ルクレ(648A)IPO分析|蔵衛門のストック化と初値シナリオ
IPO深掘り|ビジネスモデル分析
ルクレ(648A)IPO:買い切りソフトの老舗は「継続課金の会社」に変われるか蔵衛門のストック化を、製品別売上・KPI・キャッシュフローから解剖する
10月15日に東証グロースへ上場するルクレ。工事写真ソフト「蔵衛門」を28年売ってきた会社が、いま収益の軸を「売り切り」から「クラウドの継続課金」へ移している最中です。目論見書の数字を分解して、この会社が何で稼ぎ、転換がどこまで進んだのかを確かめます。
- 上場日10月15日(木)
- 市場東証グロース
- 仮条件1,390〜1,480円
- 吸収金額(OA含む)53.4〜56.8億円
- 時価総額132.1〜140.6億円
- 主幹事野村證券
この記事の要点
- 1稼ぎ頭は建設現場の工事写真を管理する「蔵衛門」で、売上の68.9%。専用端末の売り切りと、クラウドの月額課金の二本立てです。
- 2月額課金「蔵衛門プレミアム」の売上は1年で+72.0%。ストック売上比率は24.7%から38.2%へ上がりました。ただし約11万社の顧客基盤のうちクラウド契約は12,264社(11.1%)で、移行はまだ序盤です。
- 3保育・教育向け「みんなの写真屋さん」の+64.2%は、販売の主体が変わったことによる売上計上の変化が大きく、利用者数は+4.0%にとどまります。
- 4競合スパイダープラスより売上は小さい一方、営業利益率は19.8%対0.8%。仮条件上限の時価総額はPSR4.1倍で、同社(1.8倍)より高く評価されています。
- 5需給は重め。吸収金額は最大56.8億円、売出比率は85.0%です。2027年9月期の予想EPS(当ブログ試算90.3円)にPER16〜24倍を当てると、初値シナリオは1,445〜2,170円になります。
1何で稼ぐ会社か:写真で「現場」を記録する3つの事業
ルクレは1995年に富士通の社内ベンチャー制度から生まれた会社です(富士通との資本関係は2009年に解消済み)。建設、保育・教育、自動車整備のように、オフィスではなく「現場」での作業が中心の産業を同社はフィジカル産業と呼び、そこで発生する「写真で記録して、整理して、関係者に見せる」仕事をデジタル化しています。
報告セグメントは1つですが、顧客の業界ごとに3つの領域に分かれています。
| 領域 | 主なサービス | 2025年9月期売上 | 構成比 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 施工記録(建設) | 蔵衛門Pad・蔵衛門プレミアム・蔵衛門御用達 | 20.1億円 | 68.9% | +21.4% |
| 成長記録(保育・教育) | みんなの写真屋さん | 9.0億円 | 30.9% | +64.2% |
| 整備記録ほか | AITURBO(2026年6月開始) | 0.05億円 | 0.2% | — |
利益の大半を生んでいるのは施工記録です。成長記録は売上規模こそありますが、全社利益への貢献は限られると会社自身が説明しています。整備記録は立ち上げ段階で、月間処理台数は460件(2026年6月)から760件(同7月)へ増えたところです。
施工記録の中身:「入口」と「本体」
この会社を理解するカギは、施工記録の中にある3つの製品の役割の違いです。
- 蔵衛門Pad:粉じんや水濡れに強い現場用の専用タブレット。売り切りのフロー収益で、新しい現場に入り込む「入口」の役割。
- 蔵衛門御用達:1998年から売ってきた買い切りのPCソフト。これもフロー収益で、クラウドへ移ってもらう対象となる既存顧客の土台。
- 蔵衛門プレミアム:ID単位の定額課金で使うクラウド版。契約が続く限り毎月入るストック収益で、会社が最大の成長ドライバーと位置づける「本体」。
2買い切り→継続課金:赤字を挟んで進む「ストック化」
まず5年間の業績です。
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|
| 2021/9期 | 18.4億円 | 1.85億円 | 1.21億円 |
| 2022/9期 | 15.8億円 | −2.40億円 | −1.24億円 |
| 2023/9期 | 16.5億円 | −1.26億円 | −0.84億円 |
