
2026年2月20日
「フィジカルAI」という言葉が、投資界隈でにわかに注目されています。きっかけは2025年12月のファナック(6954)とNVIDIAの協業発表。発表直後にファナック株は急騰し、安川電機・川崎重工業なども連れ高しました。ただ、急騰後の冷却も早かった。今回は、このテーマについて事実ベースで整理したうえで、投資家として何を見るべきかを考えます。
そもそも「フィジカルAI」とは何か
フィジカルAIとは、テキスト・画像生成のようなデジタル空間に閉じたAIではなく、物理空間でAIが自律的に判断・行動することを指します。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが2025年を通じて繰り返し強調してきたキーワードで、産業用ロボット・自動運転・物流自動化などが主な適用先として想定されています。
従来の産業ロボットは、あらかじめプログラムされた動作を高精度で繰り返す「定型作業の自動化装置」でした。フィジカルAIが目指すのは、センサーで環境を認識し、状況に応じて判断し、指示がなくても動き続けるロボットです。現時点では研究・実証段階のものが多く、製造現場への本格普及はこれからです。
ファナックとNVIDIAの協業:何が発表されたか(事実確認)
2025年12月1日、ファナックはNVIDIAとの協業を正式発表しました。発表内容は大きく3点です。
① NVIDIA Jetsonの搭載によるフィジカルAIアプリケーション開発
ファナックのロボットにNVIDIAの組み込みコンピュータ「Jetson Thor」とNVIDIAのAIインフラを搭載し、フィジカルAIアプリケーションを共同開発します。同月3〜6日に東京ビッグサイトで開催された「2025国際ロボット展(iREX2025)」では、人間が言葉で指示を出すと動作するデモが実際に公開されました。
② NVIDIA Isaac Simへの正式対応=デジタルツインの実用化
NVIDIAのシミュレーションフレームワーク「Isaac Sim」(Omniverseライブラリ基盤)に正式対応し、ファナック自社の「ROBOGUIDE」と統合しました。仮想工場でロボットを動かしながらAI学習用データを生成・シミュレーションし、その結果をそのまま実機に適用できる「デジタルツイン」の仕組みです。
③ ROS 2ドライバのオープンソース公開(最大のサプライズ)
市場が最も驚いたのはこの点です。長年「閉鎖的」と評されてきたファナックが、自社ロボットを操作するROS 2(ロボット向けオープンソースプラットフォーム)専用ドライバをGitHubに公開しました。さらにPython対応も表明。世界中の研究者・スタートアップがファナックのロボットを使ってフィジカルAIを開発できる環境が整います。
「フィジカルAIの脳とも言える生成AIの勝者はまだ決まっていない。オープン化によって、どのAIであっても対応でき、世界最高のAIを載せるという活路が見えてきた」
── 岡三証券・諸田利春シニアアナリスト(日経ビジネス 2025年12月18日)
株価の反応:急騰後は冷却も
協業発表翌日の2025年12月2日、ファナック株は一時前日比8.8%高の5,479円まで上昇し、2021年7月以来の高値を記録しました(Bloomberg報道)。安川電機・川崎重工業も12月前半のわずか半月で軒並み2割超の急騰を記録しています(日経ビジネス報道)。
ただし、その後は利益確定売りや市場全体の調整を受けて株価は落ち着いており、2026年2月現在の水準は高値から見てかなり修正されています。期待先行で動いた相場が、現実的な評価を模索している状況です。
周辺の動き:エコシステム全体の広がり
ファナック×NVIDIAだけが動いているわけではありません。関連するいくつかの動きも確認しておきます。
- 安川電機×ソフトバンク:フィジカルAI実装に向けた協業を発表。AIロボットの社会実装を共同で推進。
- ソフトバンクG×ABBロボティクス:ABBのロボティクス事業を約53億7,500万ドル(約8,187億円)で買収。フィジカルAIを事業の柱に据える姿勢を明確化。
- 国産ヒューマノイドロボット開発アライアンス:2027年内の量産を目指すと表明。
- 日立×NVIDIA:NVIDIAのリファレンスアーキテクチャを活用した「AI Factory」を構築し、フィジカルAIソリューション開発を加速。
投資テーマとして見るための視点
ファナックの基礎体力
ファナックは山梨県忍野村に本社を置き、NC(数値制御)装置で世界シェア約50%・国内約70%を誇ります。産業用ロボットの累計出荷は100万台超。Apple・Samsung・Teslaの生産ラインにも同社のロボットが使われています。財務面では自己資本比率が高く(約89%水準)、無借金経営に近い状態が長年続いています。
今回のNVIDIA協業は「単なる機械メーカー」から「AIプラットフォームの一翼を担う存在」への再評価につながる可能性を秘めています。ただし、NVIDIAはすでに安川電機やユニバーサル・ロボット(デンマーク)など競合メーカーとも提携しており、ファナックだけが特別な独占関係にあるわけではありません。
社会的な背景(構造的な追い風)
人手不足と賃金上昇は日本だけでなく世界的な課題です。製造業の自動化ニーズはより複雑な工程への対応を求めており、従来の「プログラムされた定型動作」では限界があります。フィジカルAIが解決しうる課題の範囲は大きく、長期的な需要の伸びは見込めます。
冷静に見ておくべきリスク
① 実用化までの時間軸の不確かさ
今回の協業で公開されたのはデモレベルのアプリケーションです。製造現場での本格稼働・量産ラインへの組み込みは、品質保証・安全基準の整備も含めてまだ時間がかかります。テーマ株は「期待で上がり、現実で下がる」パターンが多く、時間軸の読み誤りは損失につながります。
② 株価が既に期待をかなり織り込んでいる可能性
急騰直後のファナックのPERは37倍超と同社の歴史的平均を上回っていました。足元は修正されているものの、業績の裏付けが追いつくまでは「割高感」が残ります。
③ 中国依存リスク
ファナックの売上に占める中国の比率は高く、景気減速・地政学的緊張・為替変動が業績に直結しやすい構造です。
④ 競合の存在
ABB・クカ(Kuka)など欧州勢、テスラのOptimus(ヒューマノイドロボット)、さらにはAmazon・Google系のロボティクス企業など、グローバルな競合は多岐にわたります。ROS 2のオープン化は「参入障壁を下げる」側面もあります。
まとめ
フィジカルAIは確かに技術的な方向性としてリアルです。ファナックがNVIDIAと組み、長年の「閉鎖路線」を転換してオープン化に踏み切った意義は小さくありません。ただし、それが株価に反映されるタイミングは別の話です。
急騰後の調整を経て、現在は「もう一度テーマとして見直す価格帯かどうか」を検討する局面に入っています。期待と現実の乖離を冷静に測りながら、関連銘柄の業績・受注動向・NVIDIAとの協業進捗を継続的に追っていくことが重要です。テーマ株への乗り方は「全力投入」ではなく、「分散しながら段階的に」が原則です。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任のもとで行ってください。
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