アイビスHD(9334)の営業利益287.4%増予想は達成できるのか|増分マージンで検算
アイビスホールディングス(9334)が10月13日、名証ネクストと福証Q-Boardに同時上場する。想定発行価格は500円、予想PERは8.93倍、配当利回りは3.0%。新規上場の数字としては、どこを見ても地味だ。
ただし一か所だけ、目を疑う数字が混じっている。2026年10月期の営業利益予想が前期比287.4%増。売上の伸びは36.1%なのに、利益だけが4倍近くに跳ねる予想になっている。この記事は、その一点だけを検算する。
- 増収分のうち営業利益として残る割合を、7.8%から29.6%へ3.79倍に引き上げる予想。数字の性質としては「利益率の改善」ではなく「収益構造の転換」に近い
- 費用側から見ると、売上を36.1%伸ばしながら営業費用の増加を26.4%に抑える計算になる。既存施設の稼働率上昇が前提で、新規開設を積み増すほど達成は遠のく
- 今回の調達額約1.15億円に対し、予想増益額は約1.17億円。金額はほぼ同じだが、調達資金が今期の利益を作るわけではない
- 売上の83.8%は公費。次の報酬改定は2027年度で、今期予想の「翌期」にあたる
014人の持株会社と、99人のグループ
アイビスホールディングスは、障害者総合支援法にもとづく就労継続支援B型事業所の運営に特化した会社だ。就労継続支援B型とは、一般企業で雇用契約を結んで働くことが難しい人に、体調や状況に合わせた作業・訓練の場を提供する福祉サービスを指す。雇用契約を結ばない点が、A型や就労移行支援との大きな違いになる。
2026年7月末時点でB型事業所を15施設、施設外作業所をグループ内外あわせて10か所展開している。作業内容は軽作業のほか、PCデザイン、クラフト製作、菓子の製造・梱包、WEB通販まで幅広い。設立は2018年12月と若く、持株会社と連結子会社4社で構成される。
従業員数の内訳が会社の形をよく表している。持株会社単体の従業員は4名、グループ全体で99名。つまり事業は子会社の現場にあり、上場する箱はきわめて薄い。
02予想の飛躍はどれくらいの飛躍なのか
まず実績を並べる。連結ベースで2024年10月期は売上高8.95億円・営業利益0.25億円(営業利益率2.81%)、2025年10月期は売上高10.94億円・営業利益0.41億円(同3.72%)。堅実に伸びてはいるが、利益率は3%台の薄利だ。
ここに2026年10月期の会社予想が乗る。売上高は前期比36.1%増、営業利益は同287.4%増、営業利益率10.6%。公表されている伸び率から逆算すると、売上高は約14.89億円、営業利益は約1.57億円という水準になる。
この予想の性格を一つの数字に落とすなら、増収分のうち営業利益として残る割合を見るのが早い。
前期(2024年10月期→2025年10月期)は、売上が2.0億円増えて営業利益は0.15億円増えた。増収分に対する増益分は7.8%にとどまる。100円多く売っても、手元に残るのは8円弱ということだ。
今期予想(2025年10月期→2026年10月期)は、売上が3.95億円増えて営業利益が1.17億円増える計算になる。増収分に対する増益分は29.6%。前期の3.79倍だ。
これは「利益率がじわじわ改善する」という話ではない。100円多く売ったときに残る金額が8円から30円近くに変わるということで、稼ぎ方そのものが別物になる前提が置かれている。
03費用の側から検算する
同じことを費用側から見ると、必要な変化がもう少し具体的になる。
| 項目 | 2025年10月期(実績) | 2026年10月期(予想) |
|---|---|---|
| 売上高 | 10.94億円 | 約14.89億円 |
| 営業費用 | 10.53億円 | 約13.32億円 |
| 営業費用/売上高 | 96.28% | 89.42% |
| 前期比の増加率 | - | 売上 +36.1%/費用 +26.4% |
売上を36.1%伸ばしながら、営業費用の増加は26.4%に抑える。費用の対売上比率を96.28%から89.42%へ、6.86ポイント圧縮する計算だ。
