
地政学リスクウォッチ
ホルムズ海峡「第2幕」──原油高があなたの円資産を削るまでの4ステップ
7月12日、ホルムズ海峡を通った船は6隻。LNG船に至ってはゼロが続いています。そこに「貨物価格の20%を通行料として徴収する」という前例のない構想が重なりました。海の話が、なぜ日本の金利と円の価値に変わるのか。伝達経路を4段階に分けて追います。
LNG船(7/11以降)確認ゼロ
通行料構想貨物価格の20%
6月企業物価+7.1%
30秒サマリー
- ホルムズ海峡の通航は再びほぼ停止状態。7月12日の確認可能な通航は6隻、LNG船は7月11日以降ゼロ。
- 米大統領は「海峡の守護者」を宣言し、貨物価格の20%を徴収する構想を打ち出した。ただし算定基準・徴収主体・発効日はいずれも未定。
- 試算では、これが実現すれば原油は20%近く上昇し、日本のガソリンは補助金なしで12〜14円上昇する計算。
- 原油高は「物価→金利→為替」の順に伝わり、最後は円安として日本の家計に戻ってくる。
- しかも円安は円建ての原油価格をさらに押し上げる。この経路は一方通行ではなく、輪になっている。
海峡でいま起きていること
まず事実関係を押さえます。ホルムズ海峡は、世界の原油とLNGが通る最も細い場所です。ここが止まると、産地に石油があっても市場には届きません。
注目すべきは、これが「第1幕」の繰り返しではないという点です。春の封鎖局面では海峡が物理的に通れないことが問題でした。今回はそこに、通れたとしてもコストが跳ね上がるという新しい変数が加わっています。
「貨物価格の20%」という前例のない変数
米大統領は自らを「海峡の守護者」と位置づけ、通航する船舶の輸送貨物に対して20%を求める構想を打ち出しました。ただし現時点で、算定基準も、誰が徴収するのかも、いつから始まるのかも決まっていません。
規模感を掴むために、従来との比較で見てみます。
これまで(イランによる徴収)
約200万ドル
1バレル1ドル程度 × 超大型タンカー1隻の積載量約200万バレル
構想(貨物価格の20%)
約3,200万ドル
同じタンカー1隻あたり。実現すれば原油価格は20%近く上昇する計算
1隻あたりのコストが十数倍になる計算です。この分は当然、原油価格に転嫁されます。ある試算では、日本のガソリン価格は補助金がない場合に1リットルあたり12〜14円程度の上昇となります。
さらに厄介なのが、徴収の枠組み自体が固まっていないことです。イランとオマーンは共同で「海事サービス料」を徴収する案を提示していますが、オマーンは任意方式、イランは強制方式を主張して両国間でも一致していません。加えて、イラン側への支払いは米国の制裁リスクを伴うため、日本の海運・商社にとっては「払っても払わなくてもリスクがある」という状態が続きます。
用語:国際海峡
外国船舶に一定の自由な通航権が認められている海峡のこと。ホルムズ海峡はこれに該当するため、通行料を強制的に課すことは国際法違反の可能性が指摘されています。自発的なサービス料であれば話は別、という整理です。
原油が円安に化けるまでの4ステップ
ここからが本題です。海峡のニュースは、次の順序で日本の投資家の資産に到達します。
この図で最も重要なのは、右側の点線の矢印です。円安が進むと、ドル建ての原油価格が変わらなくても円で払う金額は増えます。つまりSTEP 4がSTEP 1の入力に戻り、輪が閉じる。原油高と円安は、互いを増幅し合う関係にあります。
ここが本記事の核心
「中東情勢は日本株には関係ない」という整理は、この輪を見落としています。原油高は日本にとって、物価上昇と円安を同時に生む数少ない変数です。しかもそれが循環するため、一度回り始めると金融政策だけでは止めにくい。日銀が利上げしても円安が止まらない理由の一端は、この経路にあります。
なぜ「日米そろって利上げ」でも円安なのか
来週は7月28〜29日にFOMC、7月30〜31日に日銀の決定会合が控えています。米国も日本も利上げ方向にありながら、円は1986年12月以来の安値圏にあります。
この一見矛盾した状況の背景には、いま見てきた原油の経路が深く関わっています。原油高は米国のインフレ圧力を高めてFRBのタカ派姿勢を支え、同時に日本には実需の円売りをもたらす。同じ一つの材料が、ドル買いと円売りを両側から作っているわけです。
金利差の水準だけを見ていると、この動きは説明できません。詳しくは対になる記事で、金利のペース差・実質金利・実需フローの3層に分けて分解しています。
これから見るべき指標
まとめ
いまの状態
通航は1桁台、LNG船はゼロ。第1幕の水準に逆戻り
新しい変数
貨物価格20%の通行料構想。中身は何も決まっていない
伝達経路
原油 → 企業物価 → 金利 → 円安。しかも輪になっている
最大の注意点
原油高は日本にとって物価高と円安を同時に生む
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本記事の最終ステップである「円安」については、対になる記事で正面から扱っています。日米そろって利上げ方向なのに円が40年ぶり安値にある理由を、金利のペース差・実質金利・実需フローの3層に分解しました。来週の日米中銀イベントの見どころもまとめています。
▶ 日米そろって「利上げ方向」なのに、円は40年ぶり安値
本記事は公開情報に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。地政学情勢は流動的で、数値は執筆時点のものです。投資判断はご自身の責任で行ってください。






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