金利3.5%なら日経平均5万8千円 ─ イールドスプレッドで逆算する9月相場
2026年9月2日、日経平均は1,889円70銭安の6万4,325円64銭で引けました。下落率2.85%、東証33業種はひとつ残らず下落。値上がりした銘柄は全体のわずか6%でした。前日から続く直接のきっかけは、長期金利が3%に乗せたことです。
新発10年国債利回りは9月1日に一時2.985%をつけ、大台に到達。2日には一時3.015%まで上昇しました。1996年9月以来、ちょうど30年ぶりの水準です。
この記事では「長期金利が3%だと、日経平均はいくらが釣り合うのか」という一点に絞って考えます。使う道具はイールドスプレッドという、株と債券を同じ物差しで比べる考え方だけです。聞き慣れない方でも読めるように、まず用語から入ります。
この記事の要点
- 株の「益利回り」と長期金利を引き算すると、株が債券に対してどれだけ割安かが1つの数字で出る。9月2日時点で1.69ポイント。
- 意外なことに、このスプレッドは足元で広がっている。8月17日の1.42ポイントが底で、そこから株価の下落のほうが金利上昇より速く進んだから。
- いまのスプレッドを保ったまま長期金利が3.5%になるなら、釣り合う日経平均は約5万8,000円。ここが金利シナリオの重さを測る物差しになる。
イールドスプレッドを、ここで10行だけ
株と債券は、本来くらべにくいものです。債券は利回りが最初から決まっていますが、株には決まった利回りがありません。そこで、株にも無理やり利回りをつけて比べます。
株式益利回り=1株あたり利益 ÷ 株価。PER(株価収益率)を逆さまにした数字です。PERが20倍なら益利回りは5%。「この株を買ったら、企業の利益ベースで年5%ぶん取り分がある」という見方をします。
イールドスプレッド=株式益利回り − 長期金利。国債は元本が返ってくる安全資産、株は値下がりもする危険資産です。だから株の利回りは国債より高くて当たり前で、その差が「株を持つことへの上乗せ分」にあたります。この差が小さいほど、株を持つ旨みは薄いことになります。
ここで注意点をひとつ。日経平均の益利回りには加重平均ベースと指数ベースの2種類があり、数字がかなり違います。9月2日時点で加重平均が5.84%、指数ベースが4.67%です。日経平均は株価の高い銘柄の影響が大きい指数なので、この記事では指数ベースを使います。より保守的な(=割高に見える)ほうです。
「30年ぶり」という言葉の中身
金利が3%と聞いても、多くの方はぴんとこないはずです。無理もありません。日本で長期金利が3%だったのは、いまの現役世代の多くが投資を始める前だからです。
上の折れ線は2026年に入ってからの実際の推移です。1月5日の2.120%から、9月1日の3.000%まで0.88ポイント上がりました。1年足らずでこれだけ動くのは、日本の債券市場としては相当な変化です。
下の帯は、この30年をおおまかな政策の区切りで並べたものです。1999年のゼロ金利政策から2024年3月のマイナス金利解除まで、実に四半世紀にわたって、日本の金利は「ほぼゼロ」を前提に置かれてきました。株式の評価も、住宅ローンも、年金運用も、その前提の上に積み上がっています。
つまり今起きているのは、金利という土台そのものの入れ替えです。日銀の金融政策正常化の経緯を追ってきた方には見慣れた話かもしれませんが、3%という水準は、正常化のプロセスがついに「昔の日本」の領域に届いたことを意味します。
意外な事実:スプレッドは、足元でむしろ広がっている
ここが本題です。「金利が上がったから株が割高になった」と言いたくなるところですが、数字はもう少し込み入っています。
| 日付 | 益利回り (指数ベース) | 長期金利 | スプレッド |
|---|---|---|---|
| 7月22日 | 4.219% | 2.735% | 1.48pt |
| 8月17日 | 4.344% | 2.920% | 1.42pt(この期間の底) |
| 8月31日 | 4.535% | 2.940% | 1.60pt |
| 9月1日 | 4.541% | 3.000% | 1.54pt |
| 9月2日 | 4.675% | 2.990% | 1.69pt |
8月17日にスプレッドは1.42ポイントまで潰れました。金利が上がっているのに株価が高値圏で粘っていたからです。この時点が、この夏いちばん「株が債券に対して割高だった」瞬間になります。
ところが9月2日には1.69ポイントまで戻りました。金利はほぼ横ばい(2.990%)なのに、益利回りが4.541%から4.675%へ跳ねたためです。益利回りが上がるということは、株価が下がったということです。日経平均は1日で2.85%下げました。
言い換えると、9月2日の1,889円安は、市場が金利3%という新しい前提に株価を合わせにいった動きだった、と読めます。金利がスプレッドを潰しにきたのではなく、株価のほうがスプレッドを回復させにいった。この違いは、次に何を見ればいいかを決めるうえで重要です。
補足:ここでの益利回りは会社予想の利益をもとに算出されます。決算発表で予想が動けば、株価が同じでも益利回りは変わります。9月2日に益利回りが大きく動いたのは、ほぼ株価要因です。
金利があと0.5%上がったら、日経平均はいくらが釣り合うのか
ここまで来ると、簡単な逆算ができます。前提は3つだけです。
- 日経平均のEPS(1株あたり利益、指数ベース)を約3,007円とする。9月2日の終値6万4,325円と益利回り4.675%から逆算した数字です。
- いまのスプレッド1.69ポイントを、市場が妥当と考えている水準とみなす。
