ホルムズ海峡封鎖から半年、原油96ドル ── 日本株を3つのシナリオで読む
ホルムズ海峡が事実上ふさがれてから、9月で半年が過ぎました。半年のあいだに原油相場は暴騰と暴落を2回くり返し、そのたびに日本株も上下しています。この記事では「結局これからどうなるのか」を当てにいくのではなく、起こりうる3つの筋道を先に並べておいて、どのニュースが出たらどの筋道に入ったと判断できるのかを整理します。投資の経験が浅い方でも読めるように、用語からひとつずつ説明していきます。
この記事の要点
- 封鎖は続いており、9月1日には米軍が対イラン攻撃を数十カ所に拡大。ブレント原油は96ドル台と直近6週間で最高値をつけた
- 日本が使う原油のおよそ4分の3が、この海峡を通っている
- 原油高は業種ごとに「効いてくるまでの時間」がまったく違う。すぐ効く業種と、1年かけて効く業種がある
- 相場はすでに「収束」を2回織り込んで2回はずしている。方向を当てにいくより、分岐の見分け方を持っておくほうが実用的
1. いまの数字の現在地
まず、事実関係を数字で確認します。2026年9月2日から3日にかけての状況は次のとおりです。
| 項目 | 直近の水準 | 補足 |
|---|---|---|
| ブレント原油 | 96ドル台 | 3営業日続伸。直近6週間で最高値(9/2) |
| WTI原油 | 92ドル台 | 時間外取引で一段高(9/2) |
| 海峡の通航量 | 平時の約1/10 | 軍事作戦開始前との比較(8/28時点) |
| 戦争リスク保険料 | 平時の約40倍 | 大手コンテナ船社4社が海峡の利用を停止 |
| ガソリン全国平均 | 170.4円/L | 補助金32.5円/Lを投入したうえでの水準(9/2) |
| 日経平均 | 64,214円 | 9/3終値。9/2は1,889円安(−2.9%) |
注目したいのは、ガソリンの170.4円という数字です。これは1リットルあたり32.5円の補助金を入れたうえでの価格で、補助がなければ200円前後の計算になります。政府は「170円程度に抑える」という目安を9月以降も維持する方針を表明しており、財源には6月成立の補正予算で新設された「中東情勢等対応予備費」2兆5,000億円が充てられています。つまり、店頭価格が落ち着いて見えるのは、原油高が止まったからではなく、財政で押さえ込んでいるからです。
2. そもそもホルムズ海峡とは何か
用語:ホルムズ海峡
ペルシャ湾とインド洋を結ぶ海峡で、いちばん狭いところで幅約21マイル(約34km)。北岸がイラン、南岸がUAEとオマーンです。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、イランから運び出される原油の大半がここを通ります。その量は日量およそ1,650万バレルで、世界の原油供給の約2割にあたります。
世界の2割という数字だけでも大きいのですが、日本にとってはさらに重い意味を持ちます。日本は原油の99.7%を輸入に頼っており(2024年度速報値)、そのうち約94%が中東からです(2025年貿易統計)。そして中東から日本へ向かうタンカーの約8割がホルムズ海峡を通ります。
かけ算をすると、日本が使う原油の約75%——およそ4分の3が、この1本の海峡に依存している計算になります。欧米が自国産の原油や別ルートに切り替えやすいのに対して、日本には代わりがありません。日経平均が原油のニュースにこれほど反応するのは、この構造があるためです。
なお、国内には204日分の石油備蓄があります(2026年8月17日時点、国家103日分+民間98日分)。ただし備蓄は「時間を買う」ための仕組みであって、価格そのものを下げる仕組みではありません。備蓄があるから安心、という話にはならない点は押さえておきたいところです。
3. 半年で相場は2回「収束」を織り込み、2回はずした
ここがこの記事のいちばん大事な部分です。多くの人は「中東が緊迫→原油上昇」という一方向の動きを想像しますが、実際に起きたのは激しい往復でした。
流れを言葉にすると、こうなります。
