
「造船ニッポン」復活への国家戦略
——官民1兆円基金・日米協業・業界再編が重なる今、何が起きているのか
「転落」の歴史——シェアは最盛期の約5割から8%まで崩落
日本は1950年代後半以降、新造船建造量で長年世界首位を維持してきた。1990年代初頭には世界建造量の約40〜50%を占めていたが、オイルショックによる需要縮小、プラザ合意後の急激な円高、そして2000年代以降の韓国・中国による大規模な政府補助金を背景とした台頭によって、その座を明け渡した。
国土交通省の資料によれば、2024年の日本の建造量シェアは約8%にとどまり、ピーク時の5分の1以下に落ち込んでいる。一方、中国は世界の新造船建造能力の過半を握る。貿易量の99.6%を海上輸送に依存する島国・日本にとって、造船業の衰退は経済安全保障上の重大なリスクを意味する。
政府が動いた——「造船業再生ロードマップ」と官民1兆円基金
最大の変化は政策面だ。政府は2025年11月21日に閣議決定した総合経済対策で、造船をAI・半導体などと並ぶ成長戦略の17重点分野の一つに指定。その後、2025年12月26日に「造船業再生ロードマップ」を正式に公表した。
ロードマップが掲げる2035年の目標は明確だ。建造量を現在の900万総トンから1,800万総トンへと倍増させ、日本船主の需要を国内でまかなえる体制を整える。達成のための官民投資は計1兆円規模で、政府が3,800億円(うち「造船業再生基金」として10年間で3,500億円規模)、民間が3,500億円規模を担う。フェーズは自動化・省力化(2026〜2028年)、施設新設・拡大(2029〜2031年)、建造能力フル稼働(2032〜2034年)の3段階で進む。
また、自民党の造船業再生に向けた検討会が2025年6月に「造船業が滅べば国も滅ぶ」と緊急提言を行い、政府・自民が国立造船所の新設・再建を含む政策パッケージ策定を本格検討していることも明らかになっている。国土交通省は2026年2月20日、「造船ワーキンググループ」の第1回会合を開催し、官民投資ロードマップの具体化に向けた議論を開始した。2025年度補正予算にはフェーズ1の着手資金として1,200億円が計上されている。
トランプ政権が生んだ「千載一遇のチャンス」——日米造船協業の全貌
もう一つの大きな追い風が日米関係だ。2025年10月のトランプ大統領来日に合わせ、日米両政府は造船業の建造能力拡大・共同開発などに関する「協力覚書」を締結。衰退した米国造船業の復活に日本が協力するという構図だ。自民党海運・造船対策特別委員会の石田真敏委員長は「千載一遇のチャンス」と語り、協力を奇貨とみる姿勢を示した。
対米80兆円投資の対象分野にも造船が含まれ、日本の設計・部品を活用したブルーアンモニア船や自動車運搬船の共同製造、日米企業による米国での修繕ドック整備も支援する「日米造船業再生ファンド」の設立も検討されている。トランプ政権が中国排除を推進する中、信頼できる同盟国である日本の立ち位置が、造船分野でもプラスに働いている。
業界再編の衝撃——今治×JMUが「世界4位」造船グループへ
政府の後押しを受けて業界再編も加速した。国内造船最大手の今治造船(非上場)は2026年1月5日付で、国内2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化した。JFEホールディングスとIHIが保有するJMU株をそれぞれ15%取得し、出資比率を30%から60%に引き上げた。
⚙️ JMU(国内2位)
- 建造量:141万総トン(世界12位)
- 得意分野:護衛艦・砕氷船など官公需船、環境対応高付加価値船
- 財閥系重工(JFE・IHI)の造船部門が源流
- 「技術で勝つ力」に強み
両社の建造量を合計すると469万総トンとなり、韓国ハンファオーシャン(370万総トン)を抜いて世界4位、国内シェアは50%超に達する。今治の檜垣幸人社長は「世界でプレゼンスがなくなるのではないかという危機感」を背景に挙げ、「日本の経済安保として物流を担う船を日本で作り、日本で持つ体制を作るのが我々の使命」と語った。両社はLNG運搬船建造の実現可能性調査(FS)にも着手しており、高付加価値分野への展開も見据える。
直近の主要イベント年表
なぜ「今」なのか——需要・安保・環境規制が交差する最良の地合い
