
2026年上半期に一般市場へ新規上場した企業は17社。前年同期の28社を大きく下回り、上半期で20社を割ったのは2012年以来である。この17社が、上場から最長で5か月半を経た7月31日時点でどうなっているかを全数集計した。見えてきたのは、初日の値動きのうち「公募割れの深さ」だけが、その後の明暗をきれいに分けていたという構図だった。
データの前提と限界
対象は2026年1〜6月に東証スタンダード・グロース市場へ上場した17社(プロ市場を除く)。株価は2026年7月31日終値。時価総額も同日時点であり、上場時の想定時価総額とは異なる。標本が17社しかなく、観測期間も最長5か月半である点は、以下のすべての数値に共通する制約として留意されたい。
1. 地合いは良かった。それでもIPOは減った
まず市場環境を確認する。2026年の日経平均株価は大発会の終値が5万1832円80銭、6月30日の終値が7万0062円32銭。半年で35%超の上昇である。2月末のイラン情勢緊迫化で変動する局面はあったが、上半期を通じて上昇基調が続いた。
にもかかわらず、IPO社数は17社にとどまった。過去10年の上半期平均は38.7社であり、半分にも満たない。とくに東証グロース市場は11社で、2025年上半期18社、2024年上半期34社から連続して減少している。
この減少は市況要因ではない。東証がグロース市場の上場維持基準を「上場10年経過後に時価総額40億円以上」から「上場5年経過後に時価総額100億円以上」へ引き上げたことを受け、主幹事証券会社が小規模案件の引受けに慎重になっている。加えて2025年8月に上場廃止となった不正会計事案を受けた審査厳格化が重なり、上場までの日程が後ろ倒しになるケースが増えた。供給側の制度変更が、需要側の好環境を打ち消した半年だったと整理できる。
この点は後段で成績と突き合わせると、やや皮肉な結果になる。先に個別の数字を見ていく。
2. 3種類の「勝敗」を分けて数える
IPOの成績を語るとき、どの価格を基準に置くかで結論が変わる。ここでは3つを分けて集計した。
| 基準 | 意味 | 17社の勝敗 | 平均 | 中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 初値騰落率 | 公募当選者が初値で売った場合 | 9勝8敗 | +18.97% | +4.50% |
| 公開価格比(通算) | 公募で当選し、いま保有している場合 | 9勝8敗 | +9.71% | +4.00% |
| 初値比(その後) | 初値で買って、いま保有している場合 | 5勝12敗 | -9.37% | — |
最初に目を引くのは3行目である。初値で買った場合、17社中12社が現在も初値を下回っている。勝率にして29%。公募当選者の勝率が53%であることと比べると、初値というエントリーポイントの不利さが際立つ。
もう一点、平均と中央値の乖離にも注意したい。初値騰落率の平均は+18.97%だが、中央値は+4.50%にとどまる。バトンズ(554A)の+153.64%とソフトテックス(550A)の+64.95%という2銘柄が平均を押し上げており、「平均的なIPO」の実像は中央値のほうに近い。
図1が示すのは、市場でしばしば語られる「初値が跳ねた銘柄は後で下がる」という経験則が、少なくとも今回の17社では成立していないということだ。初値+153.64%のバトンズはその後-17.6%、初値+36.08%のLiNKX(584A)はその後+102.3%。同じ高騰組でも結果は正反対に割れている。
つまり初値騰落率の「高さ」には情報がない。ところが、符号がマイナス側に振れた領域だけを見ると、様相が変わる。
3. 公募割れの深さという分水嶺
公募割れした8社を、下げ幅の深さで並べ直すと、奇妙な分布が現れる。
| 銘柄 | コード | 初値騰落率 | 7/31時点(公開価格比) |
|---|---|---|---|
| ジェイファーマ | 520A | -8.07% | -69.4% |
| TOブックス | 500A | -8.06% | -22.0% |
| ベーシック | 519A | -8.05% | -37.2% |
| イノバセル | 504A | -7.56% | -59.9% |
| ギークリー | 505A | -7.53% | -31.5% |
| ビタブリッドジャパン | 542A | -5.04% | -23.4% |
| セイワHD | 523A | -2.40% | +13.5% |
| ヒトトヒトHD | 549A | -1.86% | +10.5% |
上位5社が-7.53%から-8.07%というわずか0.54ポイントの幅に固まっている。そして、この5社は7月31日時点で例外なく公開価格を下回っており、下落率は-22.0%から-69.4%に及ぶ。一方、下げ幅が-2%台にとどまった2社は、いずれもプラス圏へ転じた。
図2で決定的なのは右側の数値である。A群の初値騰落率は平均-7.85%にすぎない。ところが初値形成後にさらに平均-39.25%下げている。初日に安く始まったことが問題なのではなく、初日以降も売られ続けたことが問題だった。同じ公募割れでもB群は初値形成後に平均+3.19%で、方向が逆を向いている。
4. なぜ「深さ」が効くのか——3つの仮説
ここから先は解釈になる。断定できる材料はないため、検証可能な仮説として3つ提示する。
仮説① -8%は需給の均衡点ではなく、制度上の底だった