- 1回目の往復:2月28日の攻撃開始で急騰し、3月8日にブレントが4年ぶりに100ドルを突破、ピークは126ドル。日経平均は3月9日に2,892円安と、当時の歴代3位の下落幅を記録しました。ところが4月7日に米イランが2週間の停戦で合意し、4月17日にイラン外相が封鎖解除を表明すると、WTIは112.95ドルから83.85ドルへ急落します。
- 2回目の往復:6月17日に戦闘終結の覚書が署名され、市場は「今度こそ終わる」と判断。ブレントは6月22日に77.90ドルまで下げ、4か月ぶりの安値圏に入りました。しかし覚書は通航再開の実施合意をともなっておらず、7月25日のタンカー通航は依然ゼロ。そして8月末から9月にかけて攻撃が再拡大し、ブレントは96ドル台へ戻っています。
ここから読み取れる教訓は明快です。政治的な合意の発表と、実際に船が通ることは別の段階であるということ。停戦合意も覚書も出ましたが、封鎖そのものは解けませんでした。今後同じような「収束報道」が出たときに、価格が動く前に本物かどうかを判断する材料が要る、というのが次章以降の話につながります。
4. 原油高は「時間差」で効いてくる
原油が上がると企業の利益が減る、というのは大ざっぱには正しいのですが、実際には業種によって効きはじめる時期が大きくずれます。この時間差を理解しておくと、「もう織り込み済みなのか、これから効くのか」の判断ができるようになります。
用語:価格転嫁(パススルー)
仕入れコストが上がった分を、製品やサービスの値段に乗せることです。転嫁が速い会社は利益を守れますが、遅い会社は一時的に利益が削られます。制度で自動的に転嫁される仕組み(電気の燃料費調整、航空の燃油サーチャージ)と、交渉で決まる仕組み(運賃、素材価格)では、スピードがまるで違います。
具体例を挙げます。
- すぐ効く(プラス側):資源開発や石油元売りです。INPEXは2026年12月期の連結純利益を従来予想から600億円引き上げ、前期比29%増の5,100億円と過去最高を見込んでいます。8月31日の東京市場でも電気・ガス、鉱業、石油・石炭が上位で、指数が下げるなかで逆行高していました。
- すぐ効く(マイナス側):海運です。喜望峰回りの迂回ルートを採ると航海日数が約2週間増え、燃料費と運航効率の両方が悪化します。ある大手は2026年度通期の純利益を前年比20%減の1,700億円と見込んでいます。
- 2〜4か月遅れ:空運です。燃油サーチャージは2か月前の市況平均で決まる仕組みのため、値上がりが客の支払いに反映されるまで時間がかかります。JALの決算説明では、5〜6月分のサーチャージは2〜3月の市況で決まっていたと説明されています。逆に言えば、原油が下がってもサーチャージが下がるのは数か月後です。
- 3〜6か月遅れ:電力・都市ガスです。燃料費調整制度を通じて反映されますが、平均を取ってから反映するまでにタイムラグがあります。私たちの電気代に今きているのは、数か月前の燃料価格です。
- 半年〜1年:小売・外食・食品、そして中小企業全般です。第一生命経済研究所の試算では、末端までの価格転嫁が一巡するには1年程度を要するとされています。転嫁が遅れる中小企業では採算が悪化し、賃上げの勢いが鈍るリスクが指摘されています。
つまり、いま9月時点で私たちが目にしている物価上昇は、おおむね春から初夏にかけての原油価格が反映されたものです。8月末からの再上昇分は、これから年末にかけて効いてきます。
5. ここからの3つのシナリオ
ここまでの整理をふまえて、これからの筋道を3つに分けます。確率を当てにいくのではなく、「どの数字を見れば、いまどの筋道にいるか分かるか」をセットで持っておくのが目的です。
シナリオA:膠着が続く
攻撃と報復が散発的に続き、封鎖も解けないまま時間が過ぎる筋道です。半年間の実績を見るかぎり、もっとも可能性が高いとみられます。原油はブレント90〜105ドルのレンジで高止まりし、日本のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)は2%台後半で推移します。日銀は7月の展望レポートで、2026年度後半以降にコアCPIが2%をはっきり上回る水準まで伸びを高めると予想しています。
このシナリオで論点になるのは財政です。ガソリン補助と電気・ガス料金支援をいつまで続けるのか。電気・ガス支援は7〜9月で所要額約0.5兆円、ガソリン補助は予備費2兆5,000億円が裏づけです。長期化すればするほど、出口をめぐる議論が相場材料になります。
