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PBR0.95倍は掘り出し物か|ベルテックス(623A)の安さが織り込んでいるもの

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ベルテックス(623A)は9月18日に東証スタンダードへ上場する、首都圏で投資用マンションを企画・開発・販売する会社なのだ。この案件で目を引くのはPER4.8倍、PBR0.95倍、配当利回り4.6〜5.8%という数字だ。IPO銘柄でこの水準はまず見かけない。ただ「安いから買い」で終わらせると、なぜ安いのかを見落とす。この記事ではそこを分解する。

この記事でわかること

  • PBR0.95倍という数字が何を織り込んでいるのか
  • 金利上昇がこの会社に2つの経路で効いてくる仕組み
  • 前5本の9月案件と違い、これは会社に資金が入るIPOであること

1. 案件の骨格

項目内容
上場日/市場2026年9月18日/東証スタンダード
仮条件530円〜550円(想定価格530円を3.8%上回る)
上場後発行済株式数11,250,000株
公募/売出/OA3,150,000株/600,000株/562,500株
公募比率73.0%
オファリングレシオ38.3%
吸収金額22.8億円〜23.7億円
想定時価総額61.9億円(仮条件上限)
主幹事東海東京証券
1単元の必要資金5.5万円
VC・PEファンドの保有なし

2010年12月設立。首都圏で自社ブランドの新築マンションと中古マンションを、個人投資家や法人顧客に販売している。販売後の賃貸管理・建物管理も手がけ、2026年6月末の賃貸管理戸数は5,259戸、入居率は99.8%。不動産クラウドファンディング「VERFUND」も運営している。

ここまでの5本(KOMPEITO、オリバー、Skyfall、テクノクラフト)と決定的に違う点がひとつある。公募比率73.0%で、VCもPEファンドも入っていない。この点は先に評価しておきたい。

2. 数字が異例に安い

図1:3つの指標が示す水準
仮条件の上限550円で計算。IPO銘柄としては見かけない水準になる。PER4.8倍公募後換算・前期実績PBR0.95倍公募後換算・前期実績配当利回り4.6〜5.8%2026年11月期の想定PBR0.95倍は「解散価値を下回る」水準。IPOでは異例なのだ。ただし「安いから買い」ではない。なぜ安いのかを確かめる必要がある。

※ 仮条件上限550円で算出。PER・PBRは2025年11月期実績を公募後株式数11,250,000株で換算した値。配当は2026年11月期の想定(1株25〜32円)。

PBR0.95倍というのは、会社が今すぐ解散して資産を全部売り払ったときの価値を下回っているということだ。成長期待で買われるIPO銘柄で、この水準はまず出てこない。

配当も、これまで実績はゼロだが2026年11月期は1株25〜32円を想定している。仮条件上限の550円に対して4.6〜5.8%の利回りになる。

ここで立ち止まる

安い数字を見つけたとき、いちばん危ないのは「市場が見落としている」と考えることなのだ。この規模の会社を東海東京証券が主幹事として値付けし、機関投資家の意見も聞いたうえでこの水準になっている。安いのには理由があると考えるほうが自然だと思う。

3. 安いのは、この会社だけではない

まず確かめるべきは、同業他社がどう評価されているかだ。

図2:投資用マンション3社の比較
投資用マンションの開発・販売を手がける3社。2026年8月時点。ベルテックスFJネクストHDグッドコムアセット上場市場スタンダードプライムプライム時価総額61.9億円701億円487億円売上高(直近)349.4億円1,423.7億円545.8億円営業利益率5.4%10.1%5.4%PER4.8倍6.3倍10.1倍PBR0.95倍0.79倍3.26倍配当利回り4.6〜5.8%3.9%2.8%FJネクストHDもPBR0.79倍。安いのはベルテックスだけではない。つまりこれは掘り出し物ではなく、業界そのものに付いている評価なのだ。

※ 2026年8月時点。ベルテックスは仮条件上限550円・公募後換算。FJネクストHD(8935)とグッドコムアセット(3475)は市場株価ベース。出典:庶民のIPO掲載の比較表。