業界関係者の間では「2026年から新造船受注がピークに入る」とも言われる。背景は三つある。第一に既存船の大規模リプレース需要だ。1990〜2000年代に大量建造された船齢20〜30年以上の老朽船が更新時期を迎えており、造船所の受注残は急増している(JMUの2025年3月期受注高は前年比1.5倍の7,202億円、過去最高)。第二にIMOの脱炭素規制だ。2027年以降に強化されるCO2排出規制への対応として、アンモニア・LNG・メタノール燃料船などの次世代船への切り替え需要が膨らんでいる。第三に地政学リスクによるサプライチェーン多様化だ。米中対立の深化が中国造船所への依存を見直す機運を高め、同盟国の日本に発注をシフトする動きが出始めている。
投資家が注目する関連銘柄——本命から「隠れ恩恵」まで
造船関連の上場銘柄は広範にわたる。会社四季報の「船舶」テーマには74銘柄がリストされており、船体メーカーだけでなく、エンジン・塗料・電子機器・鋼材・バルブなど、川上から川下まで多彩な投資機会がある。
| 銘柄名 | 証券コード | カテゴリ | 投資ポイント |
|---|---|---|---|
| 三菱重工業 | 7011 | 大手重工 | 防衛・宇宙・造船の複合テーマ。三菱造船を100%子会社として保有。LNG船・艦艇の高付加価値分野に強み。 |
| 川崎重工業 | 7012 | 大手重工 | 造船事業に加え船舶用ガスエンジン・ボイラーを手掛ける。水素エネルギー輸送でも業界先行。 |
| 名村造船所 | 7014 | 造船中堅 | 大型タンカー〜バラ積み船まで幅広く手掛ける準大手。25年3月期末の新造船受注残は前年比27%増の3,941億円と好調。国策の直接受益銘柄。 |
| 三井E&S | 7003 | エンジン | 旧三井造船。船舶用ディーゼルエンジンで国内首位、アンモニア二元燃料エンジンで世界先行。港湾クレーンでも世界有数。2025年3月期の船舶推進システム部門受注高は前年比44%増。 |
| ジャパンエンジンコーポレーション | 6016 | エンジン | 船舶用ディーゼルエンジン専業。独自技術のライセンス供与で中韓メーカー向けにも大躍進。2026年に水素燃料エンジンの開発完了・実証開始を予定。 |
| 中国塗料 | 4617 | 塗料 | 船舶用塗料で国内シェア6割・世界第2位。世界20カ国・約60拠点で展開するストック型ビジネスモデル。新造船増加のみならず、既存船の定期塗替えでも安定収益を確保。 |
| 古野電気 | 6814 | 舶用電子 | レーダー・電子海図など舶用電子機器で世界有数。経済安保推進法に基づく「ソナー」認定企業として政府支援の直接対象。新造船増加で搭載機器の需要が連動拡大。 |
| 日本製鉄 | 5401 | 鋼材 | 造船に不可欠な高強度・軽量の高機能鋼材を供給。環境対応船・大型船向けに高付加価値鋼材の需要が増加。建造量倍増計画が進めば、鋼材需要も連動する。 |
投資家が押さえるべきリスクと課題
期待先行テーマの宿命として、冷静なリスク評価も欠かせない。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| ⏱ 長い業績反映ラグ | 造船は受注から引渡しまで2〜3年を要する。ロードマップのフェーズ2(施設新設)が2029年〜、フェーズ3が2032年〜のため、業績への本格的な恩恵は数年先になる可能性が高い。短期の株価は期待値で動きやすく、過熱に注意。 |
| 👷 深刻な人材不足 | 造船は夏場の酷暑・屋外作業など労働環境が過酷で、高齢化・人手不足が業界最大の構造課題。1兆円基金の効果がロボット化・自動化に向かうとしても、熟練溶接工の育成には時間がかかる。 |
| 🔩 コスト高騰リスク | 船価の約7割を占める鋼材・舶用機器の材料費は、受注後に調達するため物価上昇局面では利益が圧迫される構造的脆弱性がある。円高転換や資源価格高騰は業績の下振れ要因。 |
| 🇨🇳 中韓の反撃 | 中国は現在でも建造能力において圧倒的なシェアを持ち、国家補助を背景としたコスト競争力は維持されている。韓国大手も再編や技術投資を続けており、シェア奪還は容易でない。 |
| 🏛 政策継続リスク | ロードマップは現政権の成長戦略に基づく。政権交代や財政的制約によって支援の規模・速度が変わるリスクは否定できない。また日米協力も両国の政治情勢に左右される側面がある。 |
まとめ——「10年スパン」の国策テーマとして正面から向き合う時
日本の造船業には、①政府ロードマップによる官民1兆円の長期投資、②日米安全保障・経済安全保障の文脈での戦略的位置づけ、③今治×JMU統合による業界再編の加速、④老朽船リプレース・脱炭素規制による実需の高まり、という四つの要因が同時に重なる、きわめて稀な局面を迎えている。
