「中国版Nvidia」3社の上半期決算を本家と比較|寒武紀・沐曦・摩爾線程
「中国版Nvidia」3社の上半期決算を本家と比べてみた――売上は約135分の1、それでも見えた“収益化の階段”
寒武紀・沐曦・摩爾線程の2026年上半期決算を、Nvidiaと同じ物差しで比較。売上・利益の規模、収益化の段階、キャッシュフローと在庫まで、数字で整理します。
2026年10月5日時点の公開情報にもとづく
この記事の要点
- 規模の差は約135倍。国産GPU3社(寒武紀・沐曦・摩爾線程)の上半期売上を足しても約13.2億ドル。Nvidiaは同じ半年で1,778億ドルを売り上げました。
- 3社は「収益化の階段」の別々の段にいます。摩爾線程は投資先行、沐曦は損益分岐の手前、寒武紀はすでに規模で稼ぐ段階。粗利率はそろって55〜57%で、Nvidiaの75%とは約20ポイントの差があります。
- 最大の弱点は現金です。寒武紀ですら本業利益のうち営業CFになったのは約14%。沐曦と摩爾線程は売上と同じかそれ以上の現金が出ていきました。
- 次の決算で見るべきは在庫と営業CF。売上の伸び率より、先回りで積み上げた在庫が売上と現金に変わるかどうかが、株価の期待を支えられるかの分かれ目です。
01比較のルール:期間・為替・「本業ベース」
中国の国産GPU3社と本家Nvidiaは、決算期も通貨も会計基準も違います。そのまま並べると誤解を生むので、この記事では次の3つのルールで数字をそろえました。
- 期間:中国3社は2026年1〜6月の上半期報告。Nvidiaは2027年度の第1・第2四半期の合計(2026年1月下旬〜7月下旬)。約1か月ずれますが、ほぼ同じ半年です。
- 為替:人民元はドルに換算するとき、上半期の概算平均の1ドル=6.88元を使いました(年初の約6.98元から6月末の約6.79元まで元高が進んだ期間です)。
- 本業ベース純利益:中国企業は「扣非純利益」(投資の評価益など一時的な損益を除いた純利益)、Nvidiaは会社が開示するNon-GAAP純利益(保有株の評価益などを除いた数字)を使いました。
02規模:Nvidiaは3社合計の約135倍
まずは大きさです。3社の上半期売上を合計すると90.6億元、ドル換算で約13.2億ドル。Nvidiaは同じ半年で1,778億ドルを売り上げ、3社合計の約135倍にあたります。
利益で比べると差はさらに開きます。3社の本業ベース純利益は合計で約2.86億ドル。Nvidiaは995億ドルで、約348倍です。わかりやすい比較をもう1つ挙げると、Nvidiaが上半期に使った研究開発費(133.8億ドル)だけで、3社の売上合計の約10倍になります。
ただし、この差を「中国勢はまだまだ」と片付けるのは早計です。Nvidiaは第3四半期の見通しに中国向けデータセンター用GPUの売上を一切織り込んでいません。つまり両者はいま、ほぼ別々の市場で戦っています。中国3社にとっての問題は「Nvidiaに追いつけるか」より、「Nvidiaがいなくなった中国市場を、利益と現金を伴って埋められるか」です。
03収益化の段階:3社は階段の別々の段にいる
同じ「国産GPU」でも、3社の決算はまったく違う顔をしています。図2は横軸に売上の伸び(前年同期比)、縦軸に本業ベース純利益率をとったマップです。右上ほど「速く伸びて、しかも儲かっている」ことを意味します。
段1 摩爾線程:伸びは最速、でもまだ投資先行
売上は前年同期比+147.42%と3社で最も速く伸び、半年で前年1年分(15.06億元)を超えました。粗利率も56.95%と悪くありません。それでも本業ベースでは1.51億元の赤字です。理由は研究開発費の重さで、売上の44.3%を研究開発に使っています。第1四半期は初の四半期黒字でしたが、第2四半期は再び赤字に戻りました。
段2 沐曦:損益分岐の一歩手前
売上の伸びは+44.67%と3社で最も緩やかです。上半期の本業ベース損益はなお0.49億元の赤字ですが、第2四半期だけを見ると本業で0.54億元の黒字に転じました。四半期単位で黒字が続くかどうかが、次の焦点です。
