ライブドアは4年で2度売られた 71億円→75億円の転売が映すもの
SBIホールディングスがミンカブ・ジ・インフォノイドからライブドアの全株式を75億円で取得することで基本合意した。ミンカブが2022年12月にLINEから買ったときの価格は71億円。4年で4億円しか上がっていない資産に、なぜいま買い手がついたのか。同じ資産が売られるたびに値段が付け替えられる過程を追うと、買い手が何を買っているのかが見えてくる。
2026年9月18日|株価は9月17日終値まで|出所:各社報道、ミンカブ・ジ・インフォノイドの適時開示
1同じ資産の値段が、売り手と買い手の事情で付け替えられている。LINEは71億円で手放し、ミンカブは4年持って75億円で売る。値上がりは4.0億円(年率1.38%)にすぎないが、ミンカブには売る理由があり、SBIには買う理由がある。
2売却額75億円は、ライブドアの純資産4.43億円の16.9倍。差額の70.57億円は、月間約1億ユーザーという接点そのものに付けられた値段だと読むほかない。
3ミンカブ株はストップ高になった。発表前の時価総額は概算で約64.6億円、つまり「子会社1社の売却額が親会社全体の値段を上回っていた」。ストップ高後でも売却額は時価総額の97.5%にあたる。
1取引の中身
まず取引の中身を確認する。SBIホールディングスは9月17日、ミンカブ・ジ・インフォノイドからライブドアの全株式を75億円で取得することについて基本合意した。譲渡契約の締結は11月中旬まで、株式の譲渡日は12月下旬を予定している。
ライブドアが手がけているのは、総合ニュースサイトの「ライブドアニュース」、韓国エンタメ情報の「Kstyle」、ブログサービスの「livedoor Blog」の3事業だ。月間の利用者は約1億人、各サービスのSNSフォロワーは合計3,000万を超えるとされる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売り手 | ミンカブ・ジ・インフォノイド〈4436〉 |
| 買い手 | SBIホールディングス〈8473〉 |
| 対象 | ライブドアの全株式(100%) |
| 価格 | 75億円 |
| 契約締結 | 2026年11月中旬までを見込む |
| 株式譲渡日 | 2026年12月下旬を予定 |
| 売り手の狙い | 有利子負債の圧縮と、金融情報ソリューション事業への経営資源の集中 |
同時に、NTTデータがミンカブ株を既存株主から追加取得することも明らかになった。取得後の保有は2,517,800株で、議決権比率は約16.38%。NTTデータがミンカブの筆頭株主となり、取締役1名を推薦する。そしてSBI・NTTデータ・ミンカブの3社で、金融サービスのDX支援に向けた協業を進めるという構図になっている。
※ミンカブは報道が先行したことについて「概ね報道のとおり」とし、自社が発表したものではないと述べていた。数値は同社の適時開示および各社報道にもとづく。
271億円→75億円をどう読むか
ここからが本題だ。ライブドアという資産は、4年のあいだに2度売られている。
2022年12月、LINEはライブドア事業を71億円でミンカブに譲渡した。そして2026年12月、ミンカブはそれを75億円でSBIに譲渡する。差は4.0億円、率にして5.6%。年率に直すと1.38%で、資産の値上がりという観点ではほとんど動いていない。
ただし、これだけで「ミンカブは儲からなかった」と結論するのは早い。ライブドアは直近期に4.02億円の営業利益を出している。この水準が4年続いたと単純に仮定すれば累計16.1億円で、売買差益と合わせれば概算20.1億円の回収になる。71億円の投資に対する4年間の成果としては、決して悪い数字ではない。
※営業利益の累計は直近期の水準を4年分に引き伸ばした単純計算であり、実際の各期の実績、取得時の借入コスト、のれん償却、税負担などは反映していない。ミンカブ側の正式な譲渡益は同社の開示を確認されたい。
次に、75億円という価格そのものを分解する。ライブドアの2026年3月期は売上高46.6億円、営業利益4.02億円、純資産4.43億円。売却額はそれぞれの1.61倍・18.7倍・16.9倍にあたる。
注目すべきは純資産との差だ。75億円のうち純資産で説明できるのは4.43億円だけで、残る70.57億円は買収額の94.1%を占める。会計上はのれんとして処理される部分であり、買い手が帳簿に載っていない何かに払った金額にほかならない。
その「何か」の正体は、月間約1億人という利用者との接点だろう。75億円を月間利用者数で割ると、単純計算で1人あたり約75円になる。金融事業者が新規顧客を1人獲得するのにかかる費用を思えば、この数字の意味は想像しやすい。
3親会社の時価総額を上回った子会社
市場の反応にも触れておきたい。ミンカブ株は9月17日、+80円(+19.05%)の500円で引けた。制限値幅の上限、つまりストップ高だ。始値416円、安値416円からの急伸である。
なぜストップ高になったのか。ミンカブの発行済株式数を、NTTデータの取得株数2,517,800株と議決権比率16.38%から逆算すると約15,371,184株になる。これに発表前9月16日の終値420円を掛けると、時価総額は概算で約64.6億円。つまり子会社1社の売却額75億円が、親会社全体の時価総額を上回っていたことになる。売却額は時価総額の116.1%にあたる。