- そのスプレッドを保ったまま金利だけが動いたら、株価はどこに落ち着くかを見る。
| 長期金利 | 必要な益利回り | 対応するPER | 釣り合う日経平均 | 現値比 |
|---|---|---|---|---|
| 2.75% | 4.44% | 22.6倍 | 約67,800円 | +5.4% |
| 2.99%(現在) | 4.68% | 21.4倍 | 約64,300円 | — |
| 3.25% | 4.94% | 20.3倍 | 約60,900円 | ▲5.3% |
| 3.50% | 5.19% | 19.3倍 | 約58,000円 | ▲9.8% |
前提:EPS3,007円で固定、スプレッド1.69ポイントで固定。実際にはEPSもスプレッドも動くため、この表は「金利だけが動いた場合の目安」です。方向感をつかむための道具として使ってください。
読み取れることは2つあります。ひとつは、金利0.25%の動きが日経平均のおよそ5%に相当するということ。もうひとつは、金利が2.75%まで下がれば6万7,800円あたりまで正当化できる、つまりこの関係は下方向にだけ働くわけではないということです。
ただし大前提として、EPSが3,007円のまま動かなければ、の話です。企業業績が伸びればPERが下がっても株価は維持できます。金利上昇と増益が同時に進む局面では、株価は下がらないこともあります。実際、これまでの2026年相場はその形で上げてきました。
9月17・18日、日銀は何を決めるのか
では金利はどこへ向かうのか。最大のイベントは9月17・18日の金融政策決定会合です。現在の政策金利は1.00%で、市場は9月の利上げを約8割織り込んでいます。
ここで初中級の方に強調しておきたいのは、利上げそのものはすでに株価に入っているということです。8割織り込まれた材料が現実になっても、理屈のうえでは大きくは動きません。株式にとって効くのは、その先の道筋です。
市場では、追加利上げを経て政策金利が最終的にどこまで上がるか(ターミナルレート)について、1.25%から1.75%まで見方が分かれています。この幅がそのまま長期金利の行き先の幅になり、上の表でいえば6万円台前半から5万円台後半までのレンジに対応します。
もうひとつ厄介なのは、3つ目のシナリオです。日銀が見送った場合、短期金利は下がりますが、円安と財政への不安から長期ゾーンがかえって売られる展開もありえます。利上げしないほうが長期金利が上がるという、直感に反する組み合わせです。
金利上昇は、どこに強く効くのか
最後に、視野を株式の外へ少し広げておきます。同じ「金利上昇」でも、伝わる経路によって速さと強さが違うからです。
株式のバリュエーションへの影響がいちばん速くて強い、というのが今回の局面の特徴です。9月2日に売られたのが半導体やハイテクだけでなく景気敏感業種にまで及び、33業種すべてが下がったのは、金利という「業種を選ばない変数」が効いたからです。
逆に、企業の資金調達コストへの影響は限定的とみておいてよさそうです。日本企業は総じて手元資金が厚く、借入依存度も過去に比べて下がっています。この点は、金利上昇=企業業績の悪化と短絡しないための歯止めになります。
家計への影響でいちばん実感が出やすいのは住宅ローンでしょう。固定型は長期金利に、変動型は政策金利に連動します。多くの銀行が2026年10月に基準金利を0.25%程度引き上げるとの見方があり、変動型の借り手にとっては返済額の見直しが近づいています。
今週から見るべき3つの数字
- イールドスプレッドが1.42ポイントを再び下回るか。この夏の底値です。株価が戻る過程でここまで潰れるようなら、金利水準に対して株価が走りすぎているサインとして使えます。
- 9月18日の会見での「その先」の言い方。利上げの有無ではなく、追加利上げへの含みがあるかどうか。ターミナルレート予想が動けば、長期金利のレンジごと動きます。
- EPSの方向。上の試算はEPS固定の前提です。企業業績が伸びれば、金利3.5%でも5万8,000円まで下がる必要はありません。11月の中間決算まで、下方修正が出ないかを見ておく価値があります。
なお、9月2日の下げは金利だけが理由ではありません。原油が90ドル台に居座り、地政学リスクも同時に効いています。原油高が日本株に効く経路は金利とは別の話なので、分けて考えたほうが整理しやすくなります。
まとめ
長期金利3%は、30年ぶりの水準というニュース性以上に、株式の評価の土台が入れ替わったという意味を持ちます。ゼロ金利を前提にしたPERの水準観は、そのままでは使えません。
ただし、いま起きているのは「金利がスプレッドを潰した」状況ではありません。8月17日に1.42ポイントまで潰れたスプレッドは、9月2日の株安によって1.69ポイントまで戻りました。市場は新しい金利水準に株価を合わせにいっている最中で、その作業はまだ途中かもしれませんし、もう十分かもしれません。
個人投資家にとって現実的な結論は、金利の絶対水準ではなく、スプレッドが薄いか厚いかで見るということです。金利が3.5%まで上がってもEPSが伸びていれば株価は持ちますし、金利が横ばいでもEPSが落ちればスプレッドは潰れます。9月17・18日は、その分子と分母のうち分母のほうが決まる日です。
※本記事は公開情報にもとづく筆者の整理であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。数値は2026年9月2日時点で確認できたものです。
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本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

