【国策テーマウォッチ】中国の「算力国産化」はどこまで進んだか
中国の「算力国産化」はどこまで進んだか――国産AIチップは4割から8〜9割へ、残る壁はメモリと製造装置
米国の輸出規制から4年。中国のAIチップ市場で国産品はどこまで増えたのか。シェアのデータ、担い手、国策、そして残るボトルネックを整理します。
2026年10月5日時点の公開情報にもとづく
この記事の要点
- 国産化は「4割」から「8〜9割」へ。2025年に中国で出荷されたAI加速カードのうち国産品は約41%。2026年は80〜90%に達するとの予測が出ています。
- 主役はファーウェイ。2025年の国産品出荷165万枚のうち、ファーウェイが約49%を占めました。寒武紀やアリババ、百度系がそれに続きます。
- 国策が需要を「囲い込んで」います。公的資金のデータセンターでは国産チップの使用が求められ、米国製H200の輸入も中国側が止めています。
- 残る壁はメモリと製造装置。HBMは約90%を海外に依存し、製造装置の国産化率は20〜30%。チップを作る力が需要に追いついていません。
01「算力国産化」とは何か
「算力」は中国語で計算能力のこと。AIの開発や運用に使う計算能力を、海外製(主にNvidia)のチップに頼らず、国内で設計・製造したチップでまかなおうというのが「算力国産化」です。
きっかけは2022年に始まった米国の輸出規制です。最先端のAIチップが中国に入りにくくなり、中国政府は国産化を安全保障の課題として位置づけました。かつては中国のAIチップ市場もほぼNvidiaの独壇場でしたが、その構図はこの数年で大きく変わっています。
02数字で見る進捗:国産品の割合は4割から8〜9割へ
国産化の進み具合を、調査会社のデータで見てみます。注意したいのは、調査ごとに数え方(出荷台数か売上か、高性能品だけか)が違う点です。図1では基準を併記しています。
IDCによると、2025年に中国で出荷されたAI加速カードは約400万枚で、そのうち国産品は165万枚、約41%でした。中原証券は、国産品の割合が2025年上半期の35%から下半期には46%へ上がったと分析しています。
2026年については、米調査会社バーンスタインが売上ベースで約80%(ファーウェイ単独で約50%)、台湾のTrendForceは高性能品で約90%に達すると予測しています。一方、Nvidiaの割合は2026年に1割を下回るとの見方が多くなっています。
03誰が担っているのか:ファーウェイが国産の半分
国産勢の中心はファーウェイです。2025年の出荷は81.2万枚で、国産品全体の約49%を占めました。ただし、単独のメーカーとしてはNvidia(約220万枚)がなお最大で、ファーウェイはその約37%にとどまります。2025年の時点では、国産化は「途中経過」だったことがわかります。
2026年は生産の拡大が本格化しています。ファーウェイは推論向けの「昇騰950PR」を2026年1〜3月期から出荷し、年間で約75万枚を目標にしていると報じられています。寒武紀は2026年に約50万枚(うち上位品30万枚)への増産を計画しています。中国のAI開発企業DeepSeekは、内モンゴルのデータセンターで推論に使うため、ファーウェイの新チップ「昇騰950DT」を少なくとも16万枚発注したと報じられました。
04国策の後押し:需要を国内に「囲い込む」
国産化がここまで速く進んだのは、技術の進歩だけが理由ではありません。政府が需要の側から国産チップを後押ししているためです。主な施策を整理します。
- 公的データセンターでの国産チップ使用(2025年11月報道):国の資金が入るデータセンターでは、国産AIチップの使用が求められるようになりました。
- 約2兆元のAIデータセンター計画(2026年報道):今後5年で約2兆元を投じ、AIチップを含む技術の80%以上を国内から調達する計画と報じられています。
- 半導体の国家ファンド第3期(2024年5月):3,440億元規模で、製造装置や材料などの川上分野を厚く支援します。
- H200の輸入停止(2026年1月):米国が条件付きでNvidiaのH200の輸出を認めた直後、中国の税関は「H200は輸入できない」と通知したと報じられました。
つまり中国では、性能や価格で多少劣っても国産チップを選ぶ理由が、政策によってつくられています。国産メーカーにとっては需要が保証された状態ですが、裏を返せば、純粋な競争力がどこまで育っているかは見えにくくなっています。