| 2024/9期 | 22.2億円 | 0.77億円 | 0.49億円 |
| 2025/9期 | 29.2億円 | 3.42億円 | 2.26億円 |
| 2026/9期 3Q累計 | 24.7億円 | 5.11億円 | 3.16億円 |
2022年・2023年9月期の赤字について、会社は「蔵衛門のライセンス販売を、買い切りから契約期間にわたって売上を計上するサブスク型へ切り替えたため」と説明しています。買い切りなら販売した瞬間に一括で立つ売上が、月割りで薄く計上されるようになるため、切り替え直後は売上と利益が一時的にへこみます。いわゆるJカーブです。
その谷を抜けたのが2024年9月期。2025年9月期は売上29.2億円、営業利益率11.3%まで回復し、2026年9月期も3Q累計(9か月)で売上24.7億円、営業利益4.95億円と、すでに前期通期を上回る利益を出しています。
図1の左を見ると、構図ははっきりしています。専用端末の蔵衛門Padは813百万円(−3.2%)、買い切りソフトの御用達も222百万円(−3.0%)と横ばい。伸びているのはプレミアム(765百万円、+72.0%)と写真屋さん(892百万円、+65.9%)です。端末は入口として数を保ち、課金の中心がクラウドへ移っていることが数字に表れています。
プレミアムのKPI:IDを「社内に広げる」モデル
- 有料ID数:62,923(2024年9月末)→ 95,157(2025年9月末、+51.2%)→ 122,380(2026年6月末)
- 契約社数:7,574社 → 10,763社 → 12,264社
- 1社あたりID数(当ブログ計算):8.3 → 8.8 → 10.0
- 月次解約率(企業単位で契約するプランの社数ベース、直近12か月平均):0.12% → 0.16%
- 1IDあたり売上(当ブログ試算):年約9,700円=月約810円
1IDあたり売上は、2025年9月期のプレミアム売上765百万円を期中の平均ID数で割った概算です。月800円前後と単価は小さく、勝ち筋は「契約社数を増やす」ことと「1社の中で使う人(ID)を増やす」ことの掛け算。1社あたりIDが8.3から10.0へ増えているのは、導入企業の社内で利用部門が広がっている証拠と読めます。解約率は0.12%から0.16%へわずかに上がりましたが、月次で0.2%を下回る水準は低いといえます。
足元の勢いも確認しておきます。ストック売上は2026年9月期の中間(6か月)で592百万円、3Q累計で946百万円なので、4〜6月の3か月だけで354百万円。これを4倍した単純な年換算は約14.1億円で、2025年9月期通期のストック売上(9.0億円)を大きく上回るペースです。
移行率は約11%——余地でもあり、リスクでもある
会社が示す顧客基盤は約11万社。これに対してプレミアムの契約社数は12,264社で、単純計算の移行率は11.1%です(顧客基盤は買い切り版の導入社数などを含む会社の数え方で、全社がクラウドに移る前提ではありません)。伸びしろが大きい一方、会社自身も、オフライン需要が残る中でクラウド移行が想定どおり進むかは不透明だとリスクに挙げています。上場後は、四半期ごとの契約社数・ID数・ストック比率がこの会社の「通信簿」になります。
3「写真屋さん」の+64%は割り引いて読む
成長記録の売上は2025年9月期に+64.2%と、施工記録(+21.4%)を大きく上回りました。ところが中身を見ると、年間の利用者数(YAU)は210,029人から218,481人へ+4.0%しか増えていません。伸びたのは利用者1人あたり売上(ARPU)で、2,620円から4,136円へ+57.9%です。
会社の説明によれば、ARPUが跳ねた主な理由は販売の仕組みの変更です。写真店が売り手でルクレはシステム利用料だけを受け取る「ASP型」から、ルクレ自身が売り手となって写真の販売代金を売上に計上する「プラットフォーム型」へ移行が進みました。同じ1枚の写真が売れても、ルクレの売上として計上される金額が大きくなる、という変化です。
実際、売上原価の外注費は693百万円から1,016百万円へ増えており、売上と一緒にコストも膨らんでいます。2025年9月期の増収額696百万円のうち、成長記録の増収が353百万円(約51%)を占めていました。全社の+31.3%増収のおよそ半分は、需要拡大というより計上方法の切り替えに支えられていた、と読むのが妥当です。