プライム市場に上場しているFJネクストHDも、PBR0.79倍とベルテックスより低い。PERも6.3倍だ。

つまりこれはベルテックスだけが安いのではなく、投資用マンション販売という業態に付いている評価だということになる。掘り出し物を見つけたわけではない。

一方でグッドコムアセットはPER10.1倍、PBR3.26倍と評価されている。営業利益率はベルテックスと同じ5.4%なのに、この差がある。市場が業態だけで一律に安く見ているわけでもない、ということだ。

4. 業績そのものは、素直に良い

図3:売上高と経常利益率の推移
上段=売上高(億円)/下段=経常利益率(%)100200300213.82023/11283.02024/11349.42025/11167.02026/11中間経常利益率の推移2%4%6%1.993.955.035.45売上は2年で1.6倍、経常利益率も1.99%から5.03%へ。業績自体は良い。

※ 単体。2026年11月期は中間会計期間(2025年12月〜2026年5月)の数値で、通期ではない。出典:庶民のIPO掲載の決算情報。

売上は2023年11月期の213.8億円から2025年11月期の349.4億円へ、2年で1.6倍。経常利益率も1.99%→3.95%→5.03%と上がっている。

会社の説明では、利益率の高い自社ブランドマンションを14棟336戸供給したこと、個人・法人向けの販売が増えたこと、賃貸管理戸数と建物管理棟数が増えたことが要因とされている。

2026年11月期の中間期も売上166.99億円、経常利益9.10億円で、経常利益率5.45%とさらに改善している。業績を見るかぎり、この会社を「悪い会社」と呼ぶ理由はない。

5. では、なぜ安いのか

理由は大きく2つあると考えている。ひとつは金利、もうひとつは利益の作られ方だ。

図4:金利上昇が効いてくる2つの経路
金利が上がると、この会社には2つの方向から効いてくる。金利の上昇長期金利は3%台へ① 買う側のローン投資用マンションはローンで買う顧客が多い返済負担が増えて購買意欲が下がる② 会社側の借入販売用の物件在庫を借入で持っている有利子負債依存度は45.9%調達コストが上がる需要が減り、コストが上がる。同じ一つの要因が両側から効く。PERが低いのは、この感応度の高さが値段に入っているからだと考えられる。

※ 有利子負債依存度は2025年11月期末の数値。長期金利は2026年9月上旬時点で3%台まで上昇している。

投資用マンションは、ほとんどの顧客がローンを組んで買う。金利が上がれば毎月の返済負担が増え、同じ物件でも利回りが合わなくなる。買い手が減るということだ。

同時に、会社側も物件在庫を借入で持っている。2025年11月期末の有利子負債依存度は45.9%。金利が上がれば調達コストが直接効いてくる。

需要が減り、コストが上がる。同じ一つの要因が両側から効くという構造になっている。2026年9月上旬時点で長期金利は3%台まで上昇しており、この感応度の高さが今まさに意識されやすい局面にある。

6. 利益は「積み上がる」ものではない

図5:不動産販売の資金サイクル
不動産販売は、仕入れてから売れるまで時間がかかる。① 土地を仕入れる借入で調達② 建てる/改装する1〜2年かかる③ 販売する引渡しで売上計上④ 借入を返す次の仕入れへこの間ずっと借金を抱える有利子負債依存度 45.9%売上は引渡しの月にまとめて立つ四半期ごとの数字がぶれやすい市況が悪化すると値下げか評価損在庫が現金化できないリスク利益は「在庫をさばいた結果」であって、毎月積み上がるものではない。

もうひとつが利益の性質だ。不動産販売業では、土地を仕入れて建てて売るまでに1〜2年かかる。その間ずっと借金を抱え、売上は引渡しの月にまとめて計上される。

これは前回扱ったKOMPEITOのようなサブスク型とは、まったく性質が違う。利益は在庫をさばいた結果であって、毎月自動的に積み上がるものではない。だから四半期ごとの数字がぶれやすく、市況が悪化すれば値下げか在庫評価損という形で跳ね返る。

