
2026年2月18日
企業分析・国内株式・自動車業界
はじめに:「世紀の握手」から1年、何が変わったか
2025年2月13日、ホンダと日産は経営統合協議の打ち切りを正式に発表した。わずか数か月前に「年間販売800万台の巨大連合」として世界の注目を集めた「世紀の握手」は、あっけなく幕を閉じた。あれから丸1年が経過した今、両社はそれぞれ異なる道を歩んでいる。しかし自動車産業を取り巻く環境は、あの日より一層厳しさを増している。
今回は、破談の真相を経営・組織の視点から深掘りするとともに、投資家として今後の日本自動車株をどう見るべきかを考えてみたい。
破談の3つのポイント:ホンダのプレスリリースが語った真実
ホンダが発表したプレスリリースには、破談の理由として次の3点が明記されていた。
- 意思決定・経営施策実行のスピードを優先するため、経営統合を見送る
- 共同持株会社体制から、株式交換によりホンダを親会社・日産を完全子会社とする体制に変更を提案した
- 戦略的パートナーシップの枠組みで引き続き連携しながら、新たな価値創造を目指す
この3点は表向き穏やかな言葉で包まれているが、行間を読めばホンダ側の本音がにじんでいる。「もう対等な話し合いは終わり。日産は子会社になれ」——これが事実上の最後通牒だった。
2025年2月13日の記者会見でホンダの三部社長も意思決定のスピードの問題を強調している。日産にとって完全子会社化の提案は到底受け入れられるものではなく、態度を硬化させたのも無理はなかった。
数字が語る「日産の病巣」:52人の役員と3000億円の赤字
なぜホンダがここまで強硬な姿勢に出たのか。その答えは日産の組織構造にある。
有価証券報告書を遡ると、衝撃的な事実が見えてくる。カルロス・ゴーン体制が始まった2000年度、日産の執行役員数は29人だった。それがゴーン体制終了後の2019年度には49人(約7割増)へ膨らみ、経営統合の話が持ち上がった時点では52人にまで増えていた。20年間で執行役員の数がほぼ倍増したのだ。
「船頭多くして船山に登る」——この言葉がそのまま当てはまる組織だったといえる。役員が増えるにつれて派閥争いや事なかれ主義が蔓延し、意思決定は遅れ、責任の所在は曖昧になる。その結果、日産は約3000億円もの赤字を計上することになった。
ホンダの財務状況と比較すると、この差はさらに際立つ。ホンダは売上高20.4兆円、営業利益1.38兆円という盤石な財務基盤を誇っていた。体力のある会社が、膨大な負債と組織の機能不全を抱えた企業を「対等」として迎えることへの現場の反発は、むしろ自然な反応だったかもしれない。
「日産に改革力はあった」——破談後に判明した皮肉な事実
破談から3か月後の2025年5月、日産は驚くような改革案を発表した。固定費と変動費合わせて5000億円の削減、人員2万人削減、車両生産工場を17から10に絞り込む——統合交渉時には出てこなかった、踏み込んだ内容だった。
これは何を意味するのか。日産には自ら改革する能力があったということだ。問題は、統合交渉のさなかには経営陣がその決断を下せなかった点にある。1か月という交渉期間が短すぎたのか、それとも当時の経営陣に決断力が欠けていたのか。いずれにせよ、「時間があれば日産は変われた」という逆説が成立してしまう。
さらに2025年3月、日産は従来の執行役員制度を廃止して「執行職(非役員)」に切り替え、ポジションを2割削減している。破談をきっかけに、組織のスリム化が一気に進んだのだ。
「量から知能へ」——2026年の自動車産業が直面する本当の競争
破談後1年が経過した今、自動車産業を取り巻く競争の構図は大きく変わっている。
かつて自動車メーカーの強さは「台数」で測られた。年間何百万台を売るか、どれだけのシェアを持つか。しかし2026年の競争軸は「量」から「知能」へと移りつつある。車載OSの主導権、AIを活用した自動運転技術、ソフトウェア定義車両(SDV)への移行——これらにどれだけ投資できるか、どれだけ速く開発できるかが、これからの勝者を決める。
この観点でいえば、ホンダと日産の統合破談の核心は「OSの非互換性」にあったとも言える。両社が積み上げてきたソフトウェア・電子系の設計思想が根本的に異なり、「対等な統合」では擦り合わせに膨大な時間とコストがかかることが見えていた。だからこそホンダは「子会社化」による指揮命令の一元化を求めたのだ。
今後の展開:「再統合」か「機能別連携」か
現在、両社は「戦略的パートナーシップ」の枠組みで部分的な連携を継続している。統合の話が再び持ち上がる可能性はゼロではない。ただし、その場合の条件は「全機能統合」ではなく「機能別連邦」——調達・開発・生産の特定機能を共有しながら、ブランドと意思決定は独立させる形になると見られる。
また、2024年に浮上した台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の日産への関心も、水面下では続いている可能性がある。ホンハイはEV事業拡大のため日産の製造基盤を取り込みたい意向があるとされており、今後の日産の業績次第では再び注目が集まる可能性もある。
投資家の視点:日産株・ホンダ株をどう見るか
ホンダ(7267)
統合を回避したホンダは、リスクを排除したともいえる。ただし単独での戦略にも課題はある。SDV・EV分野への大規模投資が必要な中、開発費の圧縮は待ったなしだ。ホンダが日産にHVエンジン供給を検討しているとの報道もあり、「全面統合」ではなく「技術供与」という形での実利的な関係構築を模索していると読み取れる。業績の安定感はあるが、電動化投資の重さが今後の焦点になる。
日産(7201)
破談後の改革は着実に進んでいる。2万人削減・工場10拠点への集約という大胆なリストラ計画が実行されれば、固定費構造は大きく改善する可能性がある。しかし今期も最終赤字が見込まれており、内田社長の退任も濃厚との報道がある中、経営の安定性への不安は拭えない。中国・北米市場での販売回復が遅れれば、さらなる資本調達が必要になる局面もある。現時点では「改革の進捗を見守りながら判断」が基本スタンスだろう。
セクター全体として
トヨタを除く日本の自動車メーカーが単独での生き残りに苦しむ構図は変わっていない。競争の軸が「量から知能へ」移る中、部品サプライヤー(デンソー、アイシン等)の再編加速も視野に入ってくる。「完成車メーカー株」よりも「次世代技術を持つ部品・ソフトウェアサプライヤー株」に妙味が出てくる可能性もある。
まとめ:「破談」は終わりではなく、始まりだった
ホンダ・日産の統合破談は、単なる企業間のすれ違いではなかった。それは日本の大企業が長年抱えてきた「組織の硬直化」「意思決定の遅さ」「ブランドへのプライド」という構造問題を、白日の下にさらした出来事だった。
破談から1年、日産は痛みを伴いながらも変化している。競争の軸が「量から知能へ」移るこの転換期において、両社がどのような形で次の一手を打つのか——2026年の自動車業界は、まだまだ目が離せない。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任のもとで行ってください。
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