ストップ高で500円まで上がった後でも、時価総額は概算76.9億円。売却額はなおその97.5%を占める。市場は依然として、ミンカブという会社全体をライブドア1社分とほぼ同じ値段で見ていることになる。
ただし価格形成の信頼性には留保が必要だ。9月17日の出来高は46,200株で、逆算した発行済株式数の0.3%にすぎない。売買代金は0.22億円と極めて薄い。薄商いのストップ高は、市場の合意というより注文の偏りを映しているだけのことがある。
※発行済株式数は議決権比率からの逆算値である。議決権比率は自己株式を除いた株式数にもとづくため、自己株式が存在する場合、実際の時価総額はここで示した概算より大きくなる。正確な株式数と時価総額は会社の開示をご確認いただきたい。
4SBIは何を買っているのか
では買い手のSBIは、何のためにライブドアを買うのか。同社は今回の取得を「ネオメディア」構想の強化と位置づけている。
SBIは2025年5月にSBIネオメディアホールディングスを設立し、金融・IT・メディアを融合させた事業群の構築を掲げてきた。設立当時には1,000億円規模のファンド構想も報じられている。その枠組みに、月間約1億人の接点を持つメディアを組み込むのが今回の取得だ。
| 当事者 | この取引で得るもの | 差し出すもの |
|---|---|---|
| SBI | 月間約1億人の顧客接点と、コンテンツ・クリエイターの基盤 | 75億円の現金。うち約70.6億円はのれん相当 |
| ミンカブ | 売却代金による有利子負債の圧縮と、金融情報事業への資源集中 | 年4億円規模の営業利益を稼ぐ事業 |
| NTTデータ | ミンカブの筆頭株主の地位と、金融DX支援の座組み | 株式の取得資金(既存株主からの取得) |
3社の協業として挙げられているのは、営業支援AIの提供、先進AIによるリサーチ・アナリスト機能、コールセンターへのAI活用、投資教育、業種を横断した資産運用支援、そしてWeb3金融インフラの研究だ。領域は広いが、いずれも金融機関向けのDX支援という一本の軸に乗っている。
投資判断として見るべき点:この取引はSBIホールディングスにとって規模が小さい。75億円は同社の事業規模に対して限定的で、株価への直接の影響は小さいと考えるのが自然だ。むしろ注視すべきは、ネオメディア構想に今後どれだけの資金が投じられ、それが金融本業の顧客獲得コストをどれだけ下げるかという点になる。
ミンカブ側では、売却代金の使途と譲渡益の計上時期が具体的な材料になる。有利子負債の圧縮がどこまで進み、金融情報事業の成長にどう振り向けられるかは同社の開示を待つ必要がある。
521年前に阻んだ相手を買う
最後に、この取引に付いてまわる文脈を整理しておきたい。SBIとライブドアには21年前の因縁がある。
2005年、ライブドアはニッポン放送の株式を大量に取得し、その持ち株構造を通じてフジテレビへの影響力を得ようとした。これを阻んだのがSBIだった。ニッポン放送が保有するフジテレビ株をSBIが借り受けることで、ライブドアの狙いは事実上封じられた。当時のSBI側は「ホワイトナイト」という位置づけを明確には認めなかったが、結果としてライブドアの前に立ちはだかった当事者である。
その後、旧ライブドアは2006年の証券取引法違反事件によって経営体制が崩壊し、事業は他社の傘下を経てLINEへ、さらにミンカブへと移った。したがっていまSBIが買うライブドアは、法人としては当時のライブドアと別である。ブランドと事業が生き残り、持ち主が変わり続けた結果として、21年前の相手のもとに行き着いた。
なお、SBI側からは当時の判断について、結果的に適切ではなかったという趣旨の発言があったとも報じられている。その真意をここで評価する立場にはないが、少なくとも今回の取得がメディアを敵ではなく資産として扱う姿勢の表れであることは、構想の中身から読み取れる。
投資家として意味があるのは物語ではなく構造だ。この21年で変わったのは、金融事業者にとってメディアが「経営権を脅かすもの」から「顧客接点として買えるもの」に位置づけ直されたという点だろう。今回の75億円という値段は、その位置づけの変化に付けられた価格でもある。
同じ資産の値段は、売り手と買い手の事情で付け替えられる。71億円から75億円という4年間の値上がりは小さいが、売る理由と買う理由が噛み合ったところで取引は成立する。
75億円のうち純資産で説明できるのは4.43億円だけ。残る約70.6億円は月間約1億人という接点に付いた値段で、1人あたり約75円に相当する。
ミンカブ株のストップ高は、子会社1社の売却額が親会社の時価総額を上回っていたことへの反応だった。ただし出来高は発行済の0.30%で、薄商いの値動きは市場の合意とは限らない。
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本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。



