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配当利回り6.0%はどこから来ているのか|オリバー(619A)をIFRSと日本基準の両方で読む

オリバー(619A)は9月16日に東証スタンダードへ上場する、愛知県岡崎市の家具・インテリア会社なのだ。この案件で真っ先に目に入るのが予想配当利回り6.0%という数字だと思う。IPOでこの水準はめずらしい。ただ、その6.0%がどこから出ているのかを確かめると、見え方が少し変わる。この記事ではそこを分解する。

この記事でわかること

  • 「配当性向70%」がIFRSの利益で計算されている意味
  • 日本基準に引き直すと配当性向は何%になるのか
  • PBR1.89倍という数字を、のれんを除いて見直すとどうなるか

1. まず案件の骨格

項目 内容
上場日/市場 2026年9月16日/東証スタンダード
想定価格 270円〜305円(仮条件は8月31日決定)
発行済株式数 100,000,000株
公募株数 0株
売出株数 69,320,100株(+OA 10,398,000株)
オファリングレシオ 79.7%
吸収金額 215.2億円〜243.1億円
想定時価総額 270億円〜305億円
主幹事 野村證券・大和証券(共同)
売出人 インテグラル系3ファンド
2026年12月期 予想配当 18.33円(利回り6.0%)

1967年創業の老舗で、ホテル・オフィス・商業施設のインテリアを設計から施工まで一貫して手がけている。2021年にPEファンドのインテグラルと組んだMBOで上場廃止となり、5年ぶりの再上場になる。

そして公募はゼロ。79.7%という放出比率は2026年のIPOでも突出して高い。会社に新しい資金は1円も入らず、243億円はすべて売り手であるファンドに渡る。この構造はまず頭に入れておきたい。

2. 配当利回り6.0%はどこから出ているのか

会社は2026年12月期について配当性向70%を目安とする方針を示している。想定価格305円に対して予想配当18.33円なので、利回りは6.01%になる。IPO銘柄としては異例の高さだ。

ここで届出書に書かれている一文が効いてくる。配当性向はIFRSに基づく当期利益で算出する、という記載だ。

オリバーは日本基準とIFRSの両方で財務諸表を作っている。同じ年度の数字を並べると、こうなる。

図1:IFRSと日本基準で、数字がどう変わるか
同じ会社・同じ年度でも、採用する会計基準で数字が変わる。IFRS(会社の採用基準)日本基準に引き直すと売上高/売上収益350.2億円350.0億円営業利益35.4億円31.7億円営業利益率10.11%9.07%当期利益25.1億円20.7億円1株あたり利益(EPS)25.20円20.81円PER(305円ベース)12.10倍14.66倍配当性向(DPS 18.33円)70.0%84.8%差の正体は、のれん約4.4億円を償却するかどうか。IFRSは償却しない。配当性向70%という会社方針は、IFRSの当期利益で計算すると明記されている。

※ 2025年12月期。IFRSの売上収益35,015百万円・当期利益2,511百万円、日本基準の売上高35,003百万円・当期純利益2,073百万円をもとに筆者算出。PERと配当性向は想定価格305円・予想配当18.33円で計算。

差の正体はのれんの償却だ。日本基準ではのれんを毎年少しずつ費用にする。2022年12月期には473百万円の償却費が計上されている。ところがIFRSではのれんを償却しない。だから利益がその分だけ大きく出る。

結果として、こうなる。

  • IFRSの利益で計算すると、配当性向は70.0%
  • 日本基準に引き直すと、配当性向は84.8%

初心者向けの読み替え

のれんを償却しなくても、配当として出ていく現金は変わらないのだ。IFRSの利益は「のれんを費用にしていない分だけ大きく見えている利益」で、そこに70%を掛ければ、実際に稼いだ現金に対する比率はもっと高くなる。6.0%という利回りは本物だが、それを支える余裕は数字の見た目ほど厚くないという理解が要る。

誤解のないように書いておくと、これは会計上まったく問題のない処理だ。IFRSを採用する会社は日本にも多い。ただ「配当性向70%」という数字だけを見て、どの利益に対する70%なのかを確かめないと、判断を誤るという話になる。