PERが低い理由の整理

PERは「今の利益が今後も続く」という前提で計算される指標なのだ。その前提が置きにくい業態ほど、PERは低くなる。金利に強く反応し、利益が引渡しのタイミングに左右され、在庫を借金で持つ。PBR0.95倍という数字は、市場がこれらをまとめて値引きしている結果だと考えるのが素直だと思う。

7. ここは正当に評価したい

図6:放出株数の内訳と、お金の行き先
放出4,312,500株。仮条件の上限550円で23.7億円になる。放出株数73.0%13.9%13.0%計 23.7億円■公募 315.0万株 ■売出 60.0万株 ■OA 56.25万株会社に入る資金(公募)17.3億円既存株主が受け取る(売出+OA)6.4億円公募比率73.0%。9月案件のなかでは、会社に資金が入る側のIPOになる。

※ 仮条件上限550円で筆者算出。会社に入る金額は公募株数×550円の額面であり、引受手数料等を控除した実際の手取額とは異なる。

放出4,312,500株のうち公募が73.0%を占める。金額にして約17.3億円が会社に入り、既存株主が受け取る売出とOAは約6.4億円にとどまる。

9月案件を並べると、この差は大きい。KOMPEITOは公募1.04%、オリバーは公募ゼロ、テクノクラフトは19.2%。ベルテックスは「会社が成長資金を取りにいくIPO」の側にある。VCもPEファンドも入っておらず、出口案件ではない。

売出600,000株はすべて社長の梶尾祐司氏の分で、保有8,130,000株の7.4%にすぎない。

8. 一方で、支配構造は極端に集中している

図7:株主構成とストックオプション
上場後発行済11,250,000株に対する比率。VCは入っていない。上場前91.5%8.5%■梶尾祐司(社長) 91.5% ■役員・従業員ほか 8.5%上場直後38.3%61.9%■市場に放出 38.3% ■梶尾祐司(社長) 61.9%ストックオプション(未行使)株数789,000株(公募後発行済の7.0%)行使価額1円 〜 1,050円うち1円のもの実質的に株式を渡すのと同じ効果になる社長が6割を持ち続けるため支配は安定するが、流通株は少なくなる。

※ 上場後の比率はOAが全量行使され、その全量が社長の貸株だった場合の想定。実際の貸株人と行使状況により変動する。

社長は上場前に91.5%を保有し、上場後も6割超を持ち続ける。出口目的の株主がいないのは安心材料だが、裏を返せば流通株が少ないということでもある。少数株主の意見が経営に反映されにくい構造は、頭に入れておきたい。

ストックオプションは789,000株で公募後発行済の7.0%。行使価額は1円から1,050円まで幅がある。1円のものは実質的に株式を渡すのと同じ効果になり、行使されれば希薄化する。一方で1,050円のものは公開価格の約2倍で、現状では行使する意味がない水準にある。

9. 事業の強みも書いておく

  • 賃貸管理戸数5,259戸、入居率99.8%。販売後も続くストック収益がある
  • 自社開発と中古の両方を扱う。市況に応じて仕入れの選択肢を変えられる
  • 10以上の金融機関と提携。顧客のローン提案の幅が広い
  • FP技能士・税理士・建築士を揃えたコンサル体制。単純な物件販売と差別化している
  • 不動産ファンド「VERFUND」。今後SPC型も加え、販売以外の収益源を育てる方針

会社の課題認識も明確で、不動産販売への依存を管理戸数とファンドでどこまで補えるかが成長戦略の中心に置かれている。ここが進めば、業態に付いている「低PER」の評価そのものが変わる余地はある。

気になる点も1つ。従業員257名、平均年齢35.2歳に対して平均勤続年数3年、平均年間給与786.7万円。給与水準は高いが勤続は短く、成果報酬型の営業組織であることがうかがえる。人の入れ替わりが販売力に直結する業態だという点は、リスクとして見ておきたい。