05残る壁:チップを「作る力」が足りない
需要は国策で確保できても、供給の側にはまだ大きな壁があります。AIチップは、設計・製造・メモリ・ソフトウェアがそろって初めて動きます。それぞれの国産化の状況をまとめると、次のようになります。
| 分野 | 現状 | 評価 |
|---|---|---|
| チップの設計 | 国産品の割合 約41%(2025年)→ 8〜9割の予測 | 進展 |
| 先端の製造能力 | 14nm以下の生産能力は世界の約5% | 不足 |
| 製造装置 | 国産化率は20〜30% | 不足 |
| 高性能メモリ(HBM) | 約90%を韓国2社に依存。国産の量産は始まったばかり | 最大の壁 |
| 1枚あたりの性能 | 多数のチップを束ねる「スーパーノード」で補う | 工夫で対応 |
最も深刻なのはHBM(高性能メモリ)です。AI用チップには大容量で高速なメモリが欠かせませんが、中国は約9割を韓国のサムスン電子とSKハイニックスに頼っています。国内では長鑫存儲(CXMT)がHBM3Eの小規模生産を始めたものの、韓国勢より約2年遅れているとされます。DeepSeekの大口発注も、HBMの制約で納入に1年以上かかる可能性があると報じられました。
性能の差については、中国勢は「数で補う」戦略をとっています。1枚あたりの性能は海外の最先端品に及ばなくても、1つのラックに多くのチップを詰め込むスーパーノード技術で、ラック単位の計算能力の差を縮めているとUBS証券は分析しています。
06投資の視点:恩恵と過熱の両面
モルガン・スタンレーは、中国のAIチップ市場が2030年に約910億ドルに広がり、そのうち約70%(約600億ドル)を国産品が占めると予測しています。市場そのものが伸びるうえに、国産品の取り分も増えるという、二重の追い風です。
- 恩恵を受けやすい分野:AIチップの設計会社(寒武紀、沐曦、摩爾線程など)に加え、製造を担うファウンドリー(SMICなど)、製造装置メーカー(北方華創、中微公司など)。メモリの長鑫存儲は非上場です。
- 過熱のサイン:国産GPU各社の株価は、売上の50〜70倍台の評価がついています。期待の大部分はすでに株価に反映されていると見るべきです。
- リスク:HBM不足による生産の頭打ち、各社の増産による価格競争、そして米国による製造装置やメモリへの追加規制です。
07今後のチェックポイント
- 昇騰950DTの量産:ファーウェイは学習用の950DTを2026年10〜12月期に投入する計画です。予定どおり量産できるかが、国産化の次の段階を占います。
- 国産HBMの立ち上がり:長鑫存儲のHBMが量産に移れるか。供給制約が緩めば、国産チップの出荷はさらに伸びます。
- 第3四半期決算(10月末まで):寒武紀・沐曦・摩爾線程が、在庫を売上と現金に変えられているか。
- 米中関係:11月に米中のAI対話が予定され、11月10日には中国のレアアース輸出規制の一時停止が期限を迎えます。
まとめ
- 中国の算力国産化は、2025年の約41%から2026年には8〜9割へと、予想を上回る速さで進んでいます。
- 原動力は技術の進歩に加え、公的データセンターでの国産品の使用要件やH200の輸入停止といった、需要を国内に囲い込む政策です。
- 残る壁はHBMと製造装置。「売れるのに作れない」状態が続く限り、国産化のスピードは供給側で決まります。
- 投資では、チップ設計会社だけでなく、製造・装置の国産化も含めた供給網全体で恩恵と過熱の両面を見ることが大切です。
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出典:IDC:中国AIチップ市場出荷(騰訊新聞)/中原証券:国産AIチップの国産化率(Tiger Brokers)/バーンスタイン:2026年国産AI加速カードのシェア予測(新浪)/TrendForce予測・DeepSeek発注・CXMT(China AI Weekly)/公的データセンターの国産チップ要件(Tom's Hardware)/2兆元のAIデータセンター計画(Quartz)/UBS:算力国産化(TechNews)/Omdia:中国半導体市場とHBM(鉅亨号)/モルガン・スタンレー:中国AIチップ市場予測(鉅亨号)/中国税関のH200通知(Kuwait Times)/ファーウェイ・寒武紀の2026年生産計画(Nasdaq)
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