3. のれんは、純資産の半分を占めている

のれんの話が出たので、貸借対照表も見ておく。

図2:純資産161.5億円の中身と、実質的なPBR
2025年12月期末・IFRSベースの純資産161.5億円の中身。純資産のれん83.6億円それ以外77.8億円計 161.5億円のれんが純資産の 51.8% を占めている。表面のPBR(純資産161.5億で割る)1.89倍のれんを除いた実質PBR(77.9億で割る)3.92倍のれんは買収時に生まれた差額で、換金できる資産ではない。表面のPBRは、その分だけ低く見えることになる。

※ 2025年12月期末・IFRSベース。のれん8,363百万円。PBRは想定価格305円で筆者算出。

2025年12月期末のIFRS純資産は161.5億円。そのうちのれんが83.6億円で、51.8%を占めている。2021年のMBOで旧オリバーを買収したときに生まれた差額だ。

のれんは会計上は資産だが、売っても現金にならない。工場や在庫と違って、そこにモノがあるわけではない。だから純資産からのれんを差し引くと、実質的な純資産は77.9億円まで下がる。

PBRで見ると、こうなる。

  • 表面上のPBR(純資産161.5億円で割る)……1.89倍
  • のれんを除いた実質PBR(77.9億円で割る)……3.92倍

PBR1.89倍と聞くと「資産の2倍弱だから、それほど高くない」と感じるかもしれない。しかし資産の中身の半分が、換金できないのれんである。ここは押さえておきたい。

そしてIFRSではのれんを償却しない代わりに、収益性が落ちたときに減損として一度に処理する。83.6億円というのは時価総額305億円の27.4%にあたる大きさで、仮に減損が起きれば影響は小さくない。届出書もこれをリスクとして明記している。

4. 高い配当と、借入契約のあいだにある緊張

もうひとつ、届出書に書かれていて見落としやすい点がある。

図3:利益と配当の関係、そして財務制限条項
借入契約の条件と、配当の大きさは同じ方向を向いていない。2026年12月期の見込み(1億株ベース)当期利益(IFRS)26.2億円配当(DPS 18.33円)18.3億円当期利益(日本基準に引き直し)21.6億円日本基準で見ると、利益21.6億円に対して配当18.3億円。手元に残るのは約3.3億円。2024年6月の金銭消費貸借契約に付された財務制限条項純資産を前期末の70%以上に維持する配当を増やすほど純資産は積み上がりにくい抵触すると一括返済を求められる可能性経常利益の2期連続赤字を回避する景気後退局面では余裕が小さくなる抵触すると一括返済を求められる可能性高い配当と、借入契約が求める財務の厚みは、同時に成り立たせる必要がある。

※ 2026年12月期の会社予想EPS26.18円(IFRS)と予想配当18.33円をもとに筆者算出。日本基準への引き直しは2025年12月期の利益比率で換算した参考値。財務制限条項は有価証券届出書の記載による。

2024年6月の金銭消費貸借契約には、財務制限条項が付いている。純資産を前期末の70%以上に維持すること、経常利益の2期連続赤字を回避すること。抵触した場合は借入金の一括返済を求められる可能性があると記載されている。

ここに緊張がある。日本基準の利益で見ると、2026年12月期は利益21.6億円に対して配当が18.3億円。手元に残るのは3.3億円ほどだ。配当を高く保てば純資産は積み上がりにくく、借入契約が求める財務の厚みとは逆方向に働く。

もちろん現時点で危険という話ではない。自己資本比率は2026年6月末で66.8%まで改善しており、余裕はある。ただ業績が落ちたときに、配当と財務健全性のどちらを取るかという判断を迫られうる構造にはなっている。「配当性向50%以上を目安に維持・増額に努める」という2027年以降の方針も、あくまで努力目標として読むのが正しい。

5. とはいえ、5年間の立て直しは本物だ

ここまで慎重な話が続いたので、評価すべき点を書く。MBO後の財務改善は、素直にすごい。

図4:MBOから再上場までの5年間
上段=総資産と純資産(億円)/下段=自己資本比率(%)1503004504137931391289112273127271150243162■総資産 ■純資産自己資本比率の推移20%40%60%19.12021/1229.22022/1238.92023/1246.52024/1255.62025/1266.82026/122QMBO直後の自己資本比率19.1%から、5年で55.6%まで戻している。総資産が減っているのは、買収時の借入を返してきたため。