10. 初値をどう考えるか

図8:初値シナリオの整理
仮条件は530〜550円。想定価格530円を3.8%上回る水準に決まった。ベルテックス623A2026/9/18 上場仮条件上限 550円上振れ700〜800円配当利回り5%台とPBR1倍割れが個人の買いを集める。中心620〜700円割安評価が一定に効く。多くの予想が集まる範囲。下振れ520〜620円長期金利3%台と同日4社上場で不動産株が敬遠される。読者アンケートでは公募割れ予想が15%と、9月案件のなかでは最も低い。

※ 公開価格は2026年9月10日決定予定。本図は条件の整理であり、初値を予測・保証するものではない。

プラス材料マイナス材料
PBR0.95倍・配当利回り4.6〜5.8%長期金利が3%台まで上昇
公募73.0%でVC・PEの出口ではない同日に4社が上場し資金が分散
1単元5.5万円で買いやすいオファリングレシオ38.3%は高め
売上2年で1.6倍、利益率も改善不動産株はIPOで人気化しにくい
仮条件が想定価格を3.8%上回った吸収23.7億円はスタンダードでは中型

読者アンケートで公募割れ予想が15%というのは、9月案件のなかでは最も低い。KOMPEITOやテクノクラフトが50%超だったことを考えると、市場は割安さを一定に評価していると読める。

筆者の見立てとしては、公開価格を上回って始まる公算がやや優勢だと考える。ただし不動産株という業態と長期金利3%台という環境が上値を抑えるので、大幅高は見込みにくい。

11. まとめ

  • PER4.8倍・PBR0.95倍・配当利回り4.6〜5.8%。IPOでは異例の水準
  • 安いのはこの会社だけではない。FJネクストHDもPBR0.79倍。業態に付いた評価
  • 金利は2つの経路で効く。顧客のローン負担と、自社の借入コスト(依存度45.9%)
  • 利益は積み上がらない。在庫をさばいた結果であり、引渡しのタイミングに左右される
  • 公募比率73.0%。約17.3億円が会社に入る。9月案件では珍しく出口案件ではない
  • 社長が上場後も6割超を保有。安定する一方で流通株は少ない
  • 業績は素直に良い。売上2年で1.6倍、経常利益率1.99%→5.03%
  • SOは789,000株(7.0%)。行使価額1円のものが含まれる

ベルテックスは、業績が伸びていて、会社に資金が入る設計で、出口ファンドもいない。9月案件のなかでは構造がいちばん素直だと思う。それでもPBRは1倍を割っている。この数字は市場の見落としではなく、業態が抱えるリスクの値段だと考えるのが自然だ。安さを見つけたら、その理由まで確かめる。それができるかどうかが、バリュー投資と安物買いの分かれ目になるのだ。

同じ9月案件では、公募比率1.04%のKOMPEITO(618A)、公募ゼロのオリバー(619A)、のれん減損を追ったSkyfall(625A)、上場前配当を扱ったテクノクラフト(622A)を分析している。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。本記事の財務数値および株主構成は、目論見書を引用した公開情報(庶民のIPO、かぶリッジ等)に基づく筆者の集計・試算であり、目論見書原本を直接参照したものではありません。正確性を保証するものではないため、投資判断にあたっては必ず目論見書をご確認ください。公開価格は2026年9月10日に決定予定で、本記事の試算は仮条件上限550円を前提としています。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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この記事を書いた人

睦月六弦

ITエンジニア × 長期投資家

投資歴は約10年。FXや信用取引など短期売買での失敗を経て、現在は個別株とインデックス投資を中心に、長期保有を基本とした運用を続けています。本業のITエンジニアの仕事柄、数字やデータから「なぜそうなるのか」を考えるのが好きです。

「上がる・下がる」だけでなく、なぜ動いたのか、そのニュースが企業や投資にどうつながるのかを、決算・金利・為替などの数字や一次情報をもとに読み解いています。

本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。