シナリオB:収束して通航が戻る
停戦が実際の通航再開につながる筋道です。市場は6月にいちどこれを織り込み、ブレントは77.90ドルまで下げました。したがって、実現した場合の価格の目安としては70〜80ドル圏が参照点になります。
このとき起きるのはセクターの総入れ替えです。これまで買われてきた資源・エネルギー・非鉄が利益確定に押される一方、コストで叩かれてきた空運、陸運、化学、小売が反発します。ただし前述のとおり、燃油サーチャージや燃料費調整のタイムラグがあるため、原油が下がっても業績改善が数字に出るのは数か月後です。株価の反応と決算の改善にはズレが出ます。
シナリオC:さらに拡大する
確率は低いものの、影響がもっとも大きい筋道です。他戦線への波及、機雷の再敷設、船舶攻撃の本格化などが起きれば、3月のピークである126ドルが再び意識されます。ブレント120〜140ドル圏です。
この局面では、日本株は全面安になりやすい構造があります。エネルギー価格上昇の恩恵を受けるセクターは、日本の株式市場では時価総額・利益ともに占める割合が小さく、指数全体としては逆風のほうが大きいためです。3月9日の2,892円安がその実例でした。また木内登英氏(野村総合研究所)は、供給不足が深刻化した場合に政府が電力・石油製品の消費自粛を要請する可能性を指摘しており、規制にまで進めば実体経済への打撃はさらに大きくなります。
6. どのサインを見るか
シナリオを分けても、判定する材料がなければ意味がありません。ニュースの見出しではなく、次の実データを定期的に確認するのが現実的です。
| 見る指標 | いまの水準 | どう読むか |
|---|---|---|
| 海峡のタンカー通航数 | 平時の約1/10 | もっとも直接的な指標。合意の報道より、実際の通航数が先行する |
| 戦争リスク保険料 | 平時の約40倍 | 民間船が通れるかどうかの実質的な基準。低下すれば B へ |
| ブレントとWTIの水準 | 96 / 92ドル | 80ドル割れなら B、120ドル超なら C の目安 |
| ガソリン補助の単価 | 32.5円/L | 縮小=原油低下か財政限界。どちらなのか要確認 |
| 日本のコアCPI | 2%超で推移 | エネルギー寄与の増減で、パススルーの進み具合が読める |
7. 注意しておきたいこと
最後に、この記事の見方そのものに関する留保を3つ挙げます。
- 為替が効果を二重にする:原油はドル建てです。円安が進めば、円建てのコストはドル建て以上に膨らみます。9月1日にはドル円が160円台に乗せました。エネルギー価格と為替は分けて見る必要があります。国内金利の動きについては、日銀の政策をめぐる別稿(長期金利3%とベッセント発言)で扱います。
- シナリオは予測ではない:本稿のレンジは、過去半年に実際についた価格を参照点として置いたものです。相場がその外側に出ることは十分にありえます。
- セクター判断は業績確認とセットで:「原油高だから資源株」「収束だから空運株」という単純な連想は、タイムラグと個社ごとの契約構造を無視すると外れます。決算資料でヘッジ比率や価格改定のタイミングを確認してから判断してください。
まとめ
封鎖から半年が経ち、この問題はすでに「地政学ニュース」から「企業の数字」へと段階が移っています。相場が2回も収束を織り込んで2回はずしたという事実は、方向を当てにいくことの難しさを示しています。
だからこそ、A・B・Cの3つの筋道を先に用意しておき、通航数と保険料という2つの実データで自分がいまどこにいるかを確認する。そのうえで、業種ごとの時間差を踏まえて銘柄を見る。これが、当てにいかずにこの局面を扱うための現実的な方法だと考えています。
主な出典
経済産業省資源エネルギー庁、財務省貿易統計、日本銀行「経済・物価情勢の展望」(2026年7月)、野村総合研究所(木内登英氏)、野村證券、第一生命経済研究所、日本経済新聞、NHK、ロイター、ブルームバーグ、JAL決算説明資料、各社適時開示。数値はいずれも2026年9月3日時点で確認できたものです。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