2026年2月20日に始動した「造船ワーキンググループ」の議論が具体化する春以降、関連銘柄への資金流入が再加速する可能性がある。造船本体株は非上場企業が多いため、エンジン(三井E&S、Jエンジン)・塗料(中国塗料)・電子機器(古野電気)・鋼材(日本製鉄)といった川上・周辺領域の上場企業が、実質的な「造船復活銘柄」として機能しやすい点も覚えておきたい。楽天証券の西グローバルアナリストが指摘するように「事業の一部に造船関連がある企業や小さな会社では、まだ十分に上がっていない銘柄もある」という視点も参考にしたい。
短期の株価変動に一喜一憂せず、2035年を視野に入れた10年スパンの国策テーマとして、ポートフォリオの中でどう位置づけるかが問われる時代が来ている。
次回は「脱炭素×造船」の視点から、アンモニア・水素・LNG対応の次世代船舶エンジン分野に特化した投資機会を掘り下げます。三井E&S・Jエンジンの技術動向を中心に解説予定です。ぜひ購読・ブックマークを。
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日本経済新聞 電子版(日経電子版) @nikkei
中国、軍民両用品の対日輸出禁止 三菱造船など日本の20社・団体対象 nikkei.com/article/DGXZQO… pic.x.com/DQvgWRb1rm
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anita wuttke @anitawuttke
日本郵船 商船三井 川崎汽船 名村造船所 内海造船 海運・造船は 市況連動で急変動。 流れが合えば 二段・三段上も。 想定株価: 600円台 → 3万5,000円レンジ視野。 市況と需給を 継続観察中。 #日本株 #注目銘柄 #株式投資 #相場観察
(出典 @sakuratasty)
錯乱風味 @sakuratasty
返信先:@kboc3g 私は三井も名村も売ってしまったので、造船を辛抱強く持っているのは凄いと思います
(出典 @akipop2004)
AKI @akipop2004
建造に高い技術が必要で船価が高いLNG(液化天然ガス)運搬船については、日本では19年を最後に造られておらず、韓国が世界シェアの大半を握っている。 やはり時代は韓国造船!
(出典 @H2_Info_JP)
H2_Information_JP🇯🇵 @H2_Info_JP
三菱造船が舶用アンモニア燃料エンジン向けの燃料供給装置とアンモニア処理装置の初号機を出荷。これは海運業界の脱炭素化とアンモニア燃料船の実用化に大きく貢献する重要な一歩です。 詳細はこちら: mhi.com/jp/news/260224… #Hydrogen #水素 #水素エネルギー #H2 #脱炭素 #GX #アンモニア燃料
(出典 @80Ug0VWAD536982)
りゅうのすけ @80Ug0VWAD536982
今月のPF +6.3% 年初PF15.2% SBIリーシング (評価額順) ケイアスター不動産 三井E &S ポート コロンビアワークス JFE ミライトワン 三井住友銀行 第一製薬 エフコート レント 韓国海洋造船 三井海洋開発 パワーエックス 三菱重工
(出典 @Khritenzama)
占展望(せんてんぼう) @Khritenzama
この手の「USNは海外製の艦を輸入しライセンス生産せよ」論は大抵バイ・アメリカン法の存在や米国造船業界の窮状を都合よく無視しているのが不思議でならない 輸入>バイ・アメリカン法がある以上無理 国内製造>退社率100%超、低熟練度、従業員の薬物汚染 x.com/EurasiaNaval/s…
(出典 @kiyokiyo0622)
シングルマン @kiyokiyo0622
返信先:@pride_to_jpn これのどこが高度人材?普通にブルーワーカーじゃん? 【特定二号対象分野(11分野←岸田政権が拡大)】 ビルクリーニング 工業製品製造業(旧:素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業) 建設 造船・舶用工業 自動車整備 航空 宿泊 農業 漁業 飲食料品製造業










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