段3 寒武紀:規模で稼ぐ段階に入った
売上59.96億元(+108.13%)、本業ベース純利益21.66億元(+137.30%)で、本業利益率は36.1%。利益の伸びが売上の伸びを上回っています。注目したいのは、粗利率は55.25%で前年とほぼ同じだという点です。利益率を押し上げたのは値上げではなく、売上が急増して研究開発費などの固定費が薄まったこと(研究開発費は売上の11.7%まで低下)でした。
段4 Nvidia:完成形のビジネス
Nvidiaは売上+95.8%という高成長を続けながら、粗利率75.0%、本業利益率56.0%を両立しています。中国3社の粗利率は55〜57%でほぼ横並びなので、粗利率だけで約20ポイントの差があります。これは製品の値付け力、ソフトウェア(CUDA)を含めた囲い込み、そして最先端の製造ラインを使えるかどうかの差が、そのまま数字に出たものと読めます。
04「見かけの利益」に注意:沐曦とNvidiaの共通点
沐曦は上半期の純利益を6.12億元と報告し、「黒字転換」と報じられました。しかし中身を見ると、保有する金融資産の値上がり益(公正価値変動益)が8.87億元あり、これが税引前利益の100%超を占めています。これを除いた本業ベースでは0.49億元の赤字です。
実はNvidiaにも同じ構造があります。上半期の純利益は1,180億ドルですが、そのうち保有株の評価益が税引前で237億ドルありました。これを除いたNon-GAAP純利益は995億ドルです。
05キャッシュフロー:利益は現金になっているか
会計上の利益が出ていても、実際にお金が入ってこなければ会社は回りません。それを見るのが営業キャッシュフロー(営業CF)です。図3では、本業ベース純利益と営業CFをそれぞれ売上高で割り、規模の違う4社を同じ物差しで比べました。
- 寒武紀:本業利益21.66億元に対し、営業CFは3.11億元(前年同期比−65.83%)。利益の約14%しか現金になっていません。会社は仕入れと納税の支払い増を理由に挙げており、前払金は29.14億元まで膨らみました。
- 沐曦:営業CFは−12.97億元で、売上(13.24億元)とほぼ同じ額の現金が出ていきました。手元資金は年初の67.21億元から43.52億元に減っています。
- 摩爾線程:営業CFは−21.69億元。売上(17.36億元)を上回る現金が流出しており、香港での追加上場(A+H)を計画している背景の1つと考えられます。
- Nvidia:営業CFは744億ドルで、本業利益の約75%。売掛金の増加で比率は下がっていますが、桁違いの現金を生んでいます。
06在庫:先回りで積み上げた「将来の売上」
中国3社の現金が減っている主な理由は、在庫と前払金です。中国では先端チップの製造能力(SMICなど)や高性能メモリが不足しているため、各社は製造枠を先に押さえ、部材を前もって買い込んでいます。図4は、期末の在庫が上半期の売上の何倍にあたるかを示したものです。
摩爾線程の在庫は35.50億元で、半期売上の2.04倍。年初から約166%増えました。寒武紀は82.48億元(1.38倍)で、3月末の44.97億元から1四半期で37.51億元も積み増し、総資産の45%を在庫が占めています。沐曦は14.3億元(1.08倍)で、すでに1.97億元の評価損を計上しています。
一方、Nvidiaの在庫は316億ドルと金額こそ大きいものの、半期売上の0.18倍にすぎません。需要が続く限り、中国3社の在庫は「将来の売上」です。しかし需要が鈍ったり次世代品への切り替えが早まったりすれば、在庫は評価損として利益を削ります。寒武紀自身も半期報告で在庫の評価損リスクを明記しています。
07一覧表と株価の織り込み度
ここまでの数字を1つの表にまとめました。最後の行のPSR(株価売上高倍率)は、時価総額を年間の売上で割った値で、「売上の何年分の値段がついているか」を示します。ここでは上半期の売上を2倍して年率換算しました。
