レイヤード(634A)は何で稼ぐ会社か|福岡発の医療SaaS、BBは9月11日まで
福岡市博多区に本社を置く医療SaaS企業、株式会社レイヤード(証券コード634A)が2026年9月25日に東証スタンダード市場へ上場します。ブックビルディングの受付は2026年9月7日から2026年9月11日まで。この記事では「初値が上がるかどうか」の前に、そもそもこの会社が何で稼いでいるのかを、決算の数字から順番に読み解いていきます。
まず全体像:レイヤードはどんな会社か
レイヤードは1998年7月に設立された会社です。創業時の社名は株式会社メディアコンテンツファクトリーで、医療機関の待合室に置くデジタルサイネージを主な事業としていました。2022年7月に現在の社名へ変更し、いまは診療所向けのクラウドサービスを軸にしています。IPOでよく見る「創業数年のスタートアップ」ではなく、28年目の会社だという点は、最初におさえておくとイメージが変わります。
| 会社名 | 株式会社レイヤード |
|---|---|
| 証券コード | 634A |
| 上場市場 | 東証スタンダード(情報・通信業) |
| 本社 | 福岡市博多区 |
| 設立 | 1998年7月 |
| 代表者 | 毛塚牧人 |
| 従業員数 | 152名(2025年7月時点) |
| 上場日 | 2026年9月25日 |
| 主幹事証券 | SBI証券(引受は計8社) |
| 仮条件 | 1,350円 〜 1,400円 |
| 最低投資金額 | 140,000円(100株×上限価格) |
何で稼いでいるのか:電子カルテの「手前」を取りに行く
患者が来院するまでの動線を押さえる
レイヤードの主力は、クリニックが使う4つのクラウドサービスです。ウェブ問診の「Symview」、予約システムの「Wakumy」、患者管理の「Kakarite」、電話の自動応答をおこなう「Iver」。並べてみると共通点が見えてきます。どれも、患者が診察室に入る前の場面を扱っているのです。
ここが事業モデルとして効いています。診察の記録そのものを扱う電子カルテは、大手ベンダーが長年かけて押さえている領域です。レイヤードはそこには正面から入らず、予約・問診・電話対応という「受付まわりの手間」に的を絞りました。電子カルテと競合しないので、すでに電子カルテを入れている診療所にも追加で売れる。これがマルチプロダクト戦略の土台になっています。
狙う市場は全国10.4万施設の医科診療所
同社が主戦場に据えているのは、全国に約10.4万施設ある医科診療所です。届出書によれば、1施設あたりの人件費は7,965万円、1日あたりの来院者数は42人。調剤薬局のようなチェーン化も、歯科のような単価重視のマーケティングも進んでいない一方で、受付の業務量だけは重い。そこに「人を増やさずに回す道具」を持ち込むのがレイヤードの立ち位置です。
導入実績は5,929施設。10.4万施設に対する浸透率は約5.7%です。すでに一定の存在感はあるものの、9割以上はまだ手つかずという読み方もできます。
【図1】業績:増収と黒字化が同時にやってきた
売上高は2023年6月期の927百万円から2026年6月期の1,981百万円へ、3期で年平均28.8%のペースで伸びました。直近の2026年6月期は前期比35.6%増です。
注目したいのは下段の経常利益です。2024年6月期は15百万円の損失でした。人材採用を増やしたことが理由とされています。それが2025年6月期に129百万円の利益へ転換し、2026年6月期は337百万円。1年で161.8%の増加です。
なぜ利益率が8.7%から17.3%に跳ねたのか
売上が増えたから利益も増えた、というだけの話ではありません。営業利益率は8.7%から17.3%へ、ほぼ倍になっています。これはソフトウェアを月額で貸すビジネスに特有の動き方です。
クラウドサービスは、契約が1件増えたときに追加でかかるコストが小さく済みます。サーバー代やサポート人員は必要ですが、契約数に比例してまるごと増えるわけではありません。実際、2025年6月期の売上原価率は37.4%と、前期から4.5ポイント改善しました。増えた売上の多くがそのまま利益として残る段階に入りつつある、というのがこの数字の意味です。
2026年6月期の数字は監査法人の監査を受けていない速報値です。届出書に記載されているのは2025年6月期までが監査済みで、2026年6月期はその後の参考情報という扱いになっています。数字が動く可能性はゼロではない、という前提で見ておくのが安全です。
【図2】売上の中身:ストック55.2%が意味すること
3つの収益は、性格がまったく違う