B型事業所のコストは、支援員の人件費と施設の賃借料が中心になる。制度上、利用者数に応じた職員配置が求められるため人件費は完全な固定費ではないが、施設単位では「定員に対して何割埋まっているか」で採算が大きく動く。既存施設の利用者数が増えれば、費用をあまり増やさずに売上だけが伸びる——利益率が跳ねる理屈自体は、この事業に確かに存在する。
裏を返すと、達成の条件も同時に決まる。新規開設を急ぐほど、立ち上げ期の低稼働施設が増えて全体の利益率は下がる。この予想は「既存施設を埋める年」として置かれていると読むのが自然で、出店ペースを上げる決算が出てきたら、利益率の方は一度疑ってかかったほうがいい。
増収3.95億円は「何施設分」か
規模感も押さえておく。2025年10月期の売上のうち90.7%がB型事業だから、B型の売上は約9.92億円。これを15施設で単純に割ると、1施設あたり年0.66億円前後になる。
今期の増収予想3.95億円は、この単価でいえば約6.0施設分にあたる。15施設に対して6施設分の上乗せだから、既存施設の稼働率改善だけで届く水準ではなく、期中に開設した施設の通期寄与と新規開設の組み合わせが要る。稼働率の改善と出店の両方を同時に走らせながら、費用の伸びは売上の伸びより10ポイント低く抑える。これが会社予想の中身だ。
04調達する1.15億円と、増える1.17億円
今回の公募は200,000株、オーバーアロットメントが30,000株。想定価格500円で計算すると吸収金額は約1.15億円になる。公募前発行済株式数1,998,000株に対するオファリングレシオは11.5%と、かなり小さい。
会社予想のEPS56.02円から逆算すると、今期の当期純利益は約1.12億円。前期実績が0.35億円だから、純利益ベースでも大きく伸びる想定だ。BPS予想176.8円も、前期末純資産に今期純利益と公募調達分を足した金額をほぼそのまま反映している(試算では176.62円)。会社の数字は内部で整合している。
ここで一つ、偶然だが示唆的な一致がある。調達額約1.15億円に対し、予想増益額は約1.17億円。ほぼ同額だ。
もちろん調達した資金が今期の利益を生むわけではない。B型事業所の開設から利用者が定員に近づくまでには時間がかかるから、この1.15億円が効いてくるのは来期以降になる。今期予想の利益は、調達前にすでに走っている施設から出てこなければならない。上場の効果と今期予想の達成可能性は、切り離して考える必要がある。
05売上の83.8%は公費である
ここまで事業側の話をしてきたが、収入の出どころは民間の取引ではない。
2025年10月期の売上高10.94億円のうち、83.8%が国民健康保険団体連合会向け、金額にして約9.17億円。事業別では90.7%が就労継続支援B型だ。つまりこの会社の売上は、ほぼ制度から支払われる報酬でできている。
この構造には良い面がある。障害福祉サービス等予算は2007年度の5,129億円から2026年度は23,293億円へ、19年で4.54倍、年平均8.29%で拡大してきた。景気ではなく制度で決まる市場が、一貫して伸び続けている。
同時に、リスクの形もはっきりしている。障害福祉サービスの報酬は3年ごとに改定され、次回は2027年度。今期の業績予想は2026年10月期、つまり改定の一つ手前の期にあたる。報酬単価や加算の要件が動けば、利益率10%台という前提そのものが引き直しになる。
利益率を薄い状態から一気に引き上げる予想を、報酬改定の直前に置いている。これが強気と読めるか、改定前に取れるものを取りにいく設計と読めるかは、判断が分かれるところだろう。
06需給と、鞍替えが残した価格の段差
需給は小さくまとまっている。公募前発行済1,998,000株のうち、筆頭株主である代表取締役の資産管理会社が93.33%を保有し、180日のロックアップがかかる。分割換算で見ると180日ロックアップ対象が発行済の約88.2%、90日対象が約1.8%。解除日は90日が2027年1月10日、180日が2027年4月10日になる。
市場に出るのは公募とOAの230,000株だけで、売出株は0株。既存株主が売り抜ける形のIPOではない点は、素直に評価していい。
