押し下げられる可能性があることを示している。先端プロセスの需要は強いが、次世代プロセスの立ち上げ期にはコスト負担も発生する。売上は伸びるが、利益率は少し落ちる——これが会社自身の見通しである。
本当の分岐点は、どこにあるのか
ここからが、この日の下げの「もう一つの説明」だ。
TSMCの顧客は、エヌビディアやアップルといった設計会社である。そのさらに先——「顧客の顧客」にあたるのが、アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタといった大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)だ。AI向け設備投資の最大の牽引役はここにいる。
その4社の懐事情が、静かに変わりつつある。
図2:ハイパースケーラー4社の設備投資と長期負債
注:2026年設備投資7,100億ドル(前年比+73.2%)、2026年3月末の長期負債合計6,200億ドル(前年同期比+60.0%)は報道による。2025年の値は伸び率からの逆算で、参考値。
4社だけで2026年の設備投資額は前年比73.2%増の7,100億ドルに達する見込みだ。各社が資金調達のために相次いで社債を発行した結果、4社の2026年3月末時点の長期負債残高の合計(6,200億ドル)は前年同期比60.0%増となっている。
問題は、この投資が回収できるかである。そしてここに、もう一つの逆風が吹き始めている。AIサービスの価格競争だ。
複数のAIモデルを単一のアカウントで利用できるサービス「OpenRouter」が6月30日に公表した6月のAI別利用量データによると、アルファベットのAIのシェアは10.7%で、1月の24.6%から急落した。オープンAIのシェアも12.5%から7.4%へ低下している。代わって躍進したのが中国のDeepSeekで、シェアを1月の9.1%から6月の18.1%へと倍増させた。利用料金が大幅に安いことが背景とみられる。メタのザッカーバーグCEOも、最新AIモデルを開発者向けに有料公開するにあたり、利用料金をオープンAIなどの25%程度に抑えるとした。
つまり、設備投資は借金で73%増やしているのに、売っているサービスの価格は下がっている。この2つがどこかで交差する。交差点がいつ来るのかは誰にもわからないが、それこそが半導体株の最大のリスク要因であって、中国のDRAM工場ではない。
2本を並べると、何が見えるか
7月16日という同じ一日に、2つのことが起きた。
- 売り材料になったもの
- 中国CXMTの上場(汎用DRAMの供給増観測)。ただしCXMTはHBMを作れず、届出書にHBM設備投資の記載もない。しかも東京で最も売られたキオクシアは、DRAMではなくNANDのメーカーである。
- 同じ日に無視されたもの
- TSMCの過去最高益と、前期比+11〜14%という7〜9月ガイダンス。先端プロセスの需要が落ちていないことを示す、この日いちばん確度の高いデータだった。
- どちらの記事も触れていない、本当の分岐
- ハイパースケーラーの投資が借金で膨らむ一方、AIサービスの価格は下がっている。ここが崩れれば、CXMTがあろうとなかろうと、半導体株は下がる。
「良い会社」と「良いタイミング」は別物である。TSMCは、この四半期に関して言えば疑いようもなく良い会社の数字を出した。それでも株は下がった。下がった理由が会社の中にないとき、投資家が見るべきなのは会社の外側——顧客の顧客の財務諸表である。
初心者が今日から確認できること
- 決算は「見出しの伸び率」ではなく、営業利益で見る。純利益は営業外項目で大きく動く。
- ガイダンスを実績と並べる。今回のTSMCは、売上が上限着地、粗利率は上限超え、次の四半期は+11〜14%。会社の自己申告は、ニュースの見出しより情報量が多い。
- 「半導体」を一段分解する。先端ロジック/汎用DRAM/HBM/NAND/製造装置は、別々の需給で動く。
- その会社の顧客の、さらに顧客を見る。TSMCの業績はハイパースケーラーの設備投資に、その設備投資はAIサービスの採算に乗っている。
まとめ
TSMCの2026年4〜6月期は、売上US$40.20B(+36.0%)、粗利率67.7%、純利益NT$7,065億(+77.4%)で、いずれも四半期として過去最高。7〜9月のガイダンスは前期比+11〜14%と強気で、アリゾナには1,000億ドルの追加投資を表明した。売上の77%は7nm以下の先端プロセスであり、逼迫しているのはこの層である。
同じ日に日経平均が2.69%下げたのは、別の層——汎用DRAM——の供給増観測が理由だった。層が違えば、需給も違う。
ただし、TSMCの数字にも陰りはある。純利益の伸びは営業外に助けられ、在庫回転日数は伸び、粗利率のガイダンスは下向きだ。そして最大の論点は、4社で7,100億ドルという設備投資が、60%増えた借金の上に乗っていることである。中国の工場より、こちらのほうが遥かに大きい。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載したデータは公表資料および報道に基づいていますが、正確性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。





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