同じ「売上」でも、入ってくる仕組みが違えば安定性も違います。レイヤードの売上は3つに分かれます。
- ストック収益(55.2%)……毎月自動的に入る月額利用料。契約が積み上がるほど増える
- イニシャル収益(31.7%)……導入時に一度だけ受け取る初期費用。新規契約が取れた期にだけ立つ
- 広告収益(13.1%)……待合室のサイネージなどの広告枠。景気や出稿動向に左右されやすい
投資家が見たいのは、いちばん上のストック収益です。ここが55.2%を占めているということは、仮に来期の新規契約がゼロでも、売上の半分以上は自動的に立つ構造だということ。業績の下振れに対して床が用意されている状態です。
解約率0.38%はどれくらい低いのか
月次の解約率が0.38%。ピンとこない数字なので、いくつかの角度から言い換えてみます。
- 契約1,000件のうち、1か月で離れるのが約4件
- 12か月続くと、年間で約4.5%が離れる計算
- この解約率が変わらないと仮定した場合の平均継続期間は約263か月(約21.9年)
最後の「約22年」はあくまで単純な逆数計算による理論値で、そのまま鵜呑みにする数字ではありません。ただ、解約率が低い理由には納得感があります。問診票や予約の仕組みは、いったん現場のオペレーションに組み込まれるとスタッフの手順そのものになります。別のシステムに乗り換えるコストが高いため、簡単には抜けられないのです。
1施設あたりの単価は月1.5万円ほど
ストック収益は売上高19.8億円の55.2%なので約1,093百万円。これを5,929施設で割ると、1施設あたり年間で約18.4万円、月あたり約15,367円になります。
この単価をどう見るかは評価の分かれ目です。月1.5万円なら診療所にとって決裁のハードルは低く、それが低い解約率にもつながっている。一方で、売上を伸ばすには施設数を増やすか、1施設あたりの単価を上げるしかないわけです。総アカウント数8,451件を施設数で割ると1施設あたり1.43個。4つのプロダクトがある会社としては、複数導入はまだ道半ばと言えます。ここが今後の伸びしろでもあります。
見落とせない弱点:売り方を他社に預けている
ここまで良い面が続きましたが、事業構造には明確な弱点があります。届出書によれば、契約医療機関のうち約70%が代理店経由で、そのうち約40%が医薬品卸大手メディパルホールディングスのグループ経由とされています。
これは両刃です。医薬品卸は全国の診療所に日常的に出入りしているので、自社で営業部隊を抱えるより圧倒的に効率よくリーチできます。152名という従業員数でこれだけの施設数を押さえられているのは、この流通チャネルがあってこそでしょう。
裏を返せば、新規顧客に自力で届ける力は限定的だということです。代理店との関係や条件が変われば、新規獲得のペースは直接影響を受けます。すでに契約している施設からのストック収益は残りますが、成長率のほうは鈍りかねません。上場後は、この依存度が下がっていくかどうかが継続的なチェックポイントになります。
【図3】上場で市場に出る株はどれくらいか
上場後の発行済株式数は2,850,000株になります。このうち今回市場に出るのは、新しく発行する公募600,000株、既存株主が手放す売出250,000株、そしてOAの127,500株を合わせた977,500株。想定発行価格で計算した金額が13.7億円で、これを吸収金額と呼びます。
吸収金額13.7億円をどう受け止めるか
IPOの規模としては小型の部類です。市場に出る株数が少ないと、少額の売買でも株価が大きく動きます。上にも下にも振れやすいということで、上がりやすいという意味ではありません。ここは初心者が誤解しやすいところです。
公募と売出の内訳を見ると、公開株数のうち70.6%が公募です。公募で集めたお金は会社に入り、既存株主の現金化ではありません。今回の公募による調達は約8.4億円で、プロダクトの機能拡張や営業・サポート体制の強化に充てるとされています。創業株主が売り抜けるための上場ではないという点は、需給を読むうえでプラスの材料です。
ロックアップと流通株式比率
主要株主と新株予約権者には、上場後180日間のロックアップがかかっています。ロックアップとは、一定期間は株を売らないという約束のことです。今回は株価が一定水準を超えたら解除される条項がないタイプなので、初値が跳ねても大株主がすぐ売り出す構図にはなりません。
株主構成は、毛塚社長の資産管理会社である株式会社nanosが26.94%、毛塚氏個人が23.77%、田澤専務が23.87%。上位3者で74.58%を握っています。ベンチャーキャピタルの持ち分がほとんどないため、上場直後にVCの売却が集中するタイプの案件ではありません。