一方で、値段には段差が残っている。同社はTOKYO PRO Market・Fukuoka PRO Marketからの鞍替え上場で、PRO Marketでの最終売買価格は1,300円。2026年8月1日の1対2の株式分割を反映すると650円相当になり、想定発行価格500円はそこから約23.1%低い水準にあたる。PRO Marketは流動性が極端に低く、価格は参考程度にしかならないが、「旧市場の値段より安く出てくる」という事実は需給の材料になりうる。
ただし買い手側の入り口は狭い。主幹事のフィリップ・キャピタル証券は個人のネット申込に対応しておらず、ネット抽選分はマネックス証券・楽天証券・SBI証券・松井証券などの引受幹事に限られる。上場市場も名証ネクストと福証Q-Boardで、参加できる投資家層はもともと限定的だ。
07同業と並べてみる
就労継続支援B型を手がける上場企業として、AHCグループ(7083)と比べておく。
| アイビスHD(9334) | AHCグループ(7083) | |
|---|---|---|
| 上場市場 | 名証ネクスト/福証Q-Board | 東証グロース |
| 事業構成 | B型事業に集中(売上の90.7%) | 福祉が売上の約56%、介護・外食も展開 |
| 直近売上高 | 10.94億円 | 66.6億円 |
| 直近営業利益率 | 3.72% | 1.6% |
| 予想PER | 8.93倍(想定価格) | 24.8倍 |
| 予想配当利回り | 3.0%(想定価格) | 1.0% |
PERで見ればアイビスHDは大幅に安い。ただしこの8.93倍は営業利益287.4%増という予想が実現した場合のEPSで割った数字である点に注意がいる。仮に増分マージンが前期並みの7.8%にとどまれば、営業利益は予想から大きく下振れし、PERは一気に切り上がる。低PERはここでは「割安」ではなく、予想の達成可能性をどう見るかという質問そのものだ。
配当利回り3.0%(配当15円、配当性向26.8%)も同じ構図で、予想EPSを前提にした数字になっている。
アイビスホールディングスの2026年10月期予想は、増収分から残る利益の割合を7.8%から29.6%へ、3.79倍にするという内容だった。B型事業所の稼働率が上がれば利益率が跳ねる構造は実在するので、荒唐無稽ではない。ただし同時に、増収3.95億円は既存15施設の約6.0施設分にあたる規模で、稼働率改善と出店を両立させながら費用の伸びだけを抑える必要がある。
予想PER8.93倍・配当利回り3.0%という数字は、この予想が当たった世界の数字だ。外れた世界の数字ではない。評価すべきはバリュエーションではなく、四半期ごとの営業利益率が10%台に向かって上がっていくかどうかになる。
需給面は売出0株・オファリングレシオ11.5%と素直だが、名証ネクストと福証Q-Boardという市場と、主幹事がネット申込に対応していない点で、参加できる人も売買できる人も限られる。流動性の低さは、良い決算が出たときも悪い決算が出たときも同じだけ効く。
| 日程 | 内容 |
|---|---|
| 9月24日 | 仮条件決定 |
| 9月25日〜10月1日 | ブックビルディング期間 |
| 10月2日 | 公開価格決定 |
| 10月5日〜10月8日 | 購入申込期間 |
| 10月13日 | 上場(名証ネクスト・福証Q-Board) |
本記事は目論見書ベースの公開情報をもとにした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。2026年10月期の売上高・営業利益は会社公表の前期比伸び率から逆算した概算値で、開示上の表示(売上高14.8億円・営業利益1.5億円)とは端数処理の分だけ差があります。当期純利益・純資産の試算は会社予想EPS・BPSからの逆算です。投資判断はご自身の責任でお願いします。数値は2026年9月14日時点の公開情報にもとづきます。
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