移行が一巡すればこの押し上げは剥落します。2026年9月期の会社予想が売上+19.0%へ減速しているのは、その表れとも考えられます。少子化という構造的な逆風もあり、成長記録は「安定した売上の土台」として見るのが現実的でしょう。
4前受け金がキャッシュを先に連れてくる
継続課金モデルのもう一つの利点は、お金の入り方です。年契約の代金を先に受け取り、売上は月々計上するため、貸借対照表に契約負債(前受け金)が積み上がります。その額は446百万円(2024年9月末)→ 658百万円(2025年9月末)→ 約905百万円(2026年6月末、当ブログ計算)と増え続けています。
この結果、2025年9月期の営業キャッシュフローは669百万円と、純利益226百万円の約3.0倍になりました。自己資本比率は36.6%と低めに見えますが、負債の大部分はこの前受け金で、借入金は2025年9月末時点でゼロです。「負債が多い」のではなく「先にお金をもらっている」構造だと理解しておくと、財務を読み違えません。
IPOで会社に入る資金(自己株式の処分とOAに伴う第三者割当の手取り)は、AIエンジニアなどの採用、記録AI「RecAI」やクラウド基盤の開発、本社増床、販促に充てる計画です。AI技術・システム開発への充当額は、仮条件決定時に約3.5億円へ増額されています。
5スパイダープラスと比べる:小さいが儲かる、そして高い
比較対象は、同じ東証グロースの建設DX銘柄スパイダープラス(4192)です。図面・工事写真・検査・帳票まで施工管理全体をタブレットで一元管理するSaaSで、大手ゼネコンやサブコンを顧客に持ちます。ルクレは工事写真の「記録」に特化し、現場用の専用端末を持つ点が違います。
規模ではスパイダープラスが上です。売上はルクレの約34.7億円に対し59.0億円、継続課金の規模を示すARRも、ルクレの10.7億円(2025年9月末)に対して同社は60億円(2026年12月期の目標)です。
一方、利益率は逆転します。ルクレの予想営業利益率19.8%に対し、スパイダープラスは0.8%。専用端末という売り切り商品を持ちながら利益を出せている点、R&Dを売上の約4%(2025年9月期122百万円)に抑えている点は、ルクレの強みです。
問題は値段です。仮条件上限の時価総額140.6億円は、すでにスパイダープラス(約104億円)を上回り、PSRは4.1倍対1.8倍。2027年9月期の予想売上で割っても3.4倍です。利益が出ている分、PER(2027年9月期予想で約16.4倍、後述)で説明しやすいのは確かですが、ストック比率がまだ4割弱の会社に、売上倍率で同業より高い評価を与えるかどうか。上場後の株価は、ストック化のペースがこの差を正当化できるかで決まってくるはずです。
6需給:売出85%・吸収56.8億円をどう見るか
公開株の内訳は、公募50万株(新株ではなく自己株式の処分)、売出284万株、オーバーアロットメント(OA)50.1万株です。売出株はすべて創業者・池田武史氏の個人保有株で、売出比率(OA除く)は85.0%。会社に資金が入る公募は、OAを含む公開株全体の13.0%にすぎません。仮条件上限で計算すると、創業者個人の売出代金は約42.0億円になります。
ただし創業家が丸ごと抜けるわけではありません。池田氏の資産管理会社TAK(380万株、OA用に株を貸すだけで売出しはなし)と親族の保有分を合わせた395万株は残り、上場後の議決権ベースで約45.7〜48.5%(当ブログ計算)。上場前の88.8%からは半分以下になり、会社は上場後に支配株主に該当しなくなる見込みと説明しています。
- ロックアップ:TAK、社長を含む役員・従業員株主、新株予約権を持つ17名が180日間(2027年4月12日まで)。届出書の記載には、株価が一定水準を超えたら解除という条件は見当たりません(主幹事の同意による解除はあり得ます)。
- 潜在株式:新株予約権が805,000株(発行済株式の8.5%)。行使価格は89円で、公開価格(上限想定)の約17分の1。ロックアップ明けの行使・売却は中長期の需給の論点です。
- オファリングレシオ:公開株数÷上場時発行済株式数は40.4%。