一方で、上場時の流通株式比率は30.4%にとどまる見込みです。売買できる株が少ないので、日々の取引が細くなりやすいという意味でもあります。買いたいときに買えない、売りたいときに値がつかないという場面は起こりえます。
加えて、新株予約権(ストックオプション)の未行使残が274,360株あります。上場前の発行済株式数に対して12.2%。これが将来行使されると株数が増え、1株あたりの価値は薄まります。
【図4】PERはどの数字で見るのが正しいのか
PERは「株価が1株あたり利益の何倍か」を示す数字です。低いほど割安とされますが、分母にどの期の利益を置くかで答えが大きく変わります。レイヤードはその差が特に大きい例です。
- 監査済みの2025年6月期を使う……1株あたり利益35.14円、PERは39.8倍
- 2026年6月期の速報値を使う……1株あたり利益84.1円、PERは16.6倍
- 2026年6月期+潜在株式で見る……1株あたり利益76.72円、PERは18.2倍
同じ株価1,400円なのに、39.8倍にも16.6倍にもなります。ネットで見かける記事によってPERの数字が違うのは、この基準の違いが理由です。どちらかが間違っているわけではありません。
- いちばん低いPERだけを見て「割安だ」と判断してしまう
- 監査を受けていない数字と、監査済みの数字を区別せずに比べてしまう
- 新株予約権による希薄化を計算に入れ忘れる
はじめての人へ:ブックビルディングの流れ
IPOは上場日に市場で買うのではなく、その前に抽選へ申し込んで買う権利を得るのが基本です。その申し込みがブックビルディング(需要申告)で、今回は2026年9月7日から2026年9月11日までが受付期間です。
| 上場承認 | 2026年8月24日 |
|---|---|
| 仮条件決定 | 2026年9月4日 |
| ブックビルディング期間 | 2026年9月7日 〜 2026年9月11日 |
| 公開価格決定 | 2026年9月14日 |
| 購入申込期間 | 2026年9月15日 〜 2026年9月18日 |
| 上場日 | 2026年9月25日 |
手順としては、まず幹事証券に口座を開き、ブックビルディング期間中に「この価格で何株ほしい」と申告します。当選したら購入申込期間に手続きをして、2026年9月25日に上場、という流れです。主幹事はSBI証券で、引受は計8社。主幹事の割当が最も多いため、口座を持っておくと当選確率は上がります。
必要な資金は最低140,000円(仮条件上限1,400円×100株)です。仮条件は1,350円〜1,400円で決まりましたが、ここで一点。仮条件の上限が想定発行価格と同じ水準にとどまっています。需要が非常に強いと判断された案件では仮条件が想定価格より上に設定されることがあり、それがなかったという事実は、そのまま材料として受け止めておくのが正直なところです。
リスクの整理
- 代理店依存……契約の約70%が代理店経由、うち約40%が特定グループ経由。関係が変われば新規獲得に影響する
- 制度リスク……診療報酬改定など医療制度の変更が顧客の投資意欲に直結する
- 未監査の数字……2026年6月期は監査未了。バリュエーションの前提が動く可能性がある
- 流動性……流通株式比率30.4%。売買が細り、値動きが荒くなりやすい
- 希薄化……新株予約権274,360株が将来行使されうる
- 配当……無配(設立以来)。当面は内部留保を成長投資に充てる方針
まとめ
レイヤードは、診療所の受付まわりという地味だが手間のかかる領域に的を絞り、月額課金で積み上げてきた会社です。売上の55.2%がストック収益で、月次解約率は0.38%。2026年6月期には営業利益率17.3%まで収益性が改善しました。赤字のまま夢を売る上場ではなく、黒字化を確認してから来た上場という点は、事業の中身を見るうえで評価できます。
一方で、売り方の大半を代理店に預けている構造、30.4%という低い流通株式比率、そして直近期の数字が監査を受けていないことは、そのまま受け止めておく必要があります。良い事業だからといって、どの価格で買っても良いわけではない。このあたりは「良い会社・悪いタイミング」で扱ってきた論点とも重なります。
ブックビルディングは2026年9月11日まで。同じ9月のIPOではakippa(627A)の分析記事も公開しています。駐車場のマーケットプレイスとクリニック向けSaaS、同じ「プラットフォーム型」でも収益の積み上がり方がどう違うか、読み比べると理解が深まるはずです。
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