5社が-7.5%から-8.1%という狭帯域に集中したことは、偶然にしては不自然である。新規上場銘柄の初値は板寄せによって形成されるが、その過程で気配値の更新幅には制限がかかる。初日に到達できる下限が構造的に決まっていたとすれば、-8%という水準は「売り注文を消化しきった価格」ではなく「その日に届いた一番下」を意味することになる。
この仮説が正しければ、初値の時点で需給はまだ均衡しておらず、消化されなかった売り圧力が翌日以降に持ち越されたことになる。A群がその後も下げ続けた事実と整合的だ。ただし各社の板情報を個別に検証しない限り確定はできない。
仮説② 公開価格の下方硬直性
公開価格は仮条件レンジの中で決まるが、レンジ自体が発行体と主幹事の交渉で設定される。想定時価総額が大きい案件ほど、調達額の下限が経営計画に組み込まれており、価格を下げる余地が乏しい。結果として需給が想定より弱かった場合、その歪みが公開価格ではなく上場後の株価で調整される。深い公募割れは、価格決定プロセスで吸収されなかった歪みの大きさを表している、という読み方である。
仮説③ 単に案件の質が違った
最も身も蓋もない仮説だが、除外すべきではない。深い公募割れを起こした5社には、業績の実績が乏しい創薬・バイオ系や、上場時点で成長の変曲点を過ぎていた案件が含まれる。市場は初日にそれを織り込み、その後の決算で答え合わせが進んだだけという説明も成り立つ。この場合、「深さ」は原因ではなく症状ということになる。
3つの仮説は排他的ではない。実務的に重要なのは、どれが正しいかよりも、いずれの場合でも「初日の下げ幅の深さ」が投資家にとって観測可能なシグナルとして機能したという点である。
5. 交絡の確認——時価総額との重なり
ここで、この分析には無視できない交絡がある。時価総額帯で分けても、似た構図が出てくるのだ。
時価総額100億円未満の11社は公開価格比で平均+28.83%、7勝4敗。100億円以上の6社は平均-25.34%、2勝4敗。数字だけ見れば小型の圧勝である。
しかし、A群5社のうち4社が時価総額100億円以上に属している。逆に100億円以上の6社のうち4社がA群である。両者は独立した変数ではなく、ほぼ同じ4社を別の角度から数え直しているにすぎない。n=17という標本サイズでは、「深い公募割れが効いた」のか「大型案件が弱かった」のかを統計的に分離することはできない。
この点を明示したうえで、制度との関係だけ指摘しておきたい。東証は上場維持基準を時価総額100億円以上へ引き上げ、主幹事証券は100億円未満の案件を敬遠しつつある。ところが2026年上半期の実績では、締め出される側の小型案件のほうが投資家にとって良好なリターンをもたらした。制度が想定するリスクと、投資家が直面するリスクが、この半年に関しては逆を向いていた。
もっとも、上場維持基準は投資家のリターンではなく市場の質の維持を目的とした制度である。半年間・17社の結果をもって制度を評価するのは筋違いだ。あくまで「短期の実績と制度の方向が一致していない」という事実の指摘にとどめる。
6. 反例を数える
傾向を語るときは、当てはまらない事例を先に数えるべきである。
| 銘柄 | 何が反例か | 結果 |
|---|---|---|
| ビタブリッドジャパン(542A) | B群(浅い公募割れ-5.04%)だが回復しなかった | -23.4% |
| 犬猫生活(556A) | 初値+17.06%と好スタートだったが失速 | -37.2% |
| ネイス(589A) | 初値+11.82%だが1か月で公開価格割れ | -11.0% |
| LiNKX(584A) | 初値+36.08%からさらに2倍超へ | +175.3% |
C群(初値プラス)9社の初値比は3勝6敗であり、初値がプラスで始まった銘柄も、その後は半数以上が初値を割っている。つまり「深い公募割れは避けよ」という示唆は成立しても、その裏返しである「初値が高ければ安心」はまったく成立しない。図1で見たとおりである。
図4で棒と点の距離が最も大きいのは犬猫生活(初値+17.06%→通算-37.2%)とバトンズ(初値+153.64%→通算+108.9%)である。上下いずれの方向にも、初日の情報から離れていく銘柄が存在する。
7. 全17社の一覧
| 銘柄 | コード | 上場 | 市場 | 時価総額 | 公開価格 | 初値 | 初値騰落 | 7/31終値 | 通算 | 初値比 | 群 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| LiNKX | 584A | 6/23 | グロース | 53億 | 790 | 1,075 | +36.08% | 2,175 | +175.3% | +102.3% | C |
| バトンズ | 554A | 4/21 | グロース | 30億 | 660 | 1,674 | +153.64% | 1,379 | +108.9% | -17.6% | C |
| 梅乃宿酒造 | 559A | 4/24 | スタンダード | 36億 | 600 | 900 | +50.00% | 1,084 | +80.7% | +20.4% | C |
| SQUEEZE | 558A | 4/22 | グロース | 96億 | 3,110 | 3,250 | +4.50% | 4,400 | +41.5% | +35.4% | C |