※ 日本基準・単体。2026年12月期は第2四半期末時点。

MBO直後の2021年12月期は、総資産413億円に対して純資産78.9億円、自己資本比率19.1%だった。買収資金の借入が重くのしかかっている状態だ。

そこから5年かけて借入を返し、2025年12月期には自己資本比率55.6%、2026年6月末には66.8%まで戻している。総資産が413億円から243億円へ減っているのは、借金を返した結果だ。

同時に売上は2022年12月期の221億円から2025年12月期の350億円へ、3年で1.6倍に伸びている。上場廃止中に内装施工事業へ本格参入し、上流工程の売上を5.3億円から35.9億円へ約6.8倍に増やした。ファンドが入って、事業も財務も実際に良くなったという点は正当に評価されるべきだと思う。

6. 誰が売っていて、あとに何が残るのか

図5:株主構成の変化とロックアップ
発行済1億株に対する比率。上場前はPEファンドが87.0%を保有していた。上場前87.0%13.0%■インテグラル系4者 87.0% ■社長・役職員ほか 13.0%上場直後79.7%13.2%7.1%■市場に放出(売出+OA) 79.7% ■インテグラル系 残存 13.2% ■社長・役職員ほか 7.1%ロックアップは全株主83名が180日、解除価格の条項なし2026/9/16上場浮動株 79.7%2027/3/15頃180日解除残存 13.2〜23.6%が売却可能に解除価格の条項がないぶん期間中は静かだが、明けたあとの処分方針は未定と届出書に記載がある。

※ 上場後の比率はOAが全量行使された場合を「残存13.15%」として算出。行使されない場合の残存は23.55%。ロックアップ解除日は上場日から180日目の目安。

上場前、インテグラル系の4者が87.03%を保有していた。事実上のオーナーはPEファンドだ。今回のIPOでは、そのうち3ファンドが保有株の大部分を放出する。

注目したいのは放出後も残る分だ。オーバーアロットメントが全量行使されたとしても、インテグラル系には13.15%が残る。行使されなければ23.55%だ。

ロックアップは全株主83名が180日で、解除価格の条項が付いていない。前回扱ったKOMPEITOのような「公開価格の1.5倍で解除」という仕組みがないので、期間中は機械的な売りが出にくい。ここは設計として素直だ。

ただし180日が明けるのは2027年3月ごろ。届出書には、インテグラルおよび傘下ファンドが上場後も相当数を保有し続ける可能性があり、その処分方針・時期は未定と明記されている。

加えて潜在株式が約670万株(発行済の6.7%)ある。行使価額は2022年発行分が100円、2025年発行分が230円。想定価格305円に対して深く含み益が乗っており、行使される前提で見ておくのが自然だ。

7. 事業の実力を、同業と並べてみる

図6:同業6社との比較(売上成長率×営業利益率)
横軸=売上成長率/縦軸=営業利益率。丸の中の数字はPER(倍)。7%8%9%10%5%10%15%14.7オリバー10.4オカムラ18.4コクヨ11.8イトーキ12.1丹青社14.3乃村工藝社10.7スペース営業利益率は6社すべてを上回るが、売上成長率は最も低い部類にある。オリバーは日本基準9.07%で比較。IFRSの10.11%で並べると条件が揃わない。

※ オリバーは2025年12月期・日本基準(想定価格305円ベースのPER)、他6社は2026年8月13日時点の会社予想ベース。出典:有価証券届出書、各社IR、Yahoo!ファイナンス。

ここは素直に良い。営業利益率9.07%は、比較した6社すべてを上回る。オカムラ7.3%、コクヨ7.3%、イトーキ8.9%、丹青社7.8%、乃村工藝社7.9%、スペース6.8%。自社工場を持ちながら生産の主体を1,000社超の協力会社に委ねるファブレス型の体制が効いている。

一方で売上成長率5.7%は最も低い部類だ。丹青社の16.7%やスペースの11.4%とは対照的で、成長で買う銘柄ではない。

収益基盤の安定性は高い。継続顧客からの売上が88%、改装案件が60%を占める。建築費の高騰で新築が減るなか、既存建物のリニューアル需要が追い風になっている。伸びないが崩れにくい、という性格の会社だ。

比較するときの注意

この図でオリバーは日本基準の9.07%で並べている。IFRSの営業利益率は10.11%だが、比較対象6社はすべて日本基準なので、IFRSの数字と並べると条件が揃わない。それでも6社中トップという結論は変わらないのだけど、比べるときは基準を揃えるのが基本になる。