| 指標 | 寒武紀 | 沐曦 | 摩爾線程 | Nvidia |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 59.96億元 | 13.24億元 | 17.36億元 | 1,778億ドル |
| 前年同期比 | +108.13% | +44.67% | +147.42% | +95.8% |
| 粗利率 | 55.2% | 57.2% | 56.9% | 75.0% |
| 純利益(報告) | 23.11億元 | 6.12億元 | −0.12億元 | 1,180億ドル |
| 本業ベース純利益 | 21.66億元 | −0.49億元 | −1.51億元 | 995億ドル |
| 本業利益率 | 36.1% | −3.7% | −8.7% | 56.0% |
| 営業CF | 3.11億元 | −12.97億元 | −21.69億元 | 744億ドル |
| 研究開発費÷売上 | 11.7% | 39.7% | 44.3% | 7.5% |
| 在庫÷半期売上 | 1.38倍 | 1.08倍 | 2.04倍 | 0.18倍 |
| PSR(年率換算) | 52.9倍 | 73.9倍 | 56.2倍 | 15.5倍 |
| 時価総額の基準日 | 9月30日 | 9月11日 | 9月7日 | 9月30日 |
中国3社のPSRは50〜70倍台で、Nvidiaの約16倍を大きく上回ります。株価は「いずれNvidiaのような利益率に近づく」という未来をかなり先取りしていると言えます。なお時価総額は取得できた直近値で基準日がそろっていません。摩爾線程の9月7日は、大量の株式の売却制限が解けた(ロックアップ解除)日で、株価がストップ安まで下げた日の数字です。
08次の決算で確認したい4つのポイント
- 寒武紀の売上の伸びは戻るか:第2四半期単独の売上の伸びは前年同期比+75.8%と、第1四半期(+159.6%)から減速しました。利益率を保ったまま伸びが戻るかを見ます。
- 在庫と前払金が売上に変わるか:3社とも在庫と前払金が急増しています。次の四半期で在庫が減り、営業CFが改善すれば、先回り調達が正しかった証拠になります。
- 沐曦・摩爾線程の本業黒字が定着するか:沐曦は第2四半期に本業黒字、摩爾線程は第1四半期に最終黒字を出しましたが、いずれも1四半期だけです。
- 競争相手の動き:ファーウェイは学習用の新チップ「昇騰950DT」を2026年10〜12月期に投入する計画です。国内シェア首位のファーウェイの供給が増えれば、3社の価格と粗利率に影響します。
中国A株の第3四半期報告は10月末が提出期限です。Nvidiaは第3四半期の売上を1,080億ドル(±2%)と見込んでおり、例年どおりなら11月下旬に発表されます。
まとめ
- 国産GPU3社の上半期売上は合計で約13.2億ドル。Nvidiaとの差は約135倍で、短期間に埋まる差ではありません。ただし両者はほぼ別の市場で戦っています。
- 収益化の段階で並べると、摩爾線程(投資先行)→ 沐曦(損益分岐の手前)→ 寒武紀(規模で稼ぐ)→ Nvidia(完成形)の順になります。
- 3社に共通する弱点は現金です。3社合計の営業CFは−31.6億元。利益が出ても、在庫と前払金に吸い込まれています。
- 株価は売上の50〜70倍台の評価がついており、期待はかなり先取りされています。次の決算では、売上の伸びよりも「在庫が減って現金が増えたか」に注目したいところです。
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出典:寒武紀 2026年半年度報告(新浪財経)/摩爾線程 2026年半年度報告(PDF)/沐曦股份 2026年中報(騰訊新聞)/沐曦の利益構成(虎嗅)/NVIDIA Announces Financial Results for Second Quarter Fiscal 2027
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