図3は、直近に初値がついた案件との比較です。吸収金額20億円未満の4社は初値平均+34.3%、20億円以上の4社は+5.5%と、規模が大きいほど初値の上昇は小さくなっています。グロース市場でルクレより吸収額が大きかったKOMPEITO(77.1億円)は公募割れ(−7.5%)、ルクレより小さいSkyfall(39.7億円)は+17.3%でした。社数が少ないので確率としては読めませんが、ルクレが「重い側」に属することは確かです。
一方、上場日の前後に大型案件が重なっていないことは、資金が分散しにくいという点でプラス材料です。
7初値シナリオ:PERで3本の線を引く
最後に、業績予想から初値の目安を試算します。2027年9月期の会社予想営業利益(約12.1億円)に法定実効税率35.43%を当てると純利益は約7.8億円。上場後の株式数(自己株式を除き、OA分を含む8,651,000株)で割ると、予想EPSは約90.3円です(新株予約権がすべて行使されると82.6円)。公開価格を仮条件上限の1,480円と仮定すると、2027年9月期PERは約16.4倍になります。
| シナリオ | 当てるPER | 株価 | 公開価格比 | 時価総額 | PSR(27/9期予) |
|---|---|---|---|---|---|
| 弱気 | 16倍 | 1,445円 | 0.98倍 | 137億円 | 3.3倍 |
| 基本 | 20倍 | 1,805円 | 1.22倍 | 171億円 | 4.1倍 |
| 強気 | 24倍 | 2,170円 | 1.47倍 | 206億円 | 4.9倍 |
弱気シナリオのPER16倍は、市場が公開価格にほとんど上乗せしない(≒公募価格近辺で決まる)ケースです。基本シナリオの20倍で1,805円(1.22倍)、強気シナリオの24倍で2,170円(1.47倍)。主要IPO情報サイトの初値予想(おおむね1,450〜2,100円)は、ほぼこの弱気〜強気の範囲に収まっています。
どのシナリオに寄るかを左右するのは、次の3点です。
- 10月5日の公開価格:仮条件の上限で決まれば需要の強さの表れ。下振れればシナリオ全体が下にずれます。
- グロース市場の地合い:同業スパイダープラスの株価は年初来で軟調です。
- 今期予想の達成度:3Q累計の進捗率は売上71.3%、営業利益72.1%(会社予想を当ブログで換算)。予想達成には7〜9月だけで売上約10.0億円・営業利益約1.9億円が必要で、4〜6月単独(売上8.5億円・営業利益2.0億円)より売上の積み増しが要ります。季節性を含め、上場日に公表される決算情報で確認したいポイントです。
まとめ:「良いビジネスへの転換途中」をいくらで買うか
ルクレは、買い切りから継続課金への転換を「途中まで」成功させている会社です。プレミアム売上+72.0%、1社あたりIDの増加、月0.1%台の解約率、積み上がる前受け金と、転換が進んでいる証拠は揃っています。
一方で、クラウド移行率は約11.1%、全社増収の約半分は写真屋さんの計上変更によるもので、ストック比率は38.2%。成長が続くかどうかは、上場後の四半期KPIで確かめる段階です。
IPOとしては、吸収金額と売出比率の大きさが初値の上値を抑えやすい構造。当ブログの基本シナリオは2027年9月期PER20倍の1,805円で、公開価格の決定と地合い次第で1,445〜2,170円の幅を想定しています。
本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を勧めるものではありません。初値シナリオは会社予想と一定の仮定に基づく当ブログの試算で、将来の株価を保証するものではありません。出典:株式会社ルクレ 有価証券届出書(2026年9月8日提出)および仮条件決定に関する開示、スパイダープラス株式会社 決算短信・株価情報、Postation「注目IPO一覧」ほか。数値は2026年10月2日時点。IPOへの申込みは目論見書をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。
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本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。