8. 四半期を4倍してはいけない

図7:売上の季節性
取引先に官公庁と3月決算の企業が多く、1〜3月に売上が寄る。2025年12月期 第1四半期27.0%通期の27.0%(94.5億円)残りの9か月73.0%通期の73.0%(255.6億円)もし4等分なら1四半期は25.0%。実際は27.0%で、2ポイント厚い。四半期の数字を4倍して通期を見積もると、実態を読み違える。

※ 2025年12月期。第1四半期売上高9,446百万円、通期35,003百万円をもとに筆者算出。

細かい点だが、実務的に効くので書いておく。オリバーは取引先に官公庁と3月決算の企業が多いため、1〜3月に売上が寄る。2025年12月期は第1四半期だけで通期の27.0%を占めた。

上場後に四半期決算を見るとき、この偏りを知らずに数字を4倍すると通期を読み違える。逆に4〜6月期が弱く見えても、それが平常運転という可能性がある。

9. 初値をどう考えるか

図8:初値シナリオの整理
想定価格の上限305円を前提とした条件の整理。予測ではない。オリバー619A2026/9/16 上場想定価格 305円上振れ320〜350円配当利回り6%が個人の買いを集め、重い需給を吸収しきる。中心295〜320円公開価格の前後で決着。多くの予想が集まる範囲。下振れ270〜300円吸収243億円が消化できず、公募割れで始まる。読者アンケートでは6割が公募割れを予想している(庶民のIPO、有効回答214票)。

※ 公開価格は2026年9月8日決定予定。本図は条件の整理であり、初値を予測・保証するものではない。

プラス材料 マイナス材料
予想配当利回り6.0% 吸収243.1億円はスタンダードでは重い
1単元3万円台で買いやすい 公募ゼロ・放出79.7%のファンド出口
営業利益率は同業6社でトップ 再上場案件は人気が出にくい
親引け34.1億円が需給を締める 売上成長率5.7%は低位
180日ロックアップに価格条項なし のれん83.6億円の減損リスク

吸収243.1億円から親引け34.1億円を除くと、実質的に市場が飲み込むのは約209億円。スタンダード市場としては相当に重い。

筆者の見立てとしては、公開価格の前後で決着する公算が大きい。配当利回り6.0%と1単元3万円台という買いやすさが下値を支える一方、吸収金額と出口案件という性格が上値を抑える。どちらかが一方的に効く配置ではない。

参考までに、庶民のIPOの読者アンケートでは6割が公募割れを予想している(有効回答214票)。同サイトの評価もC、初値予想は290〜320円だ。

10. まとめ

  • 配当性向70%はIFRSの利益で計算されている。日本基準に引き直すと84.8%になる
  • 差の正体はのれんの償却。IFRSは償却しないので利益が大きく出るが、出ていく現金は変わらない
  • PBR1.89倍は、のれんを除くと3.92倍。純資産161.5億円のうち83.6億円がのれん
  • 財務制限条項がある。純資産の維持と高配当は同じ方向を向いていない
  • 5年間の立て直しは本物。自己資本比率19.1%から55.6%、売上は3年で1.6倍
  • 営業利益率は同業6社でトップ。ただし成長率は最も低い部類
  • 公募ゼロ・放出79.7%。243億円は全額がファンドに渡り、会社には入らない
  • 180日ロックアップに価格条項なし。期間中は静かだが、明けたあとの方針は未定

オリバーは、伸びはしないが崩れにくい、収益性の高い会社なのだ。配当利回り6.0%も本物だ。ただその6.0%が、のれんを償却しない前提の利益に70%を掛けて出てきた数字であることは知っておいたほうがいい。数字そのものを疑う必要はないけれど、どの土台の上に立っている数字なのかを確かめる。この案件は、その練習にちょうどいいのだ。

公募比率が極端に低いIPOという点ではKOMPEITO(618A)の分析と、需給の重さという点ではGOとティアフォーの比較が参考になる。9月のIPOラッシュ全体はこちらの記事で扱っている。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値は有価証券届出書(2026年8月13日提出)等の公開情報に基づく筆者の集計・試算であり、正確性を保証するものではありません。仮条件は2026年8月31日、公開価格は9月8日に決定予定で、本記事の試算は想定価格の上限305円を前提としています。日本基準への引き直しは2025年12月期の利益比率による筆者の参考値であり、会社発表値ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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