| GO | 581A | 6/16 | グロース | 1,864億 | 2,400 | 2,910 | +21.25% | 2,815 | +17.3% | -3.3% | C |
| セイワHD | 523A | 3/27 | グロース | 235億 | 1,250 | 1,220 | -2.40% | 1,419 | +13.5% | +16.3% | B |
| ヒトトヒトHD | 549A | 4/7 | スタンダード | 60億 | 430 | 422 | -1.86% | 475 | +10.5% | +12.6% | B |
| ソフトテックス | 550A | 4/9 | スタンダード | 16億 | 1,940 | 3,200 | +64.95% | 2,038 | +5.1% | -36.3% | C |
| システムエグゼ | 548A | 4/6 | スタンダード | 49億 | 950 | 1,061 | +11.68% | 988 | +4.0% | -6.9% | C |
| ネイス | 589A | 6/30 | グロース | 54億 | 1,320 | 1,476 | +11.82% | 1,175 | -11.0% | -20.4% | C |
| TOブックス | 500A | 2/13 | スタンダード | 136億 | 3,910 | 3,595 | -8.06% | 3,050 | -22.0% | -15.2% | A |
| ビタブリッドジャパン | 542A | 4/2 | グロース | 76億 | 1,370 | 1,301 | -5.04% | 1,050 | -23.4% | -19.3% | B |
| ギークリー | 505A | 2/27 | スタンダード | 243億 | 1,900 | 1,757 | -7.53% | 1,301 | -31.5% | -26.0% | A |
| 犬猫生活 | 556A | 4/23 | グロース | 78億 | 2,990 | 3,500 | +17.06% | 1,878 | -37.2% | -46.3% | C |
| ベーシック | 519A | 3/25 | グロース | 51億 | 870 | 800 | -8.05% | 546 | -37.2% | -31.8% | A |
| イノバセル | 504A | 2/24 | グロース | 563億 | 1,350 | 1,248 | -7.56% | 541 | -59.9% | -56.7% | A |
| ジェイファーマ | 520A | 3/25 | グロース | 156億 | 880 | 809 | -8.07% | 269 | -69.4% | -66.7% | A |
8. 実務的な含意
- 初値売りの合理性は今期も維持された:公募当選者が初値で売った場合の勝率は53%、平均+18.97%。対して初値で買った場合は勝率29%、平均-9.37%。当選した株を初値で手放す判断は、少なくともこの17社では正しかった。
- 深い公募割れはセカンダリーの入口として機能しなかった:「公募割れ=割安」という発想でA群を拾った場合、5社すべてで含み損を抱えている。反発を取りにいくなら、下げ幅が浅く需給が均衡していた銘柄のほうが分がよかった。
- 初値の高さは何も保証しない:初値騰落率とその後の変化率の相関は+0.124。初日の高騰を材料視した判断には根拠がない。
- 下期は母集団そのものが変わる可能性がある:主幹事の選別強化により、今後は想定時価総額100億円以上の案件に偏る。上半期の傾向がそのまま延長されるとは限らない。
まとめ
2026年上半期のIPO17社を全数集計した結果、初値騰落率の絶対値には予測力がなく、公募割れの深さという限定された領域にのみ、その後の成績と対応する構造が見られた。深い公募割れを起こした5社は例外なく現在も公開価格を下回り、浅い公募割れの2社は逆にプラス圏へ転じている。
ただしこの分類は、時価総額100億円以上という別の切り口とほぼ重なっており、n=17では両者を分離できない。「深さが原因」なのか「大型が弱かった」のか、あるいは「単に案件の質が違った」のかは、下期のデータを加えて再検証すべき論点として残る。
確度をもって言えるのは、初値というエントリーポイントが17社中12社で不利に働いたことと、平均+18.97%という数字が2銘柄によって作られた見かけであること。この2点である。
※本稿は公開情報の集計と構造分析を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。株価は2026年7月31日終値、時価総額も同日時点であり、上場時の想定時価総額とは異なります。集計対象は東証スタンダード・グロース市場への新規上場17社で、TOKYO PRO Market等のプロ市場は含みません。数値は各種公開データをもとに算出しており、正確性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。






![【2ch】2025年の新NISAは高配当株がますます狙い目! 14年連続増配の「NTT」に注目 [どどん★]](https://invest-news-source.com/wp-content/uploads/wordpress-popular-posts/4100-first_